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2023年2月に読んだ本

もうやめたのかと思ったでしょう。サボりすぎた。2月に本を読みすぎて書くのがだるくてだらだらしていたらなんと半年経っていた。何という体たらく!

1 モーパッサン『脂肪のかたまり』高山鉄男訳★★★★☆

津村記久子『やりなおし世界文学』に載っていて面白そうだったので買った。面白い。脂肪のかたまりという渾名はひどすぎる。扱いもひどすぎる。食べ物もらったくせに。しかし料理は本当に美味しそう。

2 石黒正数『ネムルバカ』★★☆☆☆

最後のシーンが描きたいだけの漫画という気がした。先輩みたいな立ち居振る舞いと成り上がり方、そのぶち壊し方に憧れるのわかるけど、フィクショナルすぎると感じた。フィクショナルなのが悪いわけじゃないんだけど、男の妄想、こんな先輩いたらいいよね。現実はこうは行かない、全然行かないんだよ。こう行っているように一見見える人がいたとしても、それはフィクション、見たいものを見てるだけ。

3 橘上『SUPREME has come』★★★★☆

「時代はもう現代詩」
「現代詩の時代じゃないぜ」

「時代はもう現代詩(NO シャブ NO LIFE EDIT)」

「マイナーであることが誇りの現代詩」
「現代美術や小劇場がメジャーに見えるほどのマイナー業界」

「超現代詩人橘上」

テキストを用意しない即興詩をテキストに起こした詩集。いぬのせなか座の変わった紙面が面白い。上手くはない、しかし強い詩。他の人たちとベクトルが全然違って面白い。これからも追っていきたい詩人。「男はみんな川崎生まれ」。

4 さくらももこ『ちびしかくちゃん』★★☆☆☆

さくらももこの遺作。『ちびまる子ちゃん』のセルフパロディのようなものか。晩節を汚しまくっている。さくらももこの底意地の悪さが存分に発揮されている。どれもひどい。特にだまちゃんはたまちゃんの反動で信じられないくらい性格が悪い。何でこんなものを描いたんだ!理解できない。

5 遠野遥『浮遊』★★☆☆☆

遠野遥みたいな小説を書きたい小説家ワナビーってたくさんいるけど、遠野遥の真似をしようとすると大抵読むに堪えない代物になる。
今までの遠野遥作品の中では一番面白くなかった。なぜだろう。今までの作品の主人公はみんな一筋の強い美学を持っていて、それがゆえに社会と齟齬を来たしていたように感じたが、今回の主人公にはそれがあまり感じられなかったからか。今回主人公がはじめて女性だったが、それは関係しているのだろうか。一読であまり浅はかなことを書きたてたくないのでこのくらいでやめておくが、うーん。

6 panpanya『動物たち』★★★☆☆

安定して和む。疲れているときにいい。LINEスタンプにあるコマが出てくると嬉しい。

7 山田亮太『XT NOTE』★★★☆☆

3の橘上『SUPREME has come』と同じ公演を基にした詩集。4冊セットのうちの1冊。同じ公演を基に作っているのに橘上の詩と全然違って面白い。橘上の詩は橘上らしいし、山田亮太の詩は山田亮太らしい。橘上がゴシックで山田亮太が明朝なのはよく分かる。でもやっぱり橘上の方がこの企画向きなんじゃないかという気がするな。

8 木村朗子『平安貴族サバイバル』★★★☆☆

平安時代って大きな争いはなかったけど階級社会で、限られたパイを奪い合っていて、生まれついた階級から出るには基本学問を修めるしかなかったあたりとかかなり現代っぽいよね、という入りから、平安時代を現代に引き寄せて解説してくれる本。タイトルにサバイバルとあるように、HOW TO 本や自己啓発っぽいニュアンスもあって面白い。

9 ロイド・スペンサー・デイヴィス『ペンギンもつらいよ』上田一生・沼田美穂子訳★★★★★

マジで最高の本。まずペンギンの写真がたくさん載っている。それだけでも最高。この類の翻訳書ってたまに恐ろしく面白くなかったり、文体がウザすぎて最悪だったりするが、この本は文章も面白い。ペンギン好きにはオススメする。

