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#1 僕が「精巣腫瘍」になった話。

いきなりですが、「精巣腫瘍」についてご存知でしょうか?


「罹患率は10万人に1人と稀なガン」

と聞くとゾッとするのではないだろうか。


この記事では、僕の身に起きたことを体験談として時系列にまとめていくと共に、みなさんに「精巣腫瘍」についての知識をお伝えできればと思っています。


この体験談を書いた理由


僕はガンになったことを悲観していない。

抗うことのできない運命だったと思う。

仕方がないことなのだ。


明石家さんまさんの座右の銘をご存知だろうか。

人生、生きているだけで丸儲け

明石家さんまWikipedia

僕の座右の銘も同じだ。


生かされていることに意味があると思った。

そしてこの経験を「発信したい」と思った。

それは興味本位とかではなく、僕に課せられた使命と思ったからだ。


僕の体験談を見て救われる人がいることを願って。



精巣腫瘍について


事前情報として「精巣腫瘍」についてまとめてみた。

精巣腫瘍とは男性の精巣(睾丸)にできる腫瘍で、20~30歳代の若い人に多く発生します。多くは悪性(癌)で進行の速い場合が多く、昔は若い男性を冒す不治の病として恐れられていました。しかし、医学の進歩により、効果のある抗癌剤が発見されてからは転移のある進行症例でも、現在はある程度治し得る癌として考えられています。

東京女子医科大学 泌尿器科

すごく簡単に表現するとしたら、
「キンタマ」にできる腫瘍 = 「精巣腫瘍」である。

この動画がとても分かりやすかった。


ここまでに至る経緯をタイムライン形式でまとめました。
※実体験に基づいた体験談です。
男性陰部の話なので細かい描写表現がある可能性があります。
苦手な方はご注意ください。



精巣腫瘍体験談(自覚症状から病名診断まで)

5月末 いつの間に始まった不快感


「なんか気持ち悪いな」


お客さんが多く忙しい日の仕事中に股間に違和感を感じた。

なんとも言えない不快感がそこにあったのだ。


でも、痛くはないしちょっと体調悪いだけと思った。

とにかく忙しいから気にしていられる時間はなかった。


それから数日経っても股間の違和感は消えなかった。

ある日、帰宅後のシャワー中に股間を洗っている時に気がついた。

左の「キンタマ」に触れるときだけ不快感がある…


この不快感を例えるなら、サッカーボールが股間に当たって悶絶している感じの超ライト版。


「なんだろう、これ。」

不快感を感じつつも、やっぱり僕は体調が悪いだけと気にしなかった。



6月9日 身体の異変に気づく


違和感を感じながら、日常生活を送っていたのだが、

明らかな異変に気がついた。


それは久々にお湯を張って湯船に浸かった日である。

「キンタマ」は水中でぷかぷかゆらゆら浮くので、より違和感を感じたのである。

思い切って触ってみた。


「!? なんか…硬い…?」


僕はその時、身体の異変に気づいたのである。

どう考えても左の「キンタマ」が硬いのだ。

そして触ると不快感が襲ってくる。


僕は湯船から上がると、身体を拭き、着替えると

すぐにiPhoneのSafariを起動して検索欄に入力した。

金玉 しこり」
「金玉 気持ち悪い」
「金玉 硬い時」

6月9日のSafariの履歴

必死だった。

怖かった。

明らかな異変を目の前にして怖くなった。


「絶対なにかある…」


自分の症状に当てはめて該当しそうな病気を調べる。

「金玉 しこり 痛くない」で検索した時に、一番上に出てきたこのサイトが目に止まった。

精巣(睾丸)、陰嚢が腫れているが痛みはない

様々な病気がこのような症状を呈しますが、思春期から40歳くらいの方の場合には精巣腫瘍(癌)を念頭に入れて診察します。
この病気は頻度としては低いのですが、非常に進行が早く転移しやすいのが特徴です。
痛みもなく、また羞恥心から半年以上もほっておいた後に病院を受診される方もいますが、進行した場合にはその後の治療が困難になることもありますので、おかしいなと思ったらできるだけ早く泌尿器科を受診することをお勧めします。
陰嚢水腫(精索水腫)は、水が貯まった状態です。
外来で水を抜きますが、繰り返す場合には手術を行います。
立っていると腫れてくる場合は精索静脈瘤が考えられます。
時に腎臓や肝臓の機能が低下している場合にも陰嚢部が腫れてくることがあります。

