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令和6年読書の記録 湊かなえ『Nのために』

 かつて、湊かなえさんのラジオ番組で、短編小説を募集しており、それに応募したのが私が小説を書くことになったきっかけの一つです。って作家デビューしたら言うつもりしてます。
 実はその前に土門蘭さんの小説を読み、私は土門さんと顔見知りで、以前我が家のダジャレ弁当が話題になったときに何かとお世話になったりもしたことがあるのですが、知っている人にこんなすごい小説を書く人がいるのか、と衝撃を受け、身近にこんな人がいるのなら、私だって書けるんじゃないか、ということで書きはじめたのが最初で、湊さんと土門さんは私にとって小説を書くきっかけをくれた恩人なのです。ちょっと大袈裟かもですが、実際そんな感じ。

 特に湊さんは二年ほど続いた前述のラジオ番組で、何度か私の作品を採用していただき、寸評を聞かせていただいたこともあり、勝手に師弟関係を築いておる次第なんですが、番組を聴くまで私は湊先生の小説を読んだことがなく、これではいかん!と、以来、『告白』『少女』『贖罪』を読み、令和六年読書初めとなったのが『Nのために』でした。

 文庫の裏表紙には「超高層マンション「スカイローズガーデン」の一室で、そこに住む野口夫妻の変死体が発見された。現場に居合わせたのは、20代の4人の男女。それぞれの証言は驚くべき真実を明らかにしていく。なぜ夫妻は死んだのか?それぞれが想いを寄せるNとは誰なのか?切なさに満ちた、著者初の純愛ミステリー。」とあります。

 変死体で発見される野口夫妻含め主な登場人物は6人で全員、名前か苗字のイニシャルに「N」があります。物語は現場に居合わせた4人の男女の視点で語られ、次第に解像度が上がっていき、読者である我々は、「そういうことか!」と理解できるんですが、作中の4人はそれぞれに知ってること知らないこと、伝えたいこと伝えたくないことがあり、お互いのことをわかっているようないないような、まあ、現実の人間関係でもそうですよね。現実世界では、嘘が真実のように語られ、真実がデマとされたりもします。読者として俯瞰してさえ、「結局、どういうことやったん?」と腑に落ちない部分があるくらいですから、(それは私がよい読者ではないからでしょうけど)現実世界で他人を理解するなんてことは不可能だと思います。

 何気ない会話のなかで「わかるー!」などと宣うことも多いわけですが、軽はずみにそんなことを相手に伝えるのは失礼なのかもしれない。いや、むしろ、そうやって表面上「わかる」ことにしておいて、それ以上深く付き合わないようにしているともいえる。「僕はあなたのこと、わかりますよ。これ以上知らさないでくださいね」っていう、防御線を張っているのかも。

 解像度が上がるごとに見たくないものまで見えてしまうけど、それを見ないと本質には辿り着かないし、それって人間関係しかり、学問しかり。表面だけ擦ってああだこうだ分析して得意げになっていてはいけないんだということを教えてくれた気がします。別に湊先生、そんなことを伝えたかったんじゃないと思いますけど。

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