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TSMC 激変する熊本 農業や地下水、住民生活に大きく影響 問われる県政


①動き出すTSMC 盛大に開所式

 TSMCの熊本工場(jasm)の開所式が2月末に行われた。開所式にはTSMCの会長、ソニーの会長、デンソーの社長、トヨタの会長などのトップが出席。自民党の甘利氏、萩生田氏も参加し、岸田首相はビデオメッセージを寄せ、地元の蒲島県知事、菊陽町長など、官民挙げてのとてつもなく大がかりなものだった。
 
 開所式に先立つ1月末には、第1工場を上回る規模の第2工場の誘致が発表された。それを真っ先に告げたのは坂本哲志衆議院議員だった。坂本議員は、熊本選出の議員で、農林水産大臣である。農業に深刻な影響を及ぼそうとしている工場の誘致を、大手柄のように発表していた。

②莫大な補助金 熊本の水と人が決め手か?

 なぜ、TSMCは熊本に来たのだろうか? 何といっても日本からの補助金がなければ、TSMCが日本に来ることはなかっただろう。第1工場と第2工場を合わせると約3兆円の投資となるが、そのうち1兆2千億円という莫大な補助が、わが国の税金から出される。
 
 また、半導体製造に不可欠な水を求めて、豊かで良質な熊本の地下水をねらって進出を決めたともいわれている。さらに、優秀な人材を求めてともいわれている。ソニーからはすでに200人の技術者が出向、既に台湾での研修を行っているそうだ。
 
 あまり文句を言わない日本の「国民性」も、進出にあたって好条件とみられた可能性がある。アメリカのアリゾナでのTSMCの工場建設は、日本よりも早く決まっていたが、労働環境をめぐって労働組合が抵抗し、建設が遅れているといわれている。
 
 様々な理由があるだろうが、東洋経済新報社オンラインに載せられた、「TSMC進出のあまり語られない本当の理由」という解説が的を射ていた。それによると、TSMCの販売総額の66%はアメリカで、アップルがそのうちの3分の一を占める最大顧客である。そして、TSMCの日本での最大顧客はソニーで、日本での販売総額の半分以上はソニーとなっているそうだ。アップル、TSMC、ソニーという企業(資本)が、日本のカネと自然(土地や水など)と労働力を目当てに進出してきたということで、熊本のソニー工場の隣にTSMCがきたのは偶然ではなかったようだ。
 

完成したTSMC(jasm)熊本工場  「TSMC城」と呼ぶ人もいる

③渋滞、地価高騰、問題が次々と 農業と地下水に広がる不安

 いま熊本は、熱狂している。TSMCの工場進出は、九州全体で20兆円、熊本で10兆円の経済効果があるという。蒲島熊本県知事は「100年に一度のチャンス」と、もろ手をあげて歓迎している。そして、次々と企業誘致のための工場用地造成や、排水設備の新設計画、道路の新設や拡張、鉄道の延伸や新駅の建設、高速道路インターチェンジの早期着工などが打ち出されている。県内の産官学をあげての大フィーバーぶりだが、手放しで喜んでばかりはいられない。
 
 現状を見ていると、TSMC進出がプラスとなる産業や、業種や、人々がいることは確かだが、逆に悪影響をこうむる部分も多い。すでに様々な問題が噴出している。TSMC工場周辺の道路はひどい渋滞が発生し、農家が作業のため移動するのにも支障が出ている。子供の通学時の事故も心配されている。地価の高騰、家賃の高騰は2倍、3倍で、あるスーパーは家賃が払えなくて営業を止めた。ほかの所に引っ越す人も出てきている。
 
 水への不安も大きく広がっている。いくつもの大工場が作られて大量の水を使って、地下水は枯渇しないのか? 排水は大丈夫なのか? いまでも、硝酸性窒素や、有機フッ素化合物の汚染が問題になっているところに、巨大な工場が3つも4つもできる。不安が高まるのは当然だ。

 農業への影響も大問題となっている。工場用地と宅地の造成があちこちで進み、農地が買われ、まさに地域が様変わりしている。これらの激しい変動に、JA熊本中央会や、JA菊池は、国にも県にも農業を守るための対策を強く要求している。

 また、TSMC進出の影響を調べるための企業アンケートによると、製造業では、「人手不足の深刻化と人件費の上昇」でマイナスの影響のほうが大きいとの答えが上回るなど、地域の企業にも影響が出ている。

道路を隔てた畑ではキャベツの栽培  周辺の農家に様々な不安が広がっている

④県全体のバランスある発展こそ大事 企業監視の十分な体制を

 そのような中、いま熊本では、知事選がたたかわれている。3月24日の投票で、4期続いた蒲島県政に代わる新しい知事が選ばれる。自民党、公明党の推薦の候補と、野党系が「自主的に支援」する候補の、事実上の一騎打ちである。
 
 県内は待ったなしの課題をいくつも抱えている。少子化と人口減少、中山間地と農業の荒廃に歯止めがかからない。熊本市やTSMC進出の県央地域とそれ以外の地域の格差はますます広がっている。高齢者にも若者にも、貧しくて生活できない人が増えている。

 住民の意思を無視して進められている川辺川ダム問題、置き去りにされている水俣病被害者、平和に逆行する自衛隊の強化、拡大や日米演習の増大などへの不安も高まっている。
 
 TSMCに関しては、熊本には、今なお解決されていない水俣病の深刻な教訓がある。この経験からも、「自然環境を守る」という企業の「善意」はあてにならないといえる。企業に対して、自然環境や労働環境を守り、地域住民への十分な情報開示などを行わせる仕組みが絶対に必要である。

⑤開かれた県政 より県民の声を聞く県知事を

 これらの課題の解決をはかるために、来るべき知事選挙では、より多くの県民のための県政、農林水産業と環境を守り、豊かで持続的で平和な熊本を実現できる知事を誕生させることが望まれる。

                         2024年3月8日(W)

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