繰り返しとなりますが、恥ずかしがらずにできるだけ早く泌尿器科を受診されることをお勧めします。

ヒルズガーデンクリニック

ここで生まれて初めて「精巣腫瘍」という言葉を知った。

「うっわ…」

僕は病院に行くことを決めた。



6月12日午前 葛藤


週明けの月曜日。かなり蒸し暑かったことをよく覚えている。


前日に検索した泌尿器科に行くことを決めていたけど、やっぱりどこかで行かなくてもいいんじゃないかという気持ちがあった。

頭では病院に行かなきゃって分かっていても怖かったのだ。

「多分、大したことないから別に行かなくても…」


でも、思い出した。

繰り返しとなりますが、恥ずかしがらずにできるだけ早く泌尿器科を受診されることをお勧めします。

ヒルズガーデンクリニック


「行けば分かる」

「別の病気で大したことないかもしれない」

「でも、ちょっと恥ずかしいなあ。」

なんて思いつつ、車に乗り込みエンジンをかけた。



13時30分 泌尿器科を受診


調べた泌尿器科の午後診察は13時半からだった。

病院に着いたのは5分前の13時25分。


受付に行って初診であることを伝えて、問診票をもらった。

問診票の症状欄には、

「精巣に違和感がある。自分から見て左側の精巣に触れると気持ちが悪い感じがする」

と言語化できる、ありのままの症状を書いた。


待合室のエアコンは節電で止めてあって、窓が全開だった。

壁にかかっている温度計の針は28℃を指していた。

緊張と暑いので汗だくになりながら、自分の名前が呼ばれるのを待った。



13時45分 診察が始まる


呼ばれて行った診察室には優しそうな先生がいた。

問診で記入した症状を確認して、まずは触診をすることになった。


ベッドに横になり下半身の穿きものを下ろす。

「覚悟していたけど恥ずかしいなあ」

男同士とはいえ、触られるし見られるしで少し恥ずかしかった。


でも先生は真剣だ。

僕も応えてちゃんと見てもらおうと思った。


触診が終わって超音波検査をすることとなり、別部屋に案内された。

さっきと同じ要領で、ベッドに横になり下半身の穿きものを下ろす。

左右の「キンタマ」にジェルを塗り検査が始まる。

機材の当たる角度を変えながらモニターを見て印刷を続ける先生。


僕は不安な中、診察が終わるのを待った。



14時 診察結果が出る


「診察結果ですが」

最初の診察室に戻った僕と先生の会話は、この言葉から始まった。

「大したことありませんように。」

そう心の中で祈りながら息を飲んで話を聞き始めた。


「この超音波検査の画像を見てほしいんだけど、こっちが正常な右の精巣。」

「一方こっちは左の精巣です。左右対称になっていないのわかる?

