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2023年1月に読んだ本

読書のことをインプットなどと言われると腹が立つ。

1 岩浪れんじ『コーポ・ア・コーポ5』★★★★☆

実写映画化決定とのこと。主人公ユリは伊藤沙里とかぽいなと思うけど彼女はもう忙しすぎるか。読者人気投票1位がダントツ岡林さんなのはとてもこの漫画らしい。因みに私が好きなのはカズオ。アイツはぞくぞくするヤバさがある。

2 山﨑修平『テーゲベックのきれいな香り』★★★★★

テーゲベックを食べたことがなかったのでユーハイムで買って食べてみた。甘すぎない素朴なお味。孫に食べさせたい。
作者は元々詩人でもあり、そして評論家でもある。これからは小説家でもあるということになるか。本作は一応小説ということになっており、小説ではあるのだが、小説、詩、評論の垣根を超え駆け巡るような小説である。
詩でも小説でも評論でも何でもいいのだが、その文章の良し悪しを判断するときの一つ重要な指標として、その文章を読んで自分も書きたくなるか、ということがある。人に自分も何か書きたいと思わせる文章はいい文章だ。これは間違いなく。その点において、この小説はいい小説だったと言わざるを得ないだろう。
職質から始まり、東京への愛憎をビートに乗せる、坂道、隠しきれない獣性と育ちの良さ、第一詩集に出てくる固有名詞を辿り、失くしたものについて話している、この世に生まれたこと私たちが出会えたこと、それ自体を言祝ぐ言葉たち。虎子がこんな形で日の目を見るとは。実話かどうかは知れないが長く一緒にいた彼女がフランスにパントマイムの修行に行った話が私はとても好きだ。喪失と祝祭、彼の書くものに低く重く通底するビートと詩的言語が成せる跳躍のエンドロール、これからもこんな日々が続いていく。

3 ワクサカソウヘイ『出セイカツ記』★★★★☆

一定の生活水準を何が何でも維持し続けなければならないという強迫観念めいたものから解き放たれたい、というそもそもの動機は我々の世代なら誰しも思うような凡庸さなのに何で最初っから野草を食ってんだ。副題が「衣食住という不安からの逃避行」。ここまで真剣に逃げようとできる人も稀有である。
野草を食ったり、魚を銛で突いたり、最初の方は私も試してみたいと思える内容だったが、その域は第二章にして早々に飛び出てしまう。絶食ではなく不食とか言って6日間何も食わないとかやっている時点で危うさは感じていたが、最終的には一年間布団の中で寝続けるとかやってて、そんなことYouTuberでもやらんよ、ほんと大真面目に馬鹿なんだなと思った。褒めてないが貶してはいない。面白かった。文章が上手い。

4 リチャード・ラング『彼女は水曜日に死んだ』吉野弘人訳★★★☆☆

表紙が水によって激しく損傷してしまい萎えている。
様々な形で犯罪に何らか関わりを持ってしまった人たちの短編集。主題はアメリカ小説にありがちと言えばありがち。ドラッグが主題になっているものなどは特にそう思う。表題作の彼女もドラッグで死んだ女だ。ドラッグや犯罪を描くにはスピード感やユーモアが足りない気がする。
しかしこの短編集の醍醐味はそこにはなく、犯罪の唯一の目撃者であるがギャングからの報復を恐れて通報できないでいる老女や、密入国する途中で山火事に巻き込まれた親戚を探しに父親に連れられて山に入る少年など、市井の普通の人々の描写の方に良さが出ていると感じた。静かで硬質な筆致、細くて神経質な明朝体がよく似合う。

5 フィッツジェラルド『夜はやさし』谷口睦男訳★★★★★

『グレート・ギャツビー』よりこっちの方が好きだというひとがいるのはよくわかった。私もどちらが好きかと言われたらこちらをあげるだろう、読む前からそうと何となくわかっていて読み始めた。明らかに『グレート・ギャツビー』の方が小説としての完成度は高いのだが、不完全であるがゆえに魅力を放つタイプの人間と同じように、一部の人間からどうしようもなく愛されてしまう類いの小説である。
仕事のキャリアが絶頂にあるようなときに美しいクライアントと恋愛結婚、その数年後若くこれまた美しい女性と激しい不倫をし、だんだん落ちぶれていく男の話、『グレイト・ギャツビー』然り言ってしまえばありがちでしょうもない話なのだけど何でこんなに面白いのだろうか。それはやはりまず一に文体がいいから、小説はまず文体、文体が大事なのだと改めて思わされる。

6 川上未映子・村上春樹『みみずくは黄昏に飛びたつ』★★★☆☆

村上 映画というのは総合芸術ですよね。役者がいて、監督がいて、シナリオライターがいて、カメラがいて、予算があって、いろんな人の力が集まってできあがる芸術です。僕はそういうのにはどうも向かない。小説というのは最初から最後まで一人だけでやれます。こんなに楽しいことはない。
――そう、まあ、ごく控えめに言って最高ですよね(笑)。
村上 うん。とにかく机があって、紙とペンがあればできちゃうわけだから、こんな楽なことはないですよね。誰に文句言われることもないし、なんだって自分の好きなように書ける。書いたものをけなされても褒められても、それを引き受けるのは一人じゃないですか。そういうのは潔くていいし、僕はそういうのが好きだから。
――村上さんの性格に本当によく合っていたんですね。
村上 うん、まさに転職です。長いあいだずっと一人でいても、淋しいとか思うことはまずありませんから。

川上未映子が村上春樹にインタビューするという形式の対談をまとめたもの。上記の引用箇所がとても好き。最初から最後まで一人でやれるってごく控えめに言っても最高、これは間違いなく。

7 小津夜景『花と夜盗』★★★★☆

英娘鏖 はなさいてみのらぬ むすめ みなごろし

名前に親近感を感じたため購入した。歌集。帯にあった上の歌が好き。夜の曼珠沙華のような妖しい歌たち。

8 アレン・ギンズバーグ『吠える その他の詩』柴田元幸訳★★★☆☆

私の友人の書く詩にようだと思った。見えてるものすべてが灰色がかった貧しさを感じさせる。圧迫感。閉塞感。真綿で首を絞められているかのような、じわじわと心身ともに追い詰められていく生活。アメリカで同じ時代に生きていたら衝撃を受けたのかもしれない。

9 谷川電話『深呼吸広場』★★★☆☆

キューピーマヨネーズのような装丁の歌集。何か歌も野菜スティックをマヨネーズにディップして食べているような感じがする。

感情を持つべきという抑圧を知らずに軽やかなハムスター


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