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「守護聖エルセデスは、今日も華麗に野望の一歩を踏みしめる」第3話

第3話  獣の島 【急】


・月明かりの下、対峙する守護聖と災いの子。

エルセデス「守護聖に討たれることになった獣は、その男兄妹の父親の妻であり、貴方達の母親だったからよ。ねぇ、災いの子」
 
勢い良く飛び出しエルセデスに襲い掛かる災いの子ら。

回想 洞窟奥の扉の先、研究所内

資料を漁るエルセデス。その後ろには絶命している獣。

オズワルト「何かわかったか?」

エルセデス「どうやらその後ろで死んでる犬コロは、テオが語った獣の劣化コピーと言ったところね」

オズワルト「なるほど。オリジナルを基にした量産品か」

エルセデス「えぇ。そのオリジナルとやらは討伐後、ここであんなことや、こんなことをされたみたいね」

オズワルト「何のために? そもそもここは何の施設だ?」

エルセデス「兵器運用よ。島一つを滅ぼしかけた獰猛性、さらに特質すべきはその体液、これは一種の毒みたいね」

オズワルト「毒物の研究か、となると今なお続く汚染の原因はここで間違いないだろう。だがそれと変死は別。変死の方はここで精製された毒を使用したな」

エルセデス「多分その犯人が犬コロを解き放ったんでしょうけど、いくつか疑問が浮かぶわね」

オズワルト「港町に損壊が出て無い事はおかしい。惨殺事件の下手人があの獣なら今頃街は壊滅してる筈だ。それは対峙した我々が一番よく分かっている。奴らの凶暴性を」

エルセデス「となると惨殺事件の犯人には理性がある。さらに変死の中での惨殺、まるでピンポイントで殺害したようにも思えるわ」

オズワルト「汚染事件に敏感なはずの島民が、由来を同じくする毒に気付かないのも不自然だ」

エルセデス「そうなるとあの子の証言もホントか怪しいわね。つーか、アンタ普通に妹ちゃんにバレてたじゃない」

オズワルト「それが何よりの証拠だろう。あの兄妹は普通じゃない。それに考えてみろ、今日殺した六十を超える獣が今までこの島を闊歩してたとは考え辛い、あれらは今日解き放たれたんじゃないのか? 出向いた守護聖を殺すために」

思うところがありそうな表情のエルセデスは研究所内を物色し、ある部屋を見つける。
そこにあったものに言葉を失う。

エルセデス「っ!?」

オズワルト「! こ、これはっ!」

回想終了

・月明かりの下、戦闘を終えた両者。
ただ一人立っているエルセデス。頬には切り傷があり少々手傷を負わされた模様。その前にはボロボロになり倒れ伏せ恨めしそうに守護聖を睨みつけるテオ。少し離れた場所にうずくまるテニア。

