ブックレビュー『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』(2)

『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』のレビュー第二回を投稿します。
(各回をまとめたマガジンはこちらです。)

本書は、これまでに私が読んできた作劇を学ぶための本の中でも非常に実践的で濃密だと感じています。
それだけにレビューも簡単にまとめることができず、長文になってしまいますが、この本のエッセンスをお伝えし切れているとは言えません。

今後も1章ごとにレビューは続けて行きますが、あくまで、私なりにまとめた概要でしかありませんので、まずはこのレビューを入り口にこの本に興味を持っていただき、購入後は副読本的にお読みいただくことをお勧めします。

第2部 ストーリーの諸要素
2 構成の概略

【構成とは?】

ひとりひとりの登場人物の人生の物語は、ほんの一瞬から永遠まで、頭のなかから銀河系まで、百科事典並みの多様さを持っている。巧みな作り手は、そこからわずかな瞬間を切りとって、全人生をわれわれにみせてくれる。(P44より引用)
「構成」とは、登場人物の人生のストーリーから、いくつかの出来事を選んで戦略的に配列し、いくつかの感情を呼び起こしたり、ある種の人生観を表したりすることを言う。(P46より引用)

例えば長編映画なら、一般的な長さは二時間。
この中で、一人の人間の誕生から死までのすべての出来事を描くことはできません。
そこで書き手は、「どの出来事を、どのような順序で描くか」を熟考し、その選択と配列によって観客の心を動かそうとします。
これがストーリーの「構成」というわけです。

「ストーリーを左右する出来事」は、登場人物の人生に意味のある変化をもたらす。
その変化は「価値要素」として表現され、体験される。(P47より引用)
「ストーリーを動かす価値要素」とは、人間の行動に見られる数々の普遍的な性質のことであり、プラスからマイナスへ、あるいはマイナスからプラスへと目まぐるしく変化する。(P47より引用)

「ストーリーを動かす価値要素」の具体例としては、
「生/死」、「愛/憎」、「自由/隷属」、「真実/嘘」、「勇気/臆病」、「忠誠/裏切り」、「知恵/愚鈍」などが挙げられています。

登場人物の人生における価値要素の状態が、シーンの最初から最後まで変化していないなら、意味あることは何も起こっていない。
そのシーンには、これを話す、あれをするといった動きがあっても、価値はまったく変化していない。
これでは何も起こらなかったに等しい。(P50より引用)

それならば、なぜ書き手は「価値要素が変化しないシーン」を書いてしまうのか?といえば、「明瞭化のためだ」と筆者は言います。
「明瞭化」とは、観客に対して登場人物や世界や歴史についての情報を与えること。「単なる説明」と言い換えても良いと思います。

もしそのシーンが存在する唯一の理由が明瞭化だとしたら、熟練した脚本家ならそれを削り、その情報を同じ映画のほかの場所に織り込むだろう。(P50より引用)

この技術を習得できれば、かなり作品のレベルが上がるでしょう。
但し、著者が「熟練した脚本家なら」と述べていることから分かる通り、そう簡単なことではありません。
まずは「単なる説明シーンは削るべきだ」という意識を持つことから始めるのが良いと思います。


【 ビート<シーン<シークエンス<幕 】

次に著者は、「ストーリー」を構成する要素である「ビート」「シークエンス」「幕」という用語について解説しています。

「ビート」とは、「行動(アクション)/反応(リアクション)」の組み合わせを言う。
ビートを重ねるごとに、行為の変化がシーンの転換点を作りあげていく。(P52より引用)

例えば同棲している恋人同士がケンカをしているとします。
「出て行ってやる!」という彼女の脅し(アクション)と、「好きにすれば!」という彼氏の開き直り(リアクション)が、一つの「ビート」です。

そして「ビート」が積み重ねられることで、「シーン」が構成され、さらに「シーン」がいくつ積み重なって「シークエンス」が構成されます。

例えば、以下の3シーンによって、一つの「シークエンス」が構成されています。

シーン1
バーバラはパーティーに出かける支度をしている。
彼女は転職活動中で、今夜のパーティーでのふるまいで希望する企業に採用されるかどうかが決まるため、緊張している。
着替えや髪のセットをするうちに劣等感がわいてきて、行くのを止めようと思うが、そこに母からの電話。
転職を阻もうとする母に反発を覚えるうちにバーバラはやる気を取り戻し、電話を切って身支度を整えると、自信を取り戻す。

