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専門職としての流儀は「できること」「できないこと」の理解

■ 専門職とは何か?


介護サービスは、異なる分野の専門職が連携して1人1人の利用者(高齢者)を支援する。

もちろん、1つの介護事業所だけで支援がまかなえることもあるが、利用者本人の状態やご家族の希望などをもって客観的かつ総合的に支援をしようとするならば、色々なスキルや社会資源を活用することは不可欠となる。

例えば、在宅の利用者を支援するための専門職を挙げると、ケアマネージャー、医師、看護師、理学療法士、福祉用具、訪問介護サービス・・・等々。その他、細かく挙げればもっとある。

それぞれの専門職としてのスキルや経験を活かして、平時に連絡をとりあったり定期的に話し合いの場を設けたりして、チームプレイで支援を進める。

では、専門職とはスキルや経験がある人を指すのだろうか?

もちろん、専門職と言うからには知識や技術は必要であり、特に資格は対外的に分かりやすい証明である。また、テキストや訓練では得られない、経験によって得られる直感や視点もある。

しかし、スキルや経験があるだけでは専門職とは言えないと思う。その理由を以下でお伝えしたい。


■「あえて手を出さない」をわきまえる


自分の身に付けたスキルや経験を活かして仕事ができれば、充実感があるのは言うまでもない。しかし、仕事のすべてで活かせるなんてことはない。直接的に自分のスキルや経験を活かせる場面は、全体の10%も発揮できないのが現実であろう。

また、スキルや経験を活用できる場面がないばかりでなく、活用できる場があっても意図的に手を出さないほうが良いこともある。

例えば、介護サービスの基本的な考え方は「自立支援」である。
つまり、できることは自分で行い、できないことは専門職らで支援するというスタンスである。

しかし、介護職員の中には、自分のスキルや経験を活かそうとするあまり、利用者に何でもかんでもやってあげている状態になってしまう場合がある。それは自立支援の妨げであり、介護の専門職とは乖離している。

つまり、いくらスキルや経験があっても、ときには「あえて手を出さない」という場面もあることをわきまえていることも、専門職としてのあり方なのだ。

もしも、良かれと思って利用者に何でもかんでも手を出そうとする介護者がいたならば、介護の専門職以前に、介護の基礎から学んだほうが良いだろう。


■ 専門職としてできない範囲を認める


ここで介護サービスにおける自立支援の考えに倣ってみたとき、実はこれは専門職のあり方も同様である。

それは、専門職とは言えど「できること」「できないこと」はあるという話であり、「専門職として手を出して良い範囲」と「専門職でも手を出せない範囲」があるという話でもある。

介護の専門職と言っても、上記でお伝えしたように色々な役割がある。色々な専門職が存在する。

例えば、いくら訪問介護サービスとして利用者と接する機会が多いと言っても、日常の様子や意見交換はできても、ケアマネージャーの役割である計画作成はできない。
また、医師レベルの医療知識のある介護職員がいたとしても、介護職員であるならば医療的な判断はすべきではない。かかりつけ医や連携している看護ステーションなどに相談するのが適切だ。

このような話をすると、介護者の中には「自分はこの分野において、それなりのスキルや経験もあるのに、やってはいけないのは不満だ!」と言って暴走してしまう人がいる。

しかし、自分の立場として「できること」「できないこと」を受け入れることも、専門職としてのあり方だと思う。

それに何度も言うが、介護サービスは色々な専門職のチームプレイで成立している。その中の1人が自分のスキルや経験をもって対応(暴走)してしまったら、本来役割を担うはずの他の専門職はどう思うだろう? 
おそらく、その個人に対してだけでなく、その事業所に対しても不信感を抱くことになるはずだ。それははたして、チームプレイと言えるのか?


■ 「できること」「できないこと」の境界線


では、専門職としての「できること」「できないこと」の境界線はどこにあるのか?

分かりやすいところで言えば、それは「法律」がある。

それは「●●を行えるのは✕✕以上の資格を有している者に限る」とか「但し、~~の場合は✕✕のみに限り実施を可能とする」といった感じで書かれている、誰もが一目で読みたくなくなる文言のアレだが、法律と言って大袈裟に感じるならば、制度や規約、あるいはルールまで下げて差し支えない。

それでも、専門職を名乗るならば、法律は切っても切れない。

なぜならば、法律あるいは制度やルールを知らないとなると、自分の専門職として「できること」以上のことをしてしまったり、本来のやるべきことをやっていない状態になるリスクがあるからだ。

法律も知らないで「自分のスキルや経験を活かすぞ!」と意気込んだところで待っているのは、注意や指導、周囲からの不信感だ。
それだけならばマシかもしれない。場合によっては、違法行為に該当してしまうかもしれない。

例えば、介護者であっても医療行為の一部をできることはあるが、医師の同意や資格や訓練が必要だったり、しかるべきプロセスを経ていることが前提となる行為もある。そこを半端な理解のまま、不十分な体制でやってしまうと後で大きな問題になってしまう。
下手をすると、連携している他事業所や医療機関にも迷惑をかけることだって十分にありえる。


■ 自分ができないことは他の専門職へ


何を言いたいのかと言うと、すべてを自分で解決しようとする必要はないということである。

上記で役割の範囲を「なわばり」と言ったが、自分の対応範囲内の役割を済ませたら、すぐに別な専門職にその場所を明け渡せばいいのだ。

「ここまでは自分の専門職としての役割を果たしました・・・ここから先はそちらの専門職の役割をお願いします」とバトンタッチしてしまおう。

利用者のことを気にかけるあまり、何でもかんでも手を出そうとする介護者はいるが、自分の役割を果たせる場面でないと見極めることもスキルだし、そうと分かったら一歩引く、あるいは撤収するということだって専門職としてのあり方である。
そうしないと、その場で役割を果たしている最中の専門職から見たら、ただの邪魔でしかない。


――― 何だか説教臭い話となって申し訳ないが、自分の役割を適切な範囲内で果たすことが専門職のあり方であることだけは、ご理解いただきたい。

それをチームプレイとして、それぞれが遂行したときはじめて、利用者にとっても各専門職としても気持ちのいい成果が得られると思うのだ。

法律を完璧に理解するまでしなくても良いが、チームで話し合いをする機会があったら、お互いの「できること」「できないこと」を都度共有することから始めてみてはいかがだろう?


ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。

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