【SS】イメージ:虹
イメージ:赤
目の前が真っ赤に塗り潰されている。何度瞬きしても、目に映るものは全て赤い。瞬きを我慢して、何とか涙を絞り出して、この赤を消そうとしてみた。でも、涙が出なかった。
「何なのこれ。」
そう呟いたつもりだったけど、声が出なかった。口は開くのに、なぜだろう。よくよく目を凝らすと、私の目に赤以外の物体が映っていないことに気づいた。私は空を見つめていた。本来は青いであろう空を。
私の背中は何か固いものに当たっている。つまり、私は寝転がっているんだ。起き上がろうと体を動かそうとしても、ピクリとも動かなかった。私が動かせるのは瞼とか、口とか、それほど力を必要としないものばかり。頭すら動かせない。そして、徐々にそんなことを考える私の意識すら遠くなってくる。
私の耳に、サイレンの音。そして、「さよなら」という小さいけど、はっきりとした声が聞こえた。
終(本文365文字)
イメージ:橙
「俺、橙が好きなんだ。」
だから、「自分のイメージカラーにする」と言って、笑う。
私のイメージカラーは、青緑だって。なんか、冴え冴えとした感じが私に合うと言ってくれた。それは、喜んでいいのか、よく分からない。でも、似合うと言われると、自分の中で意識するのか、身に着けるものに青緑のものが増える。
彼も、スニーカーとかに橙を選んだりした。仕事ではスーツだから、橙のものはあまり合わせられないみたいで、私服の小物に取り入れることが多かった。確かに、橙は見ていると、そこはかとなく元気が出る。いつも、私に元気をくれる彼のようだった。
だから、結婚式のイメージカラーも、橙と水色と白を選んだ。青緑ではなく水色なのは、似合う色ではなく、好きな色を優先した結果だった。でも、彼はとても喜んでくれたし、私たちはとてもとても、いい夫婦だったと思うよ。
そして、今、彼が眠っている棺が、橙色の炎に包まれる。
最後の最後まで、橙が好きだったね。
私も同じ色が似合えばよかったのに。
そしたら、こんなふうに泣かずに、笑って別れられたでしょうに。
終(本文453文字)
イメージ:黄
寝室のカーテンは、全て黄色だから、陽の光が差し込むと、部屋全体が黄色く色づく。僕は黄色い光の中、いつも目を覚ます。何となく目覚めが良いようにも感じる。本当に何となくだけど。
ただ、あまりにも明るく感じるから、休みの日に二度寝したり、だらだらと布団の中にいるのには向かない。せっかくの休みなのに、なぜか『動け。』『起きろ。』とせかされているように感じてしまう。それは、とても残念だ。特に予定があるわけでもないのだから、ゆっくり寝ていたい。
でもその日はいつもと違った。
目を開いたら、目の前で規則正しい寝息をたてている君がいる。
こんな日にただ寝ているのは、もったいないと思ってしまう。でも、よく寝ている君を起こすのも偲びない。
君の後ろから、黄色い光が差し込んで。
君を起こさないように、腕の中に引き寄せて目を閉じる。
目の裏に映るのは、黄色い色。
腕の中にあるのは、自分が一人ではないと思わせる温もり。
これが幸せというものなのかもしれないと、ぼんやりと考えた。
終(本文423文字)
イメージ:緑
近くの大きな公園に行こうと誘われた。
そして、芝生の上に、レジャーシートを引いて、その上に寝ころんで、風に吹かれている。周りは木々がいい感じに木陰を作っている。
実はこの公園にはいい思い出がないので、来るのにはかなり躊躇した。昼間に来ると、こんなにも気持ちのいい所なのか、と思った。
私が以前来たのは、夜中だった。
肌寒い空気。さらけ出される肌。数多くの視線。真っ暗な世界。
一緒にいたのは、前に付き合っていた恋人だった。彼はもちろん私を守ってはくれなかった。それが目的で、夜の公園に来たのだから。
その時のことが思い出されて、体が震えた。
隣で寝転がっていた彼が、「大丈夫?寒い?」と声をかけてくれる。寝転がりながら、私のことを抱きしめてくれる。
私は、思わず涙ぐみそうになるのを堪えて、「大丈夫。」と答える。
彼には話せない。忌まわしい記憶。
私はそれを払拭しようと、彼の体越しに、辺りの緑に視線を向ける。
目に映るは、眩しいほどの鮮やかな緑。
終(本文413文字)
イメージ:青
このところ、よく見るアニメのイメージが青らしい。主題歌のタイトルにも青が使われているし、水や海、そして登場人物の瞳の色にも青が効果的に使われている。
私も青が好きだ。着ている服も青系統。でも、残念ながら似合う色ではないらしい。どちらかというと、似合うのは、私が秘かに好きだと思っている彼だった。そういえば、彼が着ている服も青系統だな。彼も青が好きなんだろうか。
