「省庁障害者雇用水増し問題」がどうして問題なのかという話。

先週8/16、かなりショッキングな報道がありました。

簡単に言うと「中央省庁が、そこで働く障がい者の人数を水増ししていた」という問題です。2.6%を目標にしているところ実質0%台しか雇用できていないという異常なレベルの不正行為。いったいどのように水増ししていたのか詳しいところは政府の調査結果を待つとしますが、これは障がい者雇用だけの問題ではなく、国のガバナンスという意味でもかなりありえない事件にも関わらず、あまり話題になっていません。

みんなにもこれがどれだけひどいことなのか知ってほしいのでnoteで書いてみます。みんな興味ないってことはわかる。でもできるだけ分かりやすく書くから読んでみてほしいです。

・法定雇用率(法定目標)とは
・どうしてこんなことが起きたのか
 ①世間体の悪さ
 ②求人の難しさ(
入札・チャレンジ雇用)
 ③自己申告ベースのずさんな管理
・この問題の影響


法定雇用率(法定目標)とは

障害者雇用促進法により、企業は公的機関にはある一定割合以上の障害者を雇用することが義務付けられています。(2018年4月からの法定雇用率は企業が2.2%、国や地方自治体では2.6%

従業員数100人超の企業がこの割合に達しない場合、企業には(足りない人数)x 月5万円(年間60万円)の納付金が課せられます。また達成している場合は、申請することで調整金を国から受給できます。(ざっくり言うと、障がい者を雇用しない企業が支払う納付金を財源に、雇用した企業はバリアフリーなどに使えるお金=調整金がもらえる仕組み)

この法定雇用率を達成するために、企業は弊社のようなエージェントにフィーを払ったり、特例子会社を設立したり、たくさんの努力をしています。それがまさか推進する側である省庁が(厚労省も!)していたなんて、ちょっと信じられません。

どうしてこんなことが起きたのか

どうして起きてしまったのか、背景として3つほど理由が考えられます。(どれも言い訳にすらなりませんが…)

①世間体の悪さ
国などの公的機関は、民間企業より高い法定雇用率を設定されています。なぜなら民間企業へ模範を示さなければならないから。世界と比較すると2.2%もまだまだ低い数字です(フランスは約6%)。少子高齢化で社会保障費はどんどん膨らむ一方で労働人口は減少、年金含め1人が受けられる公的な支援は今後どんどん減っていきます。障がい者もできるだけ自立してもらわないと国としては困るわけです。

そのためにも民間で雇用を促進するためにも、公的機関がお手本を示さなければいけない。でも実質全然達成できていないでは世間体が悪すぎますよね。しかも納付金は企業にのみ義務付けられていますし、一定期間法定雇用率を達成できないと企業名が公表されます。民間企業にはペナルティがつくのに、国が「達成できませーん」では示しがつきませんよね。(だからって水増しするなんて余計に悪いと思いますが、、)

②求人の難しさ(入札・チャレンジ雇用)
そもそも障害者雇用市場が今かなり売り手市場で、民間企業も苦戦しているところが多いです。(今回の不正・隠蔽は42年間ということなので現在の市場感が直接の原因ではなさそうですが)

省庁ではありませんが独立行政法人などの公的機関がハローワーク以外で求人をだす場合は「入札」形式になるようです。入札に参加するには資格を申請する必要がありますし、本来であれば採用するポジション(年収・人数)によって普通はフィーが変動するところを(予算組みの関係か)「〇〇万円で」というような形で受けることになるため最適なマッチングが難しくなります。

また、弊社の営業いわく、省庁での採用は「チャレンジ雇用」という期間限定の雇用が多い印象があるようです。仕事を探している障がい者の方からすると、期間限定での雇用はあまり魅力的に映らず、採用が難しいのかもしれません。

とはいえ、このあたりも民間だって努力して魅力的な条件をだしたり、作業の切り出しを工夫したりしているわけで、不正の言い訳になるわけがありません。

③自己申告ベースのずさんな管理
3つ目として、この問題が発覚してから社内でヒアリングしていて初めて気づいたのですが、法定雇用率ってまさかの自己申告なんですよね…。毎年6月に法定雇用率調査が行われるのですが、このとき手帳の写しの提出しないようなのです(調整金の申請の際には手帳の写しの提出が必須)。担当者のモラルが低ければ、企業も不正に水増しし納付金逃れをすることが可能です。とはいえ企業は発覚すれば企業ブランドは地に落ち、経営危機に陥る可能性があります。

省庁の場合の手続きについては詳しくないのですが、企業でもこのような性善説に基づいた制度設計なので、身内の省庁であればなおさらザルになっていることは想像に難くありません。

ただもう最後はモラルの問題ですよね、、


この問題の影響

昨日(8/22)の東京新聞の朝刊に、続報が掲載されていましたが「昨年の雇用者に算入していた人数が各行政機関合わせて数千人規模に上る」、つまり、数千人規模で仕事を奪われた障がい者がいるということです。

最初にも書いたように、社会保障費が増大し、社会的弱者への支援を打ち切りつつあるのがわが国の現状です。障がい者雇用をもっとクリエイティブにとらえ、どうしたら彼らが最高のパフォーマンスをだしてもらえるか考えるように働きかけることは、社会保障費削減にも労働力確保にもつながるのに。

わたしも、あなたも、誰しもいつなってもおかしくないのが「障がい者」という属性です。今日交通事故に遭うかもしれないし、急病で倒れるかもしれない。じわじわと加齢によってできないことが増えていく。16人に1人が障がい者と言われています。誰にとっても他人事ではない、この問題について、少しでも興味を持っていただけたらと思います。

今後の政府の動向についても、注目していきましょう!



サポートいただいたお金は、全額寄付いたします。主な寄付先はsoar、polca経由で当事者の方など。