シーン2
雷雨の中、パーティー会場に向かって慣れないNYの街を走るバーバラ。
夜の公園を通り抜けようとして、不良どもに取り囲まれてしまうが、特技の空手で彼らを倒して逃げる。

シーン3
逃げ延びたバーバラだが、パーティー会場に着いて鏡を見ると酷い身なりになっており、これでは採用されるはずがないと落ち込む。
だが同じパーティーに集まった面々が、バーバラの濡れた髪を拭いてくれたり、着替えを用意したりしてくれる。
サイズの合わない服を着たバーバラは「どうせ不合格だから」とパーティーの席でリラックスしてふるまい、公園での出来事を皆におもしろおかしく話して聞かせる。
重役たちはバーバラのタフさに感心し、彼女の採用を決める。

どのシーンもそれぞれの価値要素に基づいて展開する。
シーン1は自己不信から自己信頼へ。
シーン2は死から生、自信から敗北へ。
シーン3は社会的失敗から社会的勝利へ。
だが、三つのシーンがまとまってシークエンスになると、より重要で他を包括する別の価値要素――「仕事」――が見えてくる。
シークエンスのはじめ、主人公は「仕事なし」である。
シーン3が「シークエンスのクライマックス」となるのは社会的成功によって主人公が「仕事」を勝ちとるからだ。
彼女にとって、「仕事」は命をかけるに足る重要な価値要素だ。(P55~56より引用)

「シークエンス」がいくつかまとまると、さらに大きな構成要素である「幕」となります

「幕」とはシークエンスの集まりであり、クライマックスのシーンで最高潮に達する。そこでは価値の大きな逆転が起こり、先行するどのシークエンスやシーンよりも強い影響を及ぼす。(P56より引用)

そして「幕」が集まったものが「ストーリー」というわけです。

「ストーリー・クライマック」――ストーリーとは幕の集まりであり、それらが積み重なって最終章のクライマックス、つまりストーリー・クライマックスを迎え、絶対的で不可逆な変化をもたらす。(P57より引用)

このようにストーリーの「構成」を作り上げていくには、綿密な計算や、幾度もの試行錯誤が必要です。
観客の目には「脚本家の直感からひとりでに生まれた物語」のように見えていたとしても、実際に脚本を完成させるには、多くの作為と加工が必要なのです。


【ストーリー・トライアングル】

脚本家が設計するストーリーのパターンは数多あるが、無限というわけではなく、
・「古典的設計」(アークプロット)
・ミニマリズム(ミニプロット)
・反構造(アンチプロット)
の三点を結んだ三角形の中に、すべてが含まれる
と著者は言います。

「古典的設計」のストーリーでは能動的な主人公がみずからの欲求を達成するために、おもに外的な敵対勢力と戦う。
ストーリーは連続した時間に沿って、因果関係の明確な矛盾のない架空の現実のなかで展開し、絶対的で不可逆のクローズド・エンディングへと向かっていく。(P60~61より引用)

いつの時代にも通用する基本の型が「アークプロット」というわけです。「一般的なシナリオ教室で教わるような型」と言ってもよいでしょう。
尚、「クローズド・エンディング」とは、ストーリーが提示した疑問のすべてに答えが与えられ、引き起こされた感情のすべてが満たされるエンディングを指します。
これとは逆に、提示された疑問の中に不明のままの物も残され、あとで観客がみずから答えを出さなくてはならないような終り方を「オープン・エンディング」と言います。

アークプロット以外の二つのプロットは、以下のような特徴を持ちます。
・ミニプロットの特徴
「主人公が受動的」「内的葛藤を描く」「複数の主人公」「オープン・エンディング」
(作品例:『パリ、テキサス』『テンダーマーシー』『愛のコリーダ』)

・アンチプロットの特徴
「一貫性のない現実」「非直線的時間」「偶然の一致」
(作品例:『8 1/2』『恋する惑星』『ウェインズワールド』)

