教師の心の表と裏(見せつけられた娘の私)その13
本当に止めてほしかった。
人の悪口、ましてや会ったこともない人の話など聞いているだけで、疲れてしまう。
中一の5月末に、祖父が亡くなった。母の実父である。
祖父が最期を迎えた東京郊外の自宅で葬儀が行われたのだけれど、すぐ隣りに空き地があり、弔問客はそこに留まって、自分の知り合いが出てきたら、お悔やみを述べるという流れがなんとなくできていた。
葬儀が済み、焼き場に行くまでの短い時間だったか、私たちも外に出た。
その時。
母が、騒ぎだした。
「竹山よ! 竹山がいるわ!!」
母の視線の先には、制服を着た男子が2人所在なげに立っていた。
表情がわかるくらいの距離だったと思うけれど、いつも、
「憎たらしい!」
と母は色々と描写するので、勝手にそうとうな不良少年を想像していたけれど、意外と素直そうないでたちで、逆にびっくりした。
「なんで来たのかしら! 誰から聞いたのかしら?!」
母は、取り乱して一人しゃべりまくっている。せっかく来てくれたのに、この言い様。電車に乗って一時間以上はかかる距離だ。
そのあわてぶりを見ていたのは、私だけだったように思う。
なぜ私に言うのか。父に言え。私では抱えきれないではないか。
今思い返しても、母の狼狽は大人として教師として、どうかと思う。
母は、竹山くんにちゃんとお礼を言ったのだろうか。そのシーンは、私の記憶にはない。
親族の間に隠れて、気づかない振りなどしていなかっただろうか。もしそうであるなら、失礼極まりない。
その年の夏休み。
ポストには、生徒からの暑中見舞いが何通も来ていた。ある午前中、配達された郵便物を手に母が家の中に戻ってきたとたん、騒ぎだした。
「竹山よ! 竹山よ! 絶対そうだわ!」
叫んでいる。
どうしたと言うのだ。
私は、そのハガキを見せられて記憶があるから、母が手渡してきたのだろう。
官製はがきに、青いボールペンで何か書いてある。差出し人の名前はない。
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