【短編小説】私には何もない
「さむい~。」
あまりの寒さに、布団から出たくなくなるこの日。
せっかくの休みだが、外出をする気にもならない。
一人だから、どう過ごそうが、咎められることもないんだけど、ずっと寝ているのはもったいないので、仕方なく起きだした。
朝ごはんもパンとスープの簡単なもので済ます。
今日、一日何して過ごそうかと考える。
家の中でできること。
サブスクのテレビ番組や映画も、ある程度見つくしたし、手元にある本も読みつくしたし、動画やゲームやネットサーフィンは、果てしなく時間を潰せるけど、今はする気が起きない。それなら、寝て過ごしてもいいんじゃないかと考える。
主に文章投稿のSNSを眺めていたが、推しの人は、ここ最近新規投稿が止まっている。過去の分を見直すと、余計に新しいものが見たくなる。ジレンマ。
「はぁ、何しよう。」
こういう時に、何か家の中でできる趣味とかあればいいのになと思う。
自分で、小説でも書いてみる?文章力とかないからな。綴りたい出来事もないし。そんなのがあったら、ここでこんな風に時間を潰してはいないだろう。
誰かに連絡を取ればいいのかと考えても、私にはそんなプライベートを一緒に過ごす人がいない。過ごしたい人はいなくもないけど、休みの日に突然連絡をして、「今から会いませんか?」と誘うほどの仲にない。
あまりの寒さに、家の中にいても白い息が出る。
エアコンは空気が乾燥するし、電気代を喰うからつけてない。
できるだけ厚着をして、タオルケットで何重も体を包んでいれば、自分の体温で、何とかなるものだ。
こんな状態で、人に会えるわけがない。
自分の好きな人なら、なおさらだ。
好んで読む小説の中では、皆、恋をしてキラキラしてた。
苦しんだり悲しんだりもするけど、それでも幸せになる人たちを見ると、自分も恋をしたいと思う。でも、それは所詮、虚構で、実際にはそんなに簡単に告白なんてできないものでしょう。
仮に勇気出して告白したとして、それが受け止められるとは限らない。断られる可能性の方が高い。
自己研鑽に努めて、メイクやファッションも勉強して、自分に自信をつけたところで、相手の好みに合わないとか、その時の状況とかもあるもの。うまくいくことなんて、稀だよ。
ただ、もし自分に恋人がいたら、少なくとも寒い日に、こんな風に一人で震えてることはないのかもしれないけど。
「寒いなぁ。」
知れず零れる言葉は、そのまま白い息になって、空中に消えていく。
結局体を冷やすことになるのは分かってるけど、熱いコーヒーでも入れて飲もうかと、重い腰を上げる。
コーヒーメーカーが上げるコポコポとした音を聞く。
コーヒー好きの私が、豆からひけるタイプのコーヒーメーカーを買ったのは、一人暮らしを始めて、そうしない内だった。
手でドリップしたほうが、もちろんおいしいのだろうが、私はその手間を全て機械に任せる。基本面倒くさがりなのだ。
恋したいと思いつつ、アプリを使ったり、そういう場に足を運んだりしない。
一人を楽しめばいいと思いつつ、ネットで見るような、キラキラした生活はとてもできない。
美味しいと分かってるのに、コーヒーをドリップで入れる時間を惜しむ。
私はどこまでいっても、中途半端だから、こうして時間を無駄に過ごしてしまう。
熱いコーヒーは、喉から胃へその刺激を伝える。
合わせて何かを口に入れたくなるが、甘いものは何も用意してなかった。
いっそのこと、ケーキでも欲しいくらいだ。甘くて舌がしびれるくらいの。
そんなケーキないけど。
SNSに一言呟けば、それに賛同してくれる人は多々いて、私と同じような生活をしている人も、もちろんたくさんいて、休みの時間を持て余してしまう人も、一人でいるのに飽きて、本当は他の人と関わりあいたいんだけど、行動に起こせない人も多分いる。
「寒いよ。私。」
また、SNSで推しの人のページを眺めてしまう。
仕方ない。過去の投稿でも眺めるかと、作者の世界に潜る。
胸の前で抱きかかえたクッションに私の体温が移り、温かくなったのを感じた。
終
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