見出し画像

昔行ったレストランにしよう

古めの会社で働いているせいか、会社のおじさん達の謎のマウントの取り合いを目にすることがある。

それは僕が「家族不幸マウント」と勝手に呼んでいるやつで、どっちが家族に嫌われているとか、家にいない時間がどれだけ多いかみたいなやつだ。

タチが悪いと「働く男の当たり前の姿」として周囲にもなんとなくそれを求めてくることだってある。

僕はもう本当にどうでも良いと思っているので、正直「うるせーな」と思って聞いているのだけど、ふと自分を振り返ってなんだか危険な予感がしてしまったのだ。


✳︎✳︎✳︎


年末に第二子を控えている我々夫婦はあまり良い雰囲気とは言えない。

もうすぐ2歳になる長男は要求の限りをそれこそ全身を使って尽くしてきて、身重の妻はそれに手を焼いている。

僕はというと、妻が暴れる長男の寝かしつけが出来ないため毎晩抱っこ紐で街中を徘徊していて、そろそろ持病のある腰が破壊される予定だ。

息子の叫び声と妻のため息が交互に響く。妻から指示が飛び、黙って僕が従う。

この繰り返しだ。

そんなこんなで家の中の雰囲気はあまり良くないと思う。

だから、ああ、こうやってあのおじさん達のようになっていくのか、と少し気持ちが分かりかけたり、同じ未来を受け入れそうになりながらもぶんぶんと頭を振って考える。

そうだ、ケアが必要だ。

東畑開人さんがケアとセラピーについてこの本で言っていた。

ケアは傷付けないこと、セラピーとは傷つきに向き合うこと

ここで妻に子育て論を振りかざしたら残念な結末は目に見えている。それはセラピーだ。妻は疲れて傷付いている。だからケアが必要なのだ。(僕の腰のケアは?)

ということで早速ケア(レストラン)を予約しよう。

息子を初めて義母に任せて、2人で少しリッチなランチを嗜むのだ。

そう、妻も、僕も単純なのだ。

リッチっぽさを醸し出すためにはフレンチということで、「東京 フレンチ ランチ 予約」で検索して、立地的に行きやすそうなあるレストランを予約しようとした。

あれ?なんか聞いたことあるかも?

そう思った僕は妻とのLINEのやりとりの履歴をレストラン名で検索する。するとすぐさま履歴が出てきた。

「◯◯◯(店名)予約できたよ姫」

どうやらその時、妻は姫だったようだ。

当時のそのやり取りの前後も出て来て、とんでもなく恥ずかしかったのですぐLINEを落とした。

そしてそのレストランは過去に2人で行ったことのあるレストランだったようである。

昔、姫をもてなすために僕が探し当てた、忘れてしまっていたレストラン。

僕は別の所にしようかな、とも思ったけど、結局そのレストランを予約することにした。


✳︎✳︎✳︎


本当に驚くほどあっという間に毎日は過ぎ去って、僕らの感情やコミュニケーションは簡単に置き去りにされる。

そして気づいた時には、おじさん達の二の舞だ。

結婚ってのはお互い向き合うんじゃなくて、同じ方向を向いて歩いていくのだよ。

よく言われたものだけど、僕たちはどうやらそれだけじゃ足りないようで、少し行っては振り返って、また行っては振り返ったりを繰り返すことが必要なようだ。

まあいいや、あのレストランに2人で行って、少しお互いに振り返って、そしてちょっと恥ずかしい気持ちになろう。

そうやっておじさん達の話にいつまでも「うるせーな」と思っていられるようにしよう。



読んでくださって、ありがとうございました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?