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「彼女の願い」

シナセン課題⑧万年筆

この話を提出するかしないかは別として、万年筆のお題で話を書いてみた。


人物
諏訪文隆(62)無職
箱島祐樹(42)医者
吾妻公人(61)無職



○病院・診察室
看護師が手際良く次の診察の準備をしている。

諏訪文隆(62)は椅子に座って箱島祐樹(42)の横顔を見つめている。

箱島がパソコンから視線を外し、諏訪と向き合う。
箱島「恐らく、記憶障害でしょう。まだ症状は軽いようですが、いずれはー」
一瞬無音になる。


諏訪「…そうですか。ありがとうございました」
椅子から腰を上げる諏訪。


○川岸の土手(夕)
手を繋いで歩く老夫婦と諏訪がすれ違う。
歩きながら川岸の方へ目をやる諏訪。
川岸では若いカップルがカメラの画面を覗いて笑い合っている。


○諏訪の家・書斎(夕)
帰宅した諏訪が入ってくる。
電気を点けずに書斎の座椅子に腰掛ける。
薄暗く静かな部屋の中。棚に飾られた写真と、その横に、「あなたにあげる」と歪な字で書かれた小さな紙切れ。


写真の中で微笑んでいる女性がぼんやりと映る。
写真を見つめながら、机に置かれていた万年筆(kiyokaの刻印入り)を握りしめる諏訪。
諏訪「…大丈夫だよ」


卓上ランプの灯りを点け、広げたノートに震える手で文字を書き込む。
諏訪「だいじょうぶ…」
かすれかけた細い文字に滴が落ちる。



○同・居間(夜)
2年後。
居間のカウンターに置かれた電話が鳴る。


諏訪が受話器を手に取り、
諏訪「はい、諏訪です」
吾妻の声「お久しぶり、吾妻公人です。元気にしてました?」
諏訪「…どちら様ですか」
諏訪、絶句する相手に怪訝な顔をして受話器を降ろす。


○同・書斎(夜)
諏訪、ドアを開けて入ってくる。

部屋の電気を点け、座椅子に腰掛けると、机の上に置かれたノートを開いて首を傾げる。
ところどころの文字が滲み原形を失っている。
諏訪「…はて、誰のものか」
諏訪がノートを閉じて机の隅に置く。

日めくりカレンダーをちぎり、裏返して万年筆の先を立てる。
諏訪「ダメだこりゃ」
インクの出なくなった万年筆を机の隅に追いやる。
諏訪「ふわぁぁ。…ん、私はここで何を…まぁいいか」
欠伸をする諏訪の横顔と、向こう棚に、物陰で人物の顔が隠れた写真立てが映る。fin


ーーーーーー
幸せな話を書きたいって思ってた。
でも、考えてるうちに個人的な気持ちが先走った。

過ぎた時間も記憶の中ではいつまでも存在させる事ができるけど、
人間の記憶は曖昧なものだと思うし
今回の話のように、自分の意に反して消えていく事もあるから

だからこそ私の場合は、足掻いてでも残そうと手段を取るだろうし、

書いてて、最終的な願望って割と傲慢なものなのかもしれないって思った


なんてね

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