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「守護聖エルセデスは、今日も華麗に野望の一歩を踏みしめる」第2話

第2話  獣の島 【破】


・島の禁足地、獣と対峙するエルセデス。
呻きのような咆哮を上げた獣が食らいついてくる。それを華麗に躱すエルセデス。

エルセデス「おっとっと、危ないわね。つーか、よだれダラダラで噛みつかないでよ! きったない! 服が汚れたらどーすんのよ」

オズワルト「ならマナーでも躾けてみるか? 不良守護聖には似合いの番犬だと思うぞ、この不細工犬」

エルセデス「だぁーれが不良ですってぇ!?」

戦闘時においてもいつものやり取りをする主従。獣は無視するなと言わんばかりに前足の鉤爪で守護聖を映る景色ごと切り裂く。

見るも無残に引き裂かれた空間。だがそこに守護聖はいない。この攻撃も難なく躱すエルセデス。

エルセデス「思ったよりも伸びる前足ね」

オズワルト「というよりも長いな。毛深くて見逃していたが、あの獣の四肢はかなり強靭なようだ。狼や野犬の類とは似て非なるものなのだろう、警戒しろ」

エルセデス「言われなくてもわかってますぅー」

オズワルトの推測通り強靭な四肢を持つ獣は、なんと立ち上がり前傾姿勢をとる。その高さは体感で四足時の二倍近い。

エルセデス「え! ちょっ! 待って! 待って! 何よこれ? てかデッカ」

オズワルト「『待て』を教えてるのか? この状況で随分余裕があるじゃないか」

エルセデス「アンタねぇ」

襲い来る獣。強靭な四肢で縦横無尽に守護聖を追い詰める。四方八方から放たれる獣の爪牙がエルセデスの生存圏をジワジワと削り取っていく。

エルセデス「無茶苦茶じゃない! この犬っころ!」

オズワルト「そうか? 普段のエルセデスの素行も似たようなものだろう」

エルセデス「あーもうっ! コイツぅ!」

空中を飛び回り回避するエルセデスが一瞬、地に足を着けた。その瞬間を逃さまいと覆いかぶさるように獣が背後を取る。

エルセデス「?!」

エルセデス目掛けて右腕の爪を突き立てる獣。振り向く守護聖より一瞬早く、獣は渾身の一撃を無防備な敵に喰らわせる。

エルセデス「まぁ、こんなとこかしらワンコちゃん」

抉れた地面には肉片どころか、血の一滴もかかっていない。獣が見失った獲物を再び視界に捉えるのに、背後から聞こえた声に呼ばれ振り向くまでの時間を要した。

獣の背後で無傷に佇むエルセデス。

オズワルト「で、どうだった?」

エルセデス「落第点よ。私の番犬には相応しくないわ」

オズワルト「そうか。なら」

エルセデス「えぇ、もう殺すわ」

獣は口を大きく開け、眼前の敵目掛けてその咢を突き立てる。

獲物を屠るまであと数センチ、文字通り目と鼻の先で獣は突如として動きを止める。口惜しそうに獲物を睨む獣はエルセデスの足元から無数に伸びる鎖に縛られ雁字搦めにされていた。

エルセデス「ご苦労、オズワルト」

オズワルト「この程度造作も無い」

エルセデスは右手を掲げると、掌に光が収束していく。

エルセデス「聖痕起動スティグマ・アクション。『武装神殿アサルト・ユニオン』! 来なさい! 兵番シリアルナンバー077。『ジャックナイフ』!」

高らかな宣言とも詠唱とも取れる言葉に呼応するかのように収束した光がカタチを成す。その姿は黄金のマスケット銃。

エルセデスは右手に握られた黄金のマスケット銃『ジャックナイフ』を獣の眉間に向けて、引き金に指を掛ける。

エルセデス「バイバーイ」

凄まじい発砲音と共に吹き飛ぶ獣の頭部。これにて守護聖による二度目の獣退治は幕を閉じた。

エルセデス「ふふーん。私ってば、やっぱりサイキョー」

獣を縛っていた鎖は主の足元、特等席の影へと帰っていく。

オズワルト「以外に手こずったんじゃないか?」

エルセデス「アンタの軽口の方が厄介だったわよ。ったく」

オズワルト「それにしても、銃に『ジャックナイフ』なんて名付けるか? 普通は」

エルセデス「あー、これね。知り合いに付けてもらったのよ。カッコイイから気に入ってるの。いいでしょ~」

オズワルト(それはピストルじゃなくてエルセデスに対してのあだ名ではないのか? いや、ここは言わぬが花か…)

あれほどの死闘の後だというのにいつも通りに談笑する二人。

オズワルト「?! 気を付けろエルセデス!」

不意に何かの気配を察知したオズワルト。エルセデスの背後には先ほど討伐した個体とは別の獣の姿が。

エルセデス(なっ!? 二体目!?)

