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【介護事故】介護職員のメンタルケアを早期に行うことも、結果的に再発防止につながる

再発防止の重要性

介護現場において、事故・ひやりはっとは必ず起こる。
と言うか、事故とまでは言えなくても「あ~危なかった」という程度の危険な出来事に出くわすことは、どんな仕事でも、何気ない日常でも、大なり小なり存在するものだ。
特に大ごとにならなければ、何食わぬ顔でこれまで通りの日々を過ごし、危ない目にあったことを忘れてしまう。それが人間である。

しかし、仕事内容や業種、立場によっては「あ~危なかった」で終わらせてはいけないもの。介護でも、事故・ひやりはっとが発生したら、しかるべき対応、検証、記録、行政への報告・・・というプロセスを経て、関係者での共有と再発防止に努める義務がある。
再発防止のためには「なぜこの事故・ひやりはっとは起きたのか?」という原因の特定が重要であることは、誰もが知っていることだ。そして、その原因に対して適切な対策が立案できることが重要であることも、誰もが知っていることだ。

抽象的になりがちな「今後の対策」

しかし、訪問介護サービスの管理者として色々な事故・ひやりはっとの再発防止に努めてきた立場からすると、このような重要なことが的確に行える介護職員は少ないというのが本音だ。

これは事故・ひやりはっとの報告書の中にある、いわゆる「今後の対策」といった再発防止の取り組みを記入する欄を見れば分かると思う。次のようなことを対策として書いている職員は意外に多い。

・もっと危機意識を持つ
・利用者をよく観察する
・情報共有を徹底する

・・・どのようなケースでも、事故・ひやりはっとの当事者たる介護職員から提出された第一報としての報告書に書かれる対策は、このような抽象的なものが多い。このような対策で、本当に再発防止になると思っているとしたら首をかしげるしかない。
特に介護サービス中に発生したものだとしたら、利用者やご家族が上記のような対策を提示されたとして、笑顔で納得するだろうか? 報告書を受け取る立場としては、まるで「次からは気を付けます」と言われた気になる。

介護職員のメンタルケアも再発防止の1つ

誤解しないでいただきたいが、このような事故・ひやりはっとの報告書を提出してくる介護職員のレベルが低いと言っているわけではない。
実際、このような出来事に出くわした後は気が動転しているものだ。そのような状態で客観的な状況報告や原因を特定し、的確な今後の対策をとろうと言うのは酷な話だと思う。

事故の規模や職員の性格によっては、報告書を書くどころか、当時の状況を聞くことすらままならないことだってある。その時は表面的に平気と思われていた介護職員であっても、事態が収束したあとで体調を崩すこともある。対応を迅速に進めることや再発防止も大切であるが、事故・ひやりはっとに出くわした介護職員のメンタル管理も大切だ。

事故の状況を的確に捉えるには客観的な視点が求められるが、場合によっては当人の主観から出来事を言ってもらうことも必要だと思う。事故の究明は遅れるかもしれないが、当事者が過度に自分を責めたり、メンタルを病んでしまったり、介護という仕事に怯えてしまったりするほうが毒である。

大袈裟かもしれないが、事故・ひやりはっとに遭遇した介護職員のストレスは尋常ではない。
これは規模や状況の問題ではなく、その場にいた者として「大変なことになった」「何とかしなきゃ」「会社に怒られる」「事件になったらどうしよう」などと色々なことで頭がパンクして、想像ならぬ妄想からネガティブ思考に陥ったり、普段はしないような不合理な行動もとってしまう。その後に冷静なって「なんで自分はあのような行動をしたのだろう?」と後悔することもある。「自分は悪くない!」と過度な責任転嫁をして事実から目を背けようとすることもある。

このような反応は人間として悪いものばかりではないが、大切なことは独りで抱え込ませないことだ。事業所は「このくらいのケースならば大丈夫だろう」「あの人は強いから放っておいても問題ない」と決めつけず、事故・ひやりはっとの直後、早い段階で管理者が面談をするなどの働きかけをするべきである。

私は当事者に対して「大変でしたね」「大丈夫ですか?」「勇気をもって教えてくれて、ありがとうございます」など伝えるようにしている。
上っ面に思われるかもしれないが、事故・ひやりはっとというイレギュラーな事態に遭遇した介護職員を肯定することで、介護職員のメンタルケアをすることも再発予防の1つであると思うのだ。


「事業所全体の課題」へ昇華させる

このように書くと、関係者とのやり取りや事態の検証に、その場にいた介護職員は必要だろうと思われるかもしれないが、当人が落ち着くまでは管理者が調整役として何とかすればいいだけだ。そのための管理者だと私は思う。と言うのも、確かに当人の過失によって引き起こされた事故・ひやりはっとは多々あるが、それは個人の問題というよりも「事業所全体の課題」であると思うのだ。

例えば、いつもと違う手順で作業を進めたとか、必ずやるべきプロセスを忘れたとかいう問題はよくあるが、この手の問題を根本的に捉えると、情報共有が不足していたり、手順書に記載がなかったりするといったことが多い。つまり、個人の問題というよりも「事業所の体制の不備」であるケースも意外に多いのだ。

介護職員の個人の問題にしているうちは、どこか他人事で終わってしまい、同類の事故・ひやりはっとを別な介護職員も引き起こしてしまう。
1つの問題があれば、必ず10以上の類似の問題が起きると考えて、事故・ひやりはっとが起きた場合は「事業所全体の課題」に昇華させることが、管理者の手腕が発揮される場面であり、それが再発防止の本質だと思う。


最後に。

事故・ひやりはっとの再発防止のためには、出来事の状況分析、原因の特定や適切な対策の立案が重要であり、当然、当事者の力が重要となる。
しかし、そこで当人をせっついても良い結果は得られないし、下手をすると介護の仕事に怯えて辞めてしまうこともある。そこまで行かずとも「●●さんのサービスはもう入れません」と委縮してしまうケースも実際にあった。

このような不幸に至らないためにも、管理者を始めとして、事業所は1つの事故・ひやりはっとに対して関係者への配慮や適切な対応とともに、当事者である介護職員の精神面にも気を払うことで、結果的に介護業界の安全性も高まるのではないだろうか。

ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。

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