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ブックレビュー ロバート・マッキー著『ストーリー』(14)第4部 脚本の執筆 敵対する力の原則

『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』のレビュー第十五回を投稿します。
(各回をまとめたマガジンはこちらです。)

※ こちらのレビューは、非常に内容が濃い本書を私なりにまとめた「概要」です。
興味をお持ちになった方は、ご購入の上、本レビューを副読本的にお読みになることをお勧めします。

第4部 脚本の執筆
14 敵対する力の原則

敵対する力の原則――主人公とそのストーリーは敵対する力があってこそ、知的好奇心をそそり、感情を揺さぶるものとなる。
(P380より引用)

主人公を実在感があって重層的な、深い共感を呼ぶ人物にするものはなんだろうか。
退屈なシナリオに命を吹きこむものはなんだろうか。
このふたつの問いに対する答えは、ストーリーのマイナス面にある。
(P380より引用)

ストーリーの発端である「契機事件」が起こると、観客は主人公の意志の力や知性、社会的立場などを、敵対する力と比較する、と著者は言います。
この比較の結果、主人公は圧倒的に不利に見えていなくてはならず、観客に「主人公が問題解決を目指すのは、無謀な挑戦だ」と感じさせなければなりません。
それが、主人公に実在感を与え、観客が満足するクライマックスを作ることに繋がるのです。


【ストーリーを極限まで展開させて登場人物を追いつめる】

あなたのストーリーは、マイナスの力がとても強く、プラス側がそれをしのぐ何かを手にしなくてはどうにもならない状況にあるだろうか。
ここからは、脚本をみずから分析してこの重要な問いへの答えを見つけるために、その手引きとなる技法を説明する。
(P382より引用)

著者は最初に、ストーリーの価値要素を「正義」とした場合の例を述べています。
「正義」という価値要素に対して、主人公はプラス側、敵対する力はマイナス側にあるとしましょう。

マイナスにも、さまざまな度合いがあります。
プラス側の正反対にある「対極」は「不法」、つまり法が守られない状態です。

また、プラスの価値要素(正義)と対極の価値要素(不法)のあいだには、「相反」があります。
「相反」は、「マイナスではあるが、対極とまでは言えない状態」を指します。

著者によれば、「正義」の相反は「不公正」。
「不公正」は悪いことではありますが、法に反するわけではありません。
具体例としては、縁故主義、お役所仕事、さまざまな偏見などが挙げられます。

さらに著者は、「対極」を超える、「極限」という状態が存在すると言います。
著者の言う「極限」は「二つのマイナスが重なった状態」のこと。
これを著者は「マイナス中のマイナス」と呼んでいます。

「正義」をプラスとするならば、「マイナス中のマイナス」は「暴虐」。
「暴虐」は、例えば独裁政権下のような「権力こそが正義」とされる状態を指します。
独裁政権下の「暴虐」は、法治国家における「不法」を超えるより悲惨な状態と言えます。

 葛藤の大きさや深さにおいて、登場人物の経験しうる極限までストーリーを展開するためには、「相反」、「対極」、「マイナス中のマイナス」というパターンをたどらなくてはならない。
(P384より引用)

例えば『刑事コロンボ』の場合、刑事である主人公は「正義」という価値を体現しています。
コロンボは、「政治家の圧力で捜査からはずされる」といった「不公正」に直面しつつも奮闘し、やがて犯罪という「不法行為」を起こした「敵対する力」を打ち負かします。
このように犯罪ドラマでは、マイナスの価値要素が、「対極」を超えた「マイナス中のマイナス」にまで至ることはほとんどない、と著者は言います。


一般的な犯罪ドラマの比較対象として、著者は映画『ミッシング』を挙げています。

『ミッシング』の主人公・アメリカ人のエド・ホーマン(ジャック・レモン)も「正義」を体現する人物です。
エドは、南米チリでクーデターのさなかに失踪した息子を探します。
第一幕のエドは、捜索を思いとどまらせようとする米国大使から正確な情報を得ることができません。(相反:不公正)

第二幕のエドは、軍事政府が米国務省とCIAと共謀して息子を殺害していたことを知ります。(対極:不法行為)

第三幕のエドは、犯罪者を罪に問う望みを絶たれてしまいます。(マイナス中のマイナス:暴虐)

このようにしてストーリーを極限まで展開させて、登場人物を追いつめているわけです。


主人公が「正義」以外の価値要素を体現している場合にも、「相反→対極→マイナス中のマイナス」という「三段階のマイナス」を展開することができます。

例えば価値要素が「愛」の場合は、
相反:無関心

対極:憎しみ

マイナス中のマイナス:自己への憎しみ

「自己を憎む主人公には、生きることそのものが地獄になる」と著者は述べており、その例として『罪と罰』のラスコーリニコフを挙げています。


価値要素が「真実」の場合は、
相反:罪のない一部だけの真実

対極:嘘

マイナス中のマイナス:自己欺瞞

この例として著者は、『欲望という名の電車』のブランチ(過酷な現実に耐えかね、自分自身をも騙しながら生きる女性)を挙げています。


価値要素が「富」の場合は、
相反:中産階級

対極:貧困に苦しむ貧者

マイナス中のマイナス:貧困に苦しむ富豪

この例として著者は、『ウォール街』のゲッコー(大富豪でありながら、飢えた盗人のように振る舞い、金を求め続ける人物)を挙げています。


すぐれた脚本家は、正反対の価値程度ではまだ人間の体験の極限に達しないことを理解している。
相反や対極の状況でストーリーが終わるようでは、毎年何百本と作られる映画の仲間入りだ。
(中略)
たとえ観客がそれなりに満足したとしても、マイナス中のマイナスが描かれない映画が傑作と呼ばれることはない。
(P403より引用)

まず、どんな価値が危機に瀕しているのか、それをどう展開するかをいま一度考えてみよう。
ストーリーのプラスの価値要素は何か。
そのなかのどれがいちばん重要で、ストーリー・クライマックスを動かすのか。
敵対する力はどのようなマイナスの形をとるのか。
どこかの時点でマイナス中のマイナスの力を持つに至るのか。
(P404より引用)

☆「第4部脚本の執筆 15明瞭化」に続く

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※このブックレビュー全体の目次は以下の通りです。
第1部 脚本家とストーリーの技術
(1)ストーリーの問題

第2部 ストーリーの諸要素
(2)構成の概略
(3)構成と設定
(4)構成とジャンル
(5)構成と登場人物
(6)構成と意味

第3部 ストーリー設計の原則
(7)前半 ストーリーの本質
(7)後半 ストーリーの本質
(8)契機事件
(9)幕の設計
(10)シーンの設計
(11)シーンの分析
(12)編成
(13)重大局面、クライマックス、解決

第4部 脚本の執筆
(14)敵対する力の原則
(15)明瞭化
(16)前半 問題と解決策
(16)後半 問題と解決策
(17)登場人物
(18)ことばの選択
(19)脚本家の創作術

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