そして、私は、彼に青が好きなの?と尋ねるほど、積極的でもない。そんなの大したことじゃない。と言われそうだけど、声をかけるだけでも、私にとっては大きなことなんだよ。
だけど、ある日、たまたま帰りが一緒になった。私達2人だけじゃないけど、暑い日差しが照り付ける中、暑い暑い言いながら、途中のコンビニで棒アイスを買って、歩きながら食べた。なぜか、私と彼が買ったアイスは、サイダー味で、共に青だった。
「おそろいだな。」と、こそっと言ってくれたのは、とっても嬉しかったよ。
終(本文409文字)
イメージ:藍
ああ、また来てしまった。
藍色に広がる空を見ながら、俺はそんなことを思ってしまう。
今日もまた夜が来てしまった。
毎日、毎日、心をすり減らして、麻痺した感覚と共に、一日を何とか終え、繰り返し来る夜の中、深く深く息を吐く。
白く変わる息が、今の夜の深さを思わせる。
駅前で、今日も変わらず、歌っている声に耳を傾ける。でも、足を止めることはしない。いつまで続くだろうかと毎回思って、いつまでも続くかもしれないと少し期待する。いつもと変わらない夜がこうして来るように。
「こんばんは。」
最初、自分に向かってかけられた声だと気づかなかった。でも、相手の視線は真っ直ぐに自分に向けられている。
「今日は立ち止まって聞いてくれるんですね。ありがとうございます。」
そう言って、彼は藍色のボディをしたギターの弦に手を合わせた。
気づかぬうちに、彼の前で立ち止まっていたらしい。
もしかしたら、これは夢なのかもしれない。今までの自分のことを考えれば、こんなことをするわけがなかったから。
ただ、彼が紡ぐ音や歌声は、いつもと変わらず、俺の心に響いた。
終(本文455文字)
イメージ:紫
妻が風呂上がりに、デラウェアをひと房、ガラスの器に盛って、僕の前のテーブルに置いた。
「どうしたの、これ?」
「お母さんがたくさん送ってくれたの。早く食べないと駄目になっちゃうから。」
そう言って、自分の前のものから、紫色の一粒を取り、口に含む。ブドウは嫌いではないが、デラウェアは一粒一粒が小さいから、ちまちまと食べないといけないのが、ネックといえばネックだ。
種がないだけ、ましか。
久しぶりに食べるデラウェアは美味しかった。カニを食べるのと同じように、無心になって、無言で妻と二人、デラウェアを食べる。巨峰のように、皮をむいた手が紫に色づくこともない。
「久しぶりに食べると美味しいわね。」
「でも、何度も食べるほど、好きでもないんだけど。あとどれくらいあるの?」
妻は、僕の言葉を受けて冷蔵庫を開けた。そのまま、その場に立ち尽くしているので、「どうした?」と声をかけながら、彼女の隣に立ち、同じように冷蔵庫を覗き込んだ。
そこには、スイカほどの大きさの、紫色の球体が鎮座していた。
終(本文435文字)
イメージ:虹
これだけ暑くていい天気なのだから、ホースのミストノズルを使ったら、虹が見れるのではないか、と思いついた。
彼女に話したら、「そうかもね。」と気のない返事をされたが、それでも自分の後をついて、外に出ようとするあたり、気になってはいるんだろう。
ついでに、庭の雑草取りと掃き掃除もするつもりだった。最後の最後に、それまで頑張ったご褒美として、虹を見よう。
彼女も僕の考えに賛同してくれ、雑草取りなどを一緒にやってくれた。
それにしても、夏になると雑草の生育の旺盛な事。
ただ、あまりの暑さに一部枯れたり、萎れたりもしている。植物を枯らしてしまう暑さって、相当やばいのではないだろうか。
流れる汗を拭きつつ、2人で仕事ではない会話をぽつぽつとし、気に入っている音楽を聴きつつ、何とか、目に見えるところの雑草は取りつくし、除草剤も撒いた。玄関やたたきの掃き掃除も終わらせた。
後は、庭の植木に水をやりつつ、虹が見られるか試してみよう。
ホースを庭の水栓に繋ぎ、まずはノズルをシャワーに切り替えて、庭木に水をやる。やっぱり、水をかけた方が、緑が生き生きするな。
「早く試してみてよ。」
彼女は、暑そうにしながらも、好奇心が抑えられないといった様子で、自分の肩に手を当てた。僕は彼女に笑ってみせると、ノズルをミストに切り替えて、日の当たっているところに向かって、ホースの先を向けた。
その結果は・・・ぜひ試してみてください。
終(本文593文字)
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