10 T・ジョーンズ『拳闘士の休息』★★★★★

岸本佐知子翻訳作品で未読のものを読んでいこうと思い。とても面白い。ベトナム戦争で従軍していた経験を基にした作品が目立つが、末期がんの老婆の一人称小説なども面白い。

人は時に徹底的にぶちのめされることで救われる

11 サマンタ・シュウェブリン『七つのからっぽな家』見田悠子訳★★★★★

面白かった。普通から少しだけズレていて、そのズレからできた隙間から何かが覗いている、そんな日常に潜む不気味さがある。もう一回読み直したい。

12 サマンタ・シュウェブリン『口のなかの小鳥たち』松本健二訳★★★★★

この人の作品は幻想の中に日常があるのではなく、日常の中に幻想がある。幻想を狂気と言い換えることもできるか。もう一回くらい読まないと何か書くのは難しい。

13 水沢勉『エゴン・シーレ まなざしの痛み』★★★★☆

都美でやっていたエゴン・シーレ展で買った。エゴン・シーレ、とても好きだ。ひりついた粘膜と粘膜を擦り合わせるような裸体のスケッチ。内省的な絵だなと思う。

14 カルメン・マリア・マチャド『彼女の体とその他の断片』小澤英美・小澤身和子・岸本佐知子・松田青子訳

女性の身体を巡る短編が収められた短編集。しかし「身体」ということが問題になるのは男より圧倒的に女であるということ、女は「痛み」によって「身体」と向き合わざるを得ない。「身体」とはそれそのまま「痛み」のことだ。「身体」があって「痛み」があるのではない。「痛み」があるから「身体」がある。「身体」を巡る男と女の生物学的な不均衡とそれを助長する社会的な不均衡。男も「痛み」を知ればいい。

15 宮田珠己『ジェットコースターにもほどがある』★★★★★

新宿の紀伊國屋書店で取り上げていたので気になって読んだ。本屋ってこういう出会いがあるからよい。とにかく世界中のジェットコースターに乗って乗って乗りまくる。出てくる人間も当然変わった人が多く、面白い。著者は「うりゃうりゃ」という独特の擬態語を使うのだが、それが妙に癖になり、「うりゃうりゃ」が出てくるとうれしい。

暗闇のなかを光のように疾走する『ミレニアムフォース』。ものすごい速さだ。
これだよ、これ、この滑らかな走り。これを味わうためなら、私は何度だって海を渡るぞ!
全身を、うりゃうりゃが駆け抜けていく。
いつしか右の拳を前方に突き出していた。
やっぱりジェットコースターは最高だ。
老人になってもいくつになっても載り続けたい。心からそう思ったのだった。

16 済東鉄腸『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』★★★☆☆

「ったんだ」「ったんだよ」が頻発する文体がウザいが、書いてある内容は興味深い。タイトルまんまの内容。引きこもりというワードからは想像できないほど、常人離れした行動力がある。このレベルで行動力があると人生ってこんなことになったりするのかという、呆れを超えた敬意を覚えた。真似できない生き方はどうしたって美しい。

17 兼本浩祐『普通という異常』★★★★☆

新書。Twitterでフォロワーが読んでいて面白そうだったので。
健常発達の人の行動のほとんどは「色・金・名誉」で説明できるのではないか、これに「色・金・名誉」を享受するための「体(健康)」を加えれば、これ以外のことを人生の本当の動機にして生きるのってかなり難しいことなんでは、という問題提起が始めの方にされるのだが、これはなかなか本質的な問いのように思われ興味深い。忘れているし、理解しきれていないので、もう一回読み直したい。

18 川上未映子『黄色い家』★★★★★

貪るように読んだ。最後の方は京都から終電の新幹線、満員立乗りの自由席で食い入るように読んで、品川と東京の間で読み終えた。
川上未映子はキャリアを重ね、世界的にも評価されるようになったが、本当に昔と変わらない軸がある。真面目すぎるほど真面目な信頼できる書き手だ。