・薄暗い洞窟。
血まみれのエルセデス、呼吸を乱し肩で息をしている。疲れた様子で松明を片手に洞窟内を探索している。

エルセデス「サイアクッ 私のマントが血まみれじゃない! サーコートまで汚してくれて! っもう!」

オズワルト「ならもう少し上品に戦ったらどうだ? なんでもかんでも派手にぶちまけるからそうなる」

エルセデス「あれだけ数いちゃしょうがないでしょ。急に二体目が出てくるから瞬殺したら、次から次へと増えてって」

オズワルト「結局、禁足地で二十八体。ここに来るまでにもざっと三十はくだらない数がいたな。ここまでくるともう笑えてくるな」

どうやらエルセデスにケガは無く、衣装に着いた大量の血は全て返り血の模様。

エルセデス「で、ここであってるの?」

オズワルト「ああ、何匹かの獣が出入りするのをこの目でしかと確認した」

エルセデス「出入りって、まだ居るわけ! 絶滅させたんじゃないかってくらい殺したのに」

オズワルト「退屈しなくて良かったじゃないか」

エルセデス「十分退屈してるわよ! あの犬コロ達は秒殺できるレベルだし、もう帰りたいわ」

オズワルト「そう言うな。この一連の騒動には何か裏がある。そこに求めるモノがあるかも知れないぞ」

足を止めるエルセデス。松明で照らした先には巨大な扉が鎮座している。

エルセデス「わーお、ヒミツのだいはっけぇ~ん」

オズワルト「さぁ、行こうか」

・数時間後、兄妹の家。
夜風を浴びるテオ。

テオ「ん?!」

視線の先の人影に気付く。それは帰還したエルセデス。

テオ「守護聖様?」

エルセデス「はーい。ただいま」

テオ「どうしたんですか! その恰好、血まみれで?」

エルセデス「私は大丈夫よ。それより妹ちゃんは?」

テオ「今は寝ています。少し体調を崩してしまって」

エルセデス「ダメじゃない気を付けなきゃ」

テオ「はい。すみま」

エルセデス「いくら島に撒き散らした毒に耐性があるからって、貴方達は半分効いちゃうんだから」

言葉を遮られたテオは目を見開く。

テオ「ど、毒? …何のことです?」

エルセデス「まぁ撒いたのは港方面だけみたいだし、アレは兵器運用を目的とした試作品の中の失敗作。遅効性で効き目もまちまちね」

テオ「ん、何を…」

エルセデスがドアノブに手を掛けた時。

テオ「触るな!」

エルセデス「妹ちゃん。私が診てあげるわよ。どうせ直接、獣に嚙まれたんでしょ、だから弱ってる。アイツらの持つ毒は貴方達が使った失敗作より遥かに強力だもんね」

テオ「やめろ…」

エルセデス「妹ちゃん? 失礼するわよ」

テオ「やめろ!」

テオの怒号と共に何かが勢いよく家から飛び出る。ソレは半獣半人の姿となったテニアだった。

テニア「グググルルゥゥ」

テオ「ち、違うんです! これは…その…」

エルセデス「違わないわ。むしろ大当たりね」

テニア「ググゥ」

威嚇するテニアだったモノ。血走った眼光を向けられても変わらず飄々とした態度の守護聖。

テオ「あ、ああ、テニア… 落ち着いて… 落ち着いて!」

エルセデス「落ち着くのはアンタの方よ、テオ」

テオの方へ振り向くエルセデス。眼前には鋭く尖った鉤爪で今まさに守護聖を切り裂こうとするテオの姿。変貌した兄の右腕をがっしりと掴んだエルセデスは妹の方に目掛けて投げ飛ばす。

テオ「いつから気付いてた」

エルセデス「警戒は初めからしてたわ。だって妹ちゃん、オズワルトの事、気付いてたでしょ」

回想 テニア「あら兄さん、その人たちは?」

テニア「!」

エルセデス「真相に気付いたのは洞窟の奥にある研究所で資料を読み漁ったときね」

テオ「たった一日でたどり着いたのか?」

エルセデス「守護聖だもの」

エルセデスはテオに語られた島の経緯を頭に浮かべる

エルセデス「テオ、貴方が語った話には一つ話してない大事なことがあるんじゃない? そう例えば貴方達の『母親』の事とか」

テオ・テニア「?!」

エルセデス「でも話自体には出ていた。そう自分達がソレの『子供』であることを隠してたのよね」

月明かりが不敵に微笑む守護聖を照らす。

エルセデス「貴方達の父親は責任から逃れたかった訳じゃない。もっと別の獣を殺せない理由があった。数十年前にこの島に持ち込まれ、最終的には守護聖に討たれることになった獣は、その男兄妹の父親の■であり、貴方達の■■だったからよ」

月明かりが半獣半人と化した兄妹を照らす。

エルセデス「ねぇ、災いの子」

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