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恋する涼み客は、熱を帯びて帰路につく。

夏休みの予定は、半年前から決めていた。
この春就職した先輩に会いに、京都へ行くと。


川の上に佇むお座敷に「わぁ〜すごい!」とバカみたいに繰り返す。何だか場違いな気がして、慌てて声を小さくした。

「川の音、いいですね。涼しい。」

「いいね、来れてよかったな。誘ってくれてありがとね。」

些細な会話も嬉しくて、頰が緩む。互いの近況を話しながら甘味を味わい、お座敷から足を下ろして、冷たい水流にふたりで足を委ねた。

「冷たいね。」

「冷たいですね。」

ふふっと目を見て笑い合い、ふいに先輩の左手が私の右手に重なった。心臓の音が伝わってしまうんじゃないかと思うほど、ドキドキした。

「遠距離、ってどう?」

先輩の左手に、少し力が入ったのがわかった。

「好きだったら関係ないです。」

「そっか。うん。あのさ…うん…彼女になるのはどうですか?」

意を決したように言った先輩が愛おしくて、私は涙をこらえながら、お願いしますと静かに答えた。



サポートとても嬉しいです。凹んだ時や、人の幸せを素直に喜べない”ひねくれ期”に、心を丸くしてくれるようなものにあてさせていただきます。先日、ティラミスと珈琲を頂きました。なんだか少し、心が優しくなれた気がします。