みんな、どうやって生きているのだろう。道ですれ違う人、喫茶店で新聞を読んでいる人、居酒屋で酒を飲んだり、ラーメンを食べたり、仲間でどこかに出かけて思い出をつくったり、どこかから来てどこかへ行く人たち、普通に笑ったり怒ったり泣いたりしている、つまり今日を生きて明日もそのつづきを生きることのできる人たちは、どうやって生活しているのだろう。そういう人たちがまともな仕事についてまともな金を稼いでいることは知っている。でもわたしがわからなかったのは、その人たちがいったいどうやって、そのまともな世界でまともに生きていく資格のようなものを手に入れたのかということだった。どうやってそっちの世界の人間になれたのかということだった。わたしは誰かに教えてほしかった。

私も主人公の花ちゃんと同じくらいの歳の頃、みんなどうやって生きているのだろうと思っていた。これから先まともに生きていけるとは到底思えない精神状態だった。でも、私はあくまで花ちゃんから見た「そっちの世界の人間」だった。それは単に生まれだ。要は親である。親が「そっちの世界の人間」だったから、私も「そっちの世界の人間」になれた。
親が「そっちの世界の人間」でも落ちていく人間はたくさんいる。しかし花ちゃんは真面目だ。クソがつくほど真面目な人間なのにまともに生きられないのは生まれのせいだ。たしかに、花ちゃんが金に執着するようになるまでは段階がある。偶然の悲劇がこれでもかと重なる。

「いっくらでも言ってあげるよ、あんたくらい苦労した人はいないよね、すごいよね、あんたに比べたら、わたしらみんなぬるま湯バカすぎ温室育ちでごめんなさーいってね、あははははっ、でもね、あんたはほんとはべつにすごくもなんもないよ、あんたはただの運がない人、ただの可哀想な人、風水とか占いにすがるしかない、そういう人。わかる? 仲間使って支配して、ボロ家に住んでカード詐欺で汚い金集めて生きていくしかない、それでにっちにもさっちもいかなくなってる中卒水商売のどうしようもない人、他人のために一生懸命やってる顔して、本当は自分が気持ちよくなりたいだけの人、わかります? 威張れる誰か、支配できる誰かがいないと生きていけない、あんたはそんなやつだよ、そこ忘れんなっ」

川上未映子は女同士の地獄の罵倒合戦を書くのが昔から本当に上手い。爽快なくらいズバズバと悪口をまくし立てる。この類いの描写が彼女以上に上手い人私はまだ読んだことがない。
桃子から花ちゃんへの罵倒は的確かつ不意打ちで、花ちゃんに感情移入しながら読んでいた読者を刺し殺す。事実、運がない人っているのだ。運がないと思い込んでいる努力の足りない人がわんさかいるせいでなかなか炙り出されることがないが、本当に運がないとしか言いようのない人って稀にいる。真面目だからこそハマるドツボ。私にも若干心当たりがありくるしい。
頼りない母親と子供のような周りの大人たち、学がなく頭も悪い友達に、たまに現れる虫けらのような男たち。けれど600頁にも及ぶこの大作を読み終えて、この1冊はどんな小説だったかと聞かれたら私は「青春小説」と答えるだろう。まだ何も知らない、人生未経験だからこそできる全力疾走、迸る熱量は青春そのものだ。みんなでスナックしているときやアタックしているときなんかは文化祭や部活のようで、キラキラしている。花ちゃんは運はないが、たぶん不幸じゃないと思う。

19 鳥飼茜『サターンリターン9・10』★★★★☆

とうとう終わった。9・10を読んで、ピークは8だったんだと思った。全部一気に読み直したらもうちょっとしっかり何か書けるかも。しかしほんと、人騒がせな女。

やっぱりこんなに時間が経っていると忘れている。よくない。いくらなんでもサボりすぎた。

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