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連作短編小説『ワンダフルトゥナイト』第3話

「ロールプレイングゲームってあるでしょ」
「俺ゲームやらないからわからない」
「えー、ドラゴンクエストとかファイナルファンタジーとか知らない?」
「うーん、名前はなんとなく知ってるような気がしないでもないけど」
「勇者が仲間と一緒にモンスターを倒しながらレベルアップして最終的に魔王的存在のボスを倒すんだけど」
「冒険するわけだ」
「そう、冒険。モンスターを倒したらどういうわけかお金がもらえて何回か倒すと効果音が出てレベルアップするの」
「雇い主みたいな人がいてモンスター倒すごとに報酬がもらえるってことなのかな」
「違う。モンスターを倒したらお金が出てくるの」
「どういうこと?」
「どういうことってそういうこと。モンスターを倒したらお金が出てくるの」
「どこから?」
「知らない。たぶん倒したらモンスターがお金に変わるんだと思う」
「じゃあたくさんモンスターがいる地域は潤うね」
「いや、たくさん出てきても弱っちかったらあまりお金がもらえないから強いモンスターが出てこないとダメ」
「じゃあ強いモンスターがたくさん出てくる場所がいちばん経済的に強いわけだ」
「考えたことなかったけど確かにそうかもしれない。強いモンスターが出てくるところほどお値段の張る強力な武器を売ってるよ」
「逆に弱いモンスターばかり出てくるところは企業努力で安いなりにいい商品を作ってるみたいな」
「うーん、それはわからないけど弱いところの武器は安くて攻撃力もしょぼい」
「値段の割にどうかっていうのはユーザーが判断していくっていうゲームか」
「いや、そういうゲームではない」
「違うの?」
「全然違う」
「じゃあどうしてそんな話をしてきたの?」
「あたしは別にそういう話をしたいわけじゃなくてもっと違う話がしたかったのをわっくんがそういう話にもっていっただけだよ」
「まあ、話なんて流れるものだからね」
「そんな言い方すると開き直ってるみたいで感じ悪いし、あたし以外にはしないほうがいいよ」
「レイちゃんにはいいの?」
「あたしだって他の人にされたらイヤ」
 ふいにわっくんがあたしの唇に唇を重ねてきた。本当はこんな話がしたかったわけじゃないし、こんなぞんざいなキスをするつもりもなかったのにそれでもあたしはわっくんのことを受け入れてしまう。話以外のことも流れるものなのだ。ワンダフルトゥナイト。君はいとしのレイラ。

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