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【リアリティーを出すためには?】創作のひきだしを広げるためにすべきこと(2012年12月号特集)


馬齢も重ねれば強み

 十代でデビューした作家の処女作は、自宅と学校、アルバイト先とその周辺が舞台で、ほんの少しの体験を想像力で広げて書いていたりします。そうした実例を目の当たりにすると、実体験などなくても想像力があれば小説は書けるという意見にも頷けます

 しかし、その手の小説はどうしたって世界が狭くなりますし、知りもしない世界を想像力だけで書けばいつかはボロが出ます。リアルでもない。
 大人なら会社員の一日を書くのは容易ですが、高校生が書いたら薄っぺらなものになりそうです。時代もの、警察ものを書いても、テレビドラマを写しとったような安っぽい感じになるでしょう。

 一番いいのは、経験に裏打ちされているということでしょう。海外赴任中に自爆テロに遭った人がいたとして、それを書けばそれなりに迫力のあるシーンになりそうですが、そんな希有な体験でなくても、十年、二十年かけて経験してきた蓄積は大きく、それは物語性の強い小説ほど生かされます

実体験でなくてもいい

 作家の中には、あらゆる職業を経験したという人もいますが、それでも個人が経験できることには限りがあります。そこで疑似体験! 他人の体験を見聞きして、自分の体験にしてしまいましょう。

 たとえば、映画。前述の自爆テロのシーンでも、シーンを書くだけなら自分で体験する必要はなく、映画を見れば済みます、小説を読めば済みます。
百の作品を鑑賞すれば、百の人生を疑似体験できるのですから、これを利用しない手はありません。もちろん、創作のためにです。

 具体的な数字を挙げれば、映画なら週に数本、小説なら月に五~十冊。
 ただし、娯楽としてではなく、創作の手本として鑑賞する。大事なのは、鑑賞後、テーマについて思索することと、テクニックを盗むこと。量も大事ですが、鑑賞の質も問われるのです。

引き出しを広げる

 生涯に書くのは一作というのであれば、小説だけを読んでいればいいですが、多くの作品を書くためには引き出しがないといけません。そのためには、日頃からいろいろなことに興味を持つこと、知的好奇心を持つことです。

 たとえば、趣味でテニスをしているというのであれば、歴史や戦法をはじめ何から何まで徹底的に調べる。日本の伝統芸能に興味を持ったら、歌舞伎、能、狂言、詳しく調べて実際に見てみる。脳科学が気になったらすぐにその手の入門書、専門書を読む……etc。

 作家になるような人は知的好奇心が旺盛で、知らないことがあると気になってすぐに調べます。あるいは、一つのことを深く掘り下げて研究したりします。
 そのときはなんの役に立つものでもありませんが、小説の構想を練るとき、あるいは書いているときなど、思わぬところで思わぬものが役に立つものです。

小説の知識・技術を得る

 小説に関する知識も知っておきましょう。
 「小説は他人に教わるものではない」という人もいますが、これはひとつの心構えという意味合いでもあり、教えられる知識や技術はいくらでもあるのですね。

 実際、アマチュア時代に小説講座に通ったという作家はいくらでもいます。指南本を読みあさったという人も無数にいます。そもそも大学で文芸科にいた人は授業で教わっているはずです。そして、先人の奥義に触れ、開眼したりしているのですね、人に言わないだけで。

 文学史も知っておきたい知識のひとつです。小説は過去からの贈り物であって、私たちが書く小説には、近代文学の歴史の中で考察されてきた小説に対する考え方が生きています。描写ひとつにしても、過去の作家たちが描写とは何かと考えたその結果が反映されているものです。
 文学史を学んで得られる知識はテクニックというよりは小説に対する考え方、思想ですが、これも知っておくと引き出しのひとつになってくれます。

一日一話トレーニング

 「いざ書こうと机に向かったものの、まったく何も浮かばない。なんだかなあ」となってしまう向きには、一日に必ず一話、簡単なお話を作ることから始めるという方法があります……

簡単なトレーニングから始めてみよう!
特集「作家になる技術」
公開全文はこちらから!

※本記事は「公募ガイド2012年12月号」の記事を再掲載したものです。