テオ「はぁ… はぁ… ちくしょうッ」

悲しげに見つめるエルセデス。

テオ「守護聖に… 復讐… するんだ… 父さんと母さんのッ、仇をぉ!」

エルセデス「その心意気は本物の様ね」

オズワルト「島民を滅ぼしたければ効き目の不十分な毒など撒かず獣を放てばいいだけだからな。あえて温存したのは来たる守護聖を殺すためのカードだったのだろう」

テオ「ちくしょう! ちくしょうっ…」

悔しがるテオを横切りテニアに寄り添うエルセデス。
妹に寄り付かせまいと這って妹の方に向かい凄む兄。

テオ「妹に触るな!」

エルセデス「アンタはまだ元気があるから後回しよ」

テニアの傷を手当てするエルセデス。

テニア「し、守護聖様は… 何故、私達が… 獣の子供だと… 分かったんですか?」

テニアの言葉に、研究所で見たモノが頭をよぎる。

回想 言葉を失うエルセデス。彼女に映る目の前の光景は、おびただしい血痕まみれの部屋の中心に佇む、人間の白骨死体。

回想終了

エルセデス「獣が母親のカタチをしてたからよ」

その言葉に涙する兄妹。そんな二人を優しく抱きしめるエルセデス。
気付けば夜は明け、薄暗い空に黄昏色の光が差し込んでいた。

時間は流れ三日後の朝。兄妹の家。
ベットで眠るテニアが目を覚ます。

テニア「ん、ここは…」

扉を開けたテオが大喜びで駆け寄る。

テオ「テニア!」

テニア「兄さん!?」

テオ「良かったッ! 良かったっ、本当に無事で」

テニア「ちょっと兄さん!? 苦しいってば」

抱き合う兄妹の後ろでバツが悪そうなエルセデス。

エルセデス「いやー、ホントッ、良かったわ~ あの後全然起きないからマジで殺しちゃったかと思ったわよ」

テヘペロしながら謝罪ポーズのエルセデス。

エルセデス「ホント、ゴメンね」

オズワルト「許さなくていいぞ。コイツは悪の守護聖だ、報復しても構わん。誰も悲しまんぞ」

エルセデス「おい! アンタくらいは悲しみなさいよ」

自分の足元の影に向かって蹴りを入れるエルセデス。そんな珍妙な景色を何とも言えない顔で見つめる兄妹。

テオ「テニア、母さんを埋葬してきたよ」

テニア「えっ!? でも母さんは」

テオ「この人たちが見つけてくれたんだ」

エルセデス「安心なさい。あの研究所の後処理は済んだ、もう誰も悪用することは無いわ」

テニア「そう、ですか。…でも私達は…」

エルセデス「医者殺したんでしょ。口封じのために。まぁ毒撒いたのも島民に復讐するためだし」

テオ「そ、それは、僕がやったことです! 妹は悪くありません」

テニア「兄さん!」

エルセデス「あー、こんなこと言うのは守護聖としてどうかと思うけど、その辺りはどうでもいいわ」

テオ・テニア「えっ?」

オズワルト「この人でなしめ」

エルセデス「私は使命じゃなくて、単に欲しいものがあったから来ただけなの」

テニア「欲しいもの?」

エルセデス「そう貴方達よ」

テオ「僕たちが?」

エルセデス「私にはね、どうしても叶えたい野望があるの。その為には力が必要なの。貴方達みたいな優秀な力が」

テオ「その野望とは何なんですか?」

エルセデス「聞きたい? 誰にも言わないでね。私の野望は…」

それを聞いて、驚きを隠せない兄妹。

エルセデス「てなわけで、強制はしないわ。私に付いてくるってのはそういう事だから」

目を伏せる兄妹。

エルセデス「モノで釣るようで悪いけど、あの研究所を主導してたのは守護聖よ、貴方達の母親を討ったね。もう一つ言えば貴方達の母親が急に暴れだしたのもソイツの差し金ね」

その言葉に目の色を変える兄妹。

テオ・テニア「!?」

エルセデス「ソイツは数年前に引退したけど、その息子は現役の守護聖よ。私の野望の最大の障壁は守護聖。私に付いてくれば、いずれぶつかることになるわ」

うつむいたままの兄妹を背にエルセデスが家を出る。

エルセデス「私の船は明日の朝、島を出るわ じゃ、後はそっちの判断に任せるわ」

・次の日の朝。兄妹の家
家から少し離れた場所にある父と母の墓の前で、決意の表情のテオとテニア。

・港。
船の甲板から島を眺めるエルセデス。

オズワルト「どうして嘘を吐いた」

エルセデス「ん?」

オズワルト「あの子達の母親は獣ではなく、獣への変態能力を持つ異民族だ。しかし毒を持つ体質故か成長と共に理性を失い、齢三十前後で獣性に支配される。母親の暴走の原因はそれだ」

エルセデス「だって、あの二人どうしても欲しかったんだもん」

むくれるエルセデス。

オズワルト「やれやれ、まぁ、あの兄妹が今も生きているのはお前の裁量によるところが大きい。だが相手は子供、そんな彼らをこの道に引きずり込んだ責任はしっかり取るべきだ。最後まで面倒を見ろよ」

エルセデスの視線の先にはテオとテニア。一瞬目が合うと、少し恥ずかしそうにしてささくさと船に乗り込んでいく。

エルセデス「わかってる。きっと後悔させないわ。私についてきた以上は絶対いい思いをさせてみせる」

足元の影を見つめるエルセデス。

エルセデス「勿論、アンタだってそうよオズワルト。必ず、私についてきて良かったって言わせてみせるわ」

オズワルト「そうか… 過度な期待はしないでおこう」

エルセデス「そこは期待しなさい!」

・数日後。聖王国首都アルキタス
ステンドガラスを背にした荘厳な玉座の前で横一列に並ぶ十三人の騎士達。その一番右端にエルセデス。

エルセデス(私には野望がある)

王冠を戴き錫杖を持った一人の女性、聖王女ソテイラが登場すると同時に跪く十三人。

N「守護聖」

聖王女が玉座に腰掛けると順に面を上げ立ち上がる守護聖達。

N「アポロウーサ聖王国の象徴たる聖王女を守護する十三人の騎士の名」

N「各々が他とは一線を画す一騎当千の精鋭であり、聖王女を守る直属の配下でありながら、最高位の権力を有し国の運営にも関わる最高機関としての側面を持つ」

N「聖王国の秩序と平穏は彼らによって保たれていると言っても過言ではなく、民草はそんな彼らを称え、敬い、慕い、国とその御旗を守護する者達は、いつしか聖王国のもう一つの象徴となった」

最後にエルセデスが立ち上がる

N「そして、後に最悪の守護聖とした歴史に名を刻む者がここに一人」

聖王女と目が合うエルセデス。

エルセデス(私の野望。それは、私以外の十二人の守護聖を打倒し)

目が合ったエルセデスに対して、にこやかに微笑む聖王女ソテイラ。

エルセデス(聖王女ソテイラを抹殺すること)

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