見出し画像

美味しい、の美味しさ以外の価値を正確に判断する能力。

田端さんのこのツイートでセブンイレブンの美味しさを再確認したのですが、『セブンイレブンの美味しさ』を正確に判断するのは意外と難しいと思います。それは単純に美味しいという事以外に、価格、販売場所条件、製造条件、製造場所条件、賞味期限、状態維持(保持)能力などなどが含まれるからです。

ただセブンの商品は総じてレベルが高い。美味いは正義。セブンラブ。商品開発したい。

美味しいは絶対条件なのですが、それを構成する要素も同じくらい大切。そして、美味しいの一言の中にも複雑な要素が存在します。美味しいって説明するの難しい。そして全ての美味しいを同列評価をしがちなので、レイヤーごとに評価する必要性も感じます。例えばシェフがプロデュースした系のアイテムは、レストランのそれと真っ向から比較されがち。制限なしで生み出される料理と制限しかない料理は同じ土俵には乗らないはずなのに、乗ってしまうやりにくさを結構感じてきました。

今回はセブンのスイーツが話題に上がったので、スイーツ目線で考察していきます

スイーツと聞いて一番に思い浮かぶのは『甘さ』ではないですか?甘いは美味い。日本人は料理にも甘さが存在するので(みりんや砂糖を基本使う)甘いものを美味しいと思う傾向が強い。

この事から、『甘さを含めたトータル的な味覚のバランス』を求める傾向がある。

塩だけで味付けをしたものよりも、甘さの含まれた美味さに惹かれます。これは僕もそうです。日本人の性だと思ってます。僕は賄いを作っていた時に、味が物足りない時は少しだけ砂糖を加えて味のバランスをとってました。(後輩から驚かれた)

砂糖=甘いもの、という認識をしていると中々理解しにくいかもしれません。


調味料には様々な用途と考え方がある

例えば塩。塩の用途といえば塩味の為だと思います。でも使い方を細分化すると大まかに4つ存在します。

①塩味の為の塩
②脱水の為の塩
③甘みを引き出す為の塩
④下味の為の塩

①は一番当たり前の用途。でも本当に大切なのはそれ以外の要素です。

②塩は脱水作用があります。素材に振る事で水分を抜いてくれる。これは旨味が濃くなる(水分量が減るから)ともいえます。僕はこの事を旨味が煮詰まると表現します。特にスープなどを作るときはなるべく素材の水分を抜いてから液体を加えるべきで(じゃないと水っぽい味になる)必須のテクニックと言えます。

③塩は甘みも引き出します。例えば人参や玉ねぎは塩の分量次第では先に甘さが引き立ちます。かぼちゃなども。(スイカに塩も近い)塩は一定量まで素材の甘さを感じやすくする。ただギリギリのラインを超えた瞬間に甘みが一気に塩味に変わります。こうなってしまうと元には戻せない。塩加減って本当に大切。

④は②③と連動するのですが、下味です。それ単体だと塩味は感じないが素材の味が輪郭を持つ状態。この判断は結構シビアなのでプロだけ分かれば良いところですね。

①塩味の為の塩とは、スープなどの最終的な味を決めるものと、肉や魚に最後にかけるちょっと粒の大きな塩。だと考えてます。味覚の決定権の塩とでもいいましょうか。最後の最後、ゴールを決める塩。噛んで欲しい塩もそうです。高級な塩のほとんどが結晶です。素材に馴染ませるのではなく塩の味をダイレクトに足すもの。

前置きが長くなりましたが、砂糖にも同じように用途があります。

①甘味の為の砂糖
②脱水の為の砂糖
③保水、保形の為の砂糖
④酸味や塩味、苦味のバランスをとる為の砂糖
⑤旨味の補いの為の砂糖

①はそのままなので飛ばします。

②はあまり知られていませんが、とても重要な役割。塩分は脱水と共に素材の芯まで入り込みます。しかし砂糖は脱水すれども表面でとどまる。なので水分は抜きたいけれど、塩味を強くしたくない場合(締め鯖で僕はやる)は砂糖を脱水の用途として使うとバランスが取れます。ジャムを作る時にフルーツに先に砂糖をするのも脱水の作用を期待しての事ですね。

③は製菓作りにおいて最も大切な要素。生地を浮かせるのもゼリーの形を保つのにも砂糖の力が必要です。砂糖は素材から水分を抜きますが、水分を保つ効果もあります。水分を引き寄せる能力が、脱水と保水の両方に働きます。生クリームも砂糖が多いほうが離水しにくい。

④レモンの砂糖漬け(酸味)、オレンジのマーマレード(苦味)蜂蜜梅干し(酸味と塩み)などなど。強すぎる個性を和らげつつポジティブに変換する。砂糖マジ凄い。

⑤これは甘さを感じさせるわけではなく、旨味の要素を引き出す砂糖。塩と同様の効果ですが塩味が立ち過ぎたものを補正する効果もあります。大枠でいうと④と同じですが、微量の砂糖での効果がこちらは期待できる。料理上手の知っておくべきテクニック。ひとつまみの砂糖が料理の表情を変える。

やっと長い前置きが終わりました。ここから本題のセブンスイーツの話。


コンビニの商品における最大の課題はなんなのか?

先ず、人が美味しいと感じやすいものは何かを説明する必要があります。結論からいうと、甘く柔らかく滑らかで噛まずとも舌で感じられるもの。一番大切な要素は食感なんです(スイーツ)

甘さってある程度好みのゾーンが決まっていると思っている。塩分と一緒で『人間という生き物』が美味しいと思う分量が決まっているというか。調べたことはないですが、体感的には10〜12%前後が美味しいと感じやすい印象。勿論酸味と合わせるか苦味と合わせるかで変わってきますが、このラインを守っていれば美味しさを担保できる。


では甘さでの差別化がし難いのなら何で差別化をはかるのか?