出された左右の精巣の画像は、明らかに映りが違うのである。


先生の話は続く。

「黒くなっている部分もあってね、これはもっと大きな病院で精密検査しないと確定はできないんだけども、恐らく精巣腫瘍の可能性があると思う。」

「今から大きい病院に電話して精密検査の依頼をします。アポが取れたら紹介状を書くので、今日この後行ってもらえますか?」

ある程度覚悟してはいたが、さすがに怯んだ。

心拍数がどんどん上がって心臓がバクバクと音がなっているのがわかった。


「精巣腫瘍…?精密検査…?今から…?」


怯む僕の目を見ながら先生は続けた。


「もし精巣腫瘍だった場合、すぐに取る手術が必要だからご家族も呼べる?」

今、自分の身に起きている事が非現実的すぎて呆気に取られてしまった。


「いやこれ…ドラマで見るやつじゃん」


ぶっちゃけ、こんなことを思っていた。

そのくらい現実味がなかったのだ。



14時15分 待ち時間


大きい病院への連絡を待つ間、僕は待合室で待機するように言われた。

待合室の椅子に座って一呼吸。


すると看護師さんがやってきて、

「連絡取れたので、先生が今紹介状書いてます。」

待合室にいた他の診察待ちの人にも聞こえていたであろう。


「なんかすごい、大事になってしまったな」と思った。


でも、てんやわんやと慌ただしく準備するのを横目に、僕は意外にも落ち着きを取り戻していた。


理由は、「疑い」であるということ。違う病気の可能性もあるのだ。

知るために精密検査を受ける。

そう切り替えていた。



14時30分 会計を終えて、家族に電話


会計の時に先生に書いてもらった紹介状を渡された。

病院を出て車に乗る前に電話をかけた。相手は妻。


「今、診察が終わって病院出たんだけど、もしかしたらガンかもしれなくて、大きい病院で精密検査を受けるように言われたから、今から来れる?」


まさか、こんな話をするとは思ってもいなかった。


同時に現実が襲ってきて心拍数が上がったのを覚えている。

不安に駆られて、泣きそうになった。


「まだ分からない。違うかもしれない。」

自分に言い聞かせて、我慢して電話を終えた。



15時 大きい病院に到着


紹介された大きい病院は近くでわりとすぐに着いた。

病院の外観を眺めて深呼吸してから入り口へと足を進めた。


外来受付を済まし、問診票を記入して、泌尿器科の受付を案内された。

大きい病院の外来ってこんなに多いのかと思った。

これまで大きな病気をしたことがなかった僕にとって、それは新鮮な光景だった。


泌尿器科の受付を済ませると、すぐに診察室に呼ばれた。

処置室に入ると先生が待っていた。


「まず左の睾丸の状態を見せてもらってもいいですか?」


そこで触診してもらって、また話が始まった。

「検査を無理矢理入れたので、まず検査をしましょう」

スピーディーに進む話に一生懸命付いていくのでいっぱいいっぱいだった。



15時15分 精密検査開始

精密検査内容

  • 検尿

  • 採血

  • CT

  • MRI

  • 心電図

全ての検査が終わるまでかかった時間は、待ち時間も合わせて約2時間くらいだった。


一番長い検査はMRIで1時間くらい。

身動きできず爆音が鳴り続けるあの空間は特殊すぎた。

事前の問診で「閉所は苦手ではありませんか?」の問いがあったが、実際に体験しないと苦手かどうかぶっちゃけ分からないと思った。

1時間近く同じ体勢でほぼ動けないのはさすがにきつかった。

閉所恐怖症じゃなくて本当に良かったと思った。


前にも記述したが、僕は大きな病気をしたことがない。

精密検査はもちろん初めて。

はじめてみる光景に不安よりも好奇心が勝っていた。


いや、そうしないとどうにかなってしまいそうだったのかもしれない。

ある意味、現実逃避していたのだろう。



17時10分 精密検査の結果


外来の診察時間が終わって、たくさん人がいた待合室はもぬけの殻になっていた。


「もうそんな時間か〜」
と思いながら、泌尿器科へ向かう。


すぐに先生に呼ばれて、再び処置室に入る。

妻の分の椅子も準備してもらって、一緒に話を聞いた。


「今日旦那さんが精巣、いわゆるキンタマですね。に、違和感があって◯◯病院を受診されていて診察の結果、精密検査を受けたほうがいいということでこちらの病院にいらっしゃってます。」


ん〜キンタマ。

淡々と話す先生から不意に出てくる言葉に少し可笑しく感じた。先生は続ける。


「で、色々検査をした結果なんですが、やはり精巣腫瘍の可能性が強く疑われます。」


え?


「疑いって言うのは、その組織を取って検査(病理)しないと確定診断ができないからです。」


あっ。


「でも、年齢的なところと所見も合わせると、確実(精巣腫瘍である)と言っていいでしょう。」


あぁ。


「これは組織だけ採るとなると、悪性だった場合それが体内に散らばってしまう可能性もあるので、左の精巣と精索をまとめて摘出する必要があります。」

「2日後に手術を入れるので摘出しましょう。大丈夫ですか?」


かなりショックだった。


最初の病院を受診してから約4時間ほどで、僕の人生は大きく変わった。


17時20分


僕と妻は処置室を出て待合室の椅子に座って、看護師さんから入院についての説明を受けていた。

急遽決まった入院・手術。

「職場、電話しなきゃ。」
「親にも話さないと。」

一体なにから手をつけていいのか。
頭は混乱状態で、心はざわついていた。

話を聞き終わって病院を出た。

手術前入院と術前説明が明後日(6/14)。
手術は6月15日と決まった。



17時30分

すっかり日が沈み、夕焼け空が広がっていた。

僕は駐車場で電話をかけた。相手は職場の上司だ。
その後、帰路の車内で親に電話をかけた。

なぜ、先に職場の上司なんだ?と思った方も多いだろう。

ずばり練習だ。

親には頭を整理して落ち着いて話したかった。
言い方は悪いが、整理するための練習台になってもらった。


精巣腫瘍だと伝えた時に言われた、
「一番つらいのはあなただから」という言葉が胸を締め付ける。

手術を受けるよりも、ガンと言われるよりも、
悲しませてしまったという事実が一番つらかった。

心配をかけてしまって申し訳ない気持ちで苦しかった。

vol.2に続く


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