アンチプロットの特徴に「一貫性のない現実」とありますが、これに関しては以下のように説明されています。

アークプロットは一貫した現実のなかで展開するが、そこでの現実とは単なる事実ではない。(中略)
『ロジャー・ラビット』で、人間がアニメーションのキャラクターであるロジャーを、鍵のかかったドアに向かって追いつめるとしよう。
急に体が平べったくなったロジャーはドアの下を通り抜けて逃げ、人間はドアに激突する。めでたし、めでたし。
だが、こんどはこれがストーリーのルールになる。
つまり、ロジャーは体が平たくなって逃げられるのだから、どんな人間も捕まえることがでいないというルールである。
この先のシーンでロジャーを捕まえたくなったら、脚本家は人間以外の存在を考え出すか、さっきの追跡シーンにもどって書きなおすしかない。(P70より引用)
「一貫性のない現実」とは、複数の相互作用が混在した設定をいい、そこではエピソードがひとつの「現実」から別の「現実」へと気まぐれに飛びまわり、不条理の感覚が生まれる。(中略)
ジャン=リュック・ゴダールの『ウィークエンド』では、パリに暮らす夫婦が保険金目当てに妻の老婆の殺害を企てる。(中略)
ふたりが木陰の美しい道を歩いていると、十九世紀のイギリスから二十世紀のフランスの小道へとほうりこまれたエミリー・ブロンテが突然現れ、自作の小説『嵐が丘』を読んでいる。(中略)
こういうことがまた起こるわけではない。これはタイムトラベル映画ではなく、ほかに過去や未来からやってくる人間はいない。エミリーだけで、一度きりだ。
これは破るために作られたルールである。(P71より引用)

このような「一貫性のない現実」の中で描かれるアンチプロットは、観客に、不条理の感覚を与えます。

著者は、「アークプロット」「ミニプロット」「アンチプロット」の三点を繋いだ三角形を「ストーリー・トライアングル」と呼び、
「書き手にはそれぞれ、ストーリー・トライアングルのどこかに、生まれ持った居場所がある」と述べています。
それと同時に、執筆で生計を立てるには、以下の事実を認識することが大切だと言います。

ストーリー設計がアークプロットから遠ざかり、三角形の底辺にあるミニプロット、アンチプロット、ノンプロットへ向かうにつれて、観客の数は減っていく。(P80より引用)
ハリウッドでは、最も低予算の映画でも制作費は数千万ドルに達し、通常の投資より大きな儲けが出せるだけの観客数を動員しなくてはならない。
不動産に投資すれば、最低でも建物のひとつは手もとに残るというのに、なぜわざわざ何百万ドルもの金を危険にさらすだろうか。
それも、二、三の映画祭で上映されただけで、低温の保管室にしまいこまれ、やがて忘れ去られてしまうような映画に。
ハリウッドのスタジオに危ない道を渡らせることを選ばせるつもりなら、脚本かはせめてその大きなリスクを埋め合わせられるような作品を書かなくてはならない。
つまり、アークプロット寄りの作品である。(P82より引用)

とは言え、「自分が書きたいのは、あくまで『ミニプロット』『アンチプロット』の作品なのだ! 『アークプロット』なんて書きたくない!」
という人もいるはず。
その辺りに関しても、著者は言及しています。

すぐれた脚本家は直感や研究によって、ミニマリズムや反構造が独立した形式ではなく、古典への反動だと理解している。
ミニプロットとアンチプロットは、アークプロットから生まれた――一方はそれを縮めたもので、もう一方はそれを否定したものだ。(P82より引用)
前衛作家の列に加わる夢は、多くの先達たちのように、古典的な形式を習得するまで待たなくてはならない。
映画をたくさん観ているからと言って、アークプロットを理解してるなどと勘違いしてはいけない。自分で書けてはじめて、理解したと言えるのだ。(P84より引用)
若い脚本家たちは、ハリウッドと芸術は相反するものだと教わる。
そのため、芸術家として認められたい新人は、どんなものかではなく、”どんなものでないか”を意識して脚本を書くという罠に陥る。
商業主義の汚名を避けるために、クローズド・エンディング、能動的な登場人物、時系列、因果関係を排除しようとする。その結果、これ見よがしな仰々しい作品ができあがるのだ。(P85より引用)

手厳しいですが、的確な指摘だと思います。
この章も著者らしく、辛口ですが核心をついた言葉で締めくくられています。

一方の目で自分の原稿を、もう一方の目でハリウッドをにらみながら作業をし、商業主義の汚名を避けるために突飛な選択を重ねていると、執筆しつつ癇癪を起こすことになりかねない。
強い父親の陰に隠れて生きる子供と同じで、ハリウッドの「ルール」を破れば、自由を感じることができるからだ。
しかし、怒りをたぎらせて家長を否定することは創造ではない。それは関心を引くために非行に走るのと同じだ。
相違のための相違を求めるのは、商業主義に黙従するのと同じくらいむなしい。
自分が信じるものだけを書くべきだ。(P85より引用)


「第2部ストーリーの諸要素 3 構成と設定」に続く

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