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ビールの話をカウンターで聞きながら味わう夢

「ビール」について考えるとき思い出す人がいる。

とある案件でたまたま自社から私が、他社の一つからその人が担当しただけの縁で、友人とも言えない関係。

移動中の雑談の中で聞いたのが、彼のビール好きが高じてドイツを旅してまわった話。仕事よりも生き生きと語るその内容がとても面白くて、「それで?」と続きをせかしたのをよく覚えている。

「いつかこの地でビール専門のバーを開きたい」という彼の夢に「絶対に行くね」と私にとっては固く誓った応援をした。

会社も業種も違っていて、その後の接点といえばSNSで流れてくる情報くらい。当時の所属からは離れたことと、後に結婚したことは知っている程度。愛嬌のある彼と並んで似合う、笑顔のかわいい奥さんが印象的だった。

この小さな地方都市のささやかな繁華街の一角に、彼が運営するビール専門バーができたら。

ビールのことを考えるとき、この想像がいつもセットになって思い浮かぶようになった。

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林伸次さんがビールについての小説を書いたと知って、速攻で読んだのは言うまでもないことで。

意欲があっても行動しなければ実現しない。行動するには資金がいる。

若者が夢を描き、資金も工面できて、行動力で実践して、その通りに叶えばとても素晴らしいアイデア。なのに維持して回していくことにまた大きな壁があって大変に難しい現実。

どの地方都市にもある打ちのめされた過去の残骸を目の当たりにしながら、救いのように出てくるのが、ビールに関わる数々のキーワードだった。

ペールエール、ラガービール、IPA(インディア・ペール・エール)、ホワイトビール、スタウト(黒ビール)、ジンジャーエール。

イギリス、アイルランド、ベルギー、ドイツ。

オクトーバーフェスト。

ホップ。

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信州にあるブルワリーのホップ収穫祭に参加した。楽しさと共に感じた手触りと香りが今も強烈に残っている。

ビールと言えば麦とホップ。

そのフレーズは多くの人が知っていても、麦に比べてホップは身近ではなくて、なんとなく「そういうものがあるんだろうな」と海外のような遠さを感じていた。

あたりまえだけどビールの原料は農産物で、小説に登場するベンの家族みたいな人たちが丁寧に育てていて、そこには長い歴史があって、その一番最後のところを私たちはビールとして日常的に味わっている。

小説を読んで、私も店のカウンターでビールの話を聞きたいと思った。

この機会がなければ書き残すこともなかった話。

当時の白昼夢。

いつか彼がオープンするビール専門バーに通いたい。愛嬌のある彼と、笑顔の奥さんと、改めて友人として始め直したい。

ドイツのビール、ドイツのホップ農場の話を私はもっともっと聞きたい。

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