それは食感だ。

日本人が特に好きな『モチモチ』『フワフワ』『プルプル』『サクサク』したもの。他には滑らかな食感であったり、あまり咀嚼せずに舌で味を感じやすいものが挙げられる。口どけが良いものは口に入れた瞬間から味を感じる。これが固いもの場合、咀嚼という行為を介さないと味を感じにくい。

口に入れてから数秒のタイムラグだが、これだけで『美味しさ』という結果は大きく変わるのだ。コンビニの商品が滑らかなものや柔らかいものが多いのは、それだけ好む人が多いという研究結果から導き出されたものじゃないだろうか。

煎餅などの固い食感のものももちろん美味しい。ただ滑らかなプリンなどには勝てない。これは煎餅がダメとかプリンが良いとかではなく、根本的に人間が何を好むか?という結果。商品を作る時にはこの様に、『人間が何を好むのか』という部分を意識しないといけない。


しかし滑らかだったり柔らかいものは形を保持しにくい。作ったその場で食べるレストランなら関係ないが、コンビニの場合セントラルキッチンで製造、トラックで輸送、搬入という経路があるので、ただ単純に柔らかいだけではなく、柔らかさを維持したまま崩れにくい状態にするというなんとも無理ゲーなことを成し遂げている。本当に技術と知識の結晶がセブンスイーツなんだと。声を大にして言いたい。(セブンから何も貰ってません、本当にお仕事したい)

では冒頭に戻りこのスイーツが何故美味しいのか?を解説していきます。(個人の見解です)

名称からもわかる様に、薄いのにモチモチの生地。(薄いのにモチモチは基本的に共存しにくい)そこにメープル風ソースとホイップクリームにこしあん。もはや最強の組み合わせ。個人的には酸味が欲しいですが。

あんこと生クリームの組み合わせはここ数年で完全にベーシックになりました。あんこだけでは甘さが強過ぎたり、あんこ自体のイメージが若い世代には美味しいに繋がりにくかったりする様な気がします。そこに生クリーム(旨味の象徴)が合わさることであんことの甘さのバランスを取りつつ、口に入れた瞬間美味さを伝える(むしろ見ただけで美味しいと感じる)

メープルシロップもパンケーキブームで美味しさの象徴になっている。あんこと生クリームの美味しさに、メープルの組み合わせ。しかもそれがモチモチの生地に包まれている。見た目の状態だけで美味しさを認知しやすく、尚且つメープルという新しい組み合わせが想像を沸き立てる。商品開発部の戦略どうりにハマってます。

他にもセブンの商品は色々あり、ここ最近では『もこ』という商品がある。見た目はほぼシュークリーム。しかし食感はもっともちもち(モコモコというべきか)より日本人が好む食感を再現した結果ここにたどり着いたのかなと。

定番のチーズケーキは何度もマイナーチェンジをしている。(その度に食べている)食感や味わいを変えつつより良いものを模索していたのか?最近名前も元のニューヨークチーズケーキに戻り、安定感が増した様に感じる。

モンブランはあの食感が特徴的で、モンブランなのに重くない。むしろめっちゃ軽い。なのに栗の味はちゃんとする。気がつくと買っている商品。しかも安い。感謝の念が溢れ出ますね。


僕もいくつか商品を作ってきましたが、自分の中での感覚と、一般消費者の感覚にズレがあることを学びました。つい最近も

僕的には、味噌チョコレートがイチオシでした(ラズベリーに個人的最高って書いてるけど)チョコレートに味噌や魚醤などの発酵直品を合わせるのがトレンドなのですが、全く刺さらずに最下位。これは食べたことがない物への不安、イメージしにくい理解しにくい、失敗したくないなどの感情の部分が大きく占めていると思う。自分がどんなに良いと思っていて、実際に美味しいとしても、受け手側に伝わりにくいものは拡散しにくいという結果。

想像しやすいといういのは本当に大事な要素だと日々実感している。

僕がたまたま好きで作り始めたチーズケーキも、味が想像しやすいアイテムの一つ。コンビニにもスタバにもあるし、ある程度味覚の経験値があるから。チーズケーキの考察は改めて書きます。


ちょっと話があちらこちら飛んでしまいましたが、セブンスイーツには人類の叡智が詰まっており、今後も目が離せないということ。そして飲食に携わる人たちは、この凄さをもっと認識して参考にするべきだと。

ただ、美味しさにも様々な価値があり、届けたいレイヤーはそれぞれ。単純に美味しさだけで測るのではなく、その背景やストーリー、環境を理解する。その上で自分ならどの様に美味しさを作り、どこへ届けるのかを考える。そうして初めて素晴らしい商品が出来上がるのではないでしょうか?

これは飲食に留まらず、どんな商品にも言えることかなと。目に見えるものだけではなく、それが生まれるまでの環境などにも視野を広げることが重要ですよね。

何か伝えたいこコトやモノがあるなら、文脈をどう届けるか。文脈づくりこそがブランドをブランドたらしめる最重要項目だと感じます。

かなり長くなりましたが、ここ最近感じる事を色々書けたかなと思います。

noteを初めてまだ数ヶ月ですが、定期購読をしてくださる皆様本当にありがとうございます。初期から応援してくれているヤマシタさんには本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

そしてnoteという素晴らしい世界を作り、クリエイターの未来を切り開いてくださった関係者の方々、お世話になりまくりました!!!来年以降も頑張りますのでよろしくお願いいたします!!!(年内もう一本書くかもしれないけど)


皆様の優しさに救われてます泣