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Official髭男dismの「Subtitle」にインスパイアされてみた話

【短編小説】インスパイア 「Subtitle」

春が来た。
日差しが温かくて、公園のベンチで座っているだけでも、その温かさに眠くなりそうだ。隣に座っている佳奈美のおかげで、寝るわけにはいかないのだけど。

「私、春は嫌い。」
「何で?温かくて、僕は好きだけど。」
「春は別れと出会いの季節というでしょ?それが嫌い。」
「確かに他の季節よりは、別れと出会いが多そうだけど。」

佳奈美は僕にノートを差し出してきた。よくある大学ノート。でも、これにもう何かを追加することはない。

「ありがとう。」
「次は誰に書いてもらうの?」
「まだ決まってない。」
「私は、健也と会えて良かったと思ってるよ。」
「そう、それなら良かった。」

彼女はベンチから立ち上がる。そして、僕を見下ろして言った。

「でも、ずっと自分は健也に片思いしてたような気がする。」
「・・・今度はいい奴捕まえなよ。」
「余計なお世話。じゃあ、さよなら。」
「さよなら。」

彼女は、長いコートの端を翻して、その場を立ち去った。
僕は手にしたノートをペラペラと捲る。ノートには、一ページごとに自分の筆跡と、彼女の筆跡が並んでいる。

僕は何事も忘れやすくて、それに気づいた彼女が交換日記をしようと言ってきた。とにかく2人で過ごしたことをノートに綴っていこうと。それは今日別れるまで続いた。

言葉は不思議だ。こうして形に残せば、それを読み返すだけで、その時のことを思い出せるのに、形に残さないと、ぽろぽろと崩れ落ちて、消えて行ってしまうもの。そうまるで、よく流れた歌の歌詞のように。雪の結晶のように。

僕は、最後のページを開き、彼女が読むことのない文章を書きこむ。

『ずっと自分は健也に片思いをしていた気がする。』

『僕は佳奈美が好きだった。』

書いた字が何かで滲んだのは、たぶん気のせいだ。

「Subtitle」の歌詞は、言葉を扱う物書きに刺さるものだ。

いつも、私の創作物を読んでくださる方、スキをくださる方、フォロワー様、おはようございます。説那せつなです。

皆様は、Official髭男dismの「Subtitle」を聞いたことがありますか?ドラマ「silent」の主題歌です。ですが、私はドラマは全く見ていません。今回、この歌を話題に出したのは、この歌詞が言葉を扱っているから、です。もちろん、曲もいいですけど、今回の注目は歌詞。

noteに記事を書いている人は、言葉を扱っている方々でしょう。私も言葉を扱っている一人になるわけですが、言葉って、ただ口から発するだけだと、本当に残らない。でも、そんな言葉が、誰かの心を震わすと思って、私達は言葉を書き連ねていると思うのです。

歌詞自体は、恋愛ものですし、たった一人の心を震わす言葉を探す内容になっていますが、結構、言葉の本質をついているような気がしてなりません。

曲も歌詞も、著作権侵害が怖くて、ここに載せられないので、気になる方は、探して聞いてみてください。

では、本日は短いですが、この辺りで。
よきnoteライフをお過ごしください。

説那せつな

私の創作物を読んでくださったり、スキやコメントをくだされば嬉しいです。