見出し画像

【実践報告】【本紹介】マスターテクストアプローチの試み

人脈がないままオンラインで一人で仕事する場合、意識的に情報を取り入れないと全く情報が入ってこないし刺激もなく、やさしい生徒さんたちの高評価のフィードバックに甘んじて成長が止まってしまいかねない。常に肝に銘じて一人PDCサイクルを回し続けなければなりません。

まだまだ学習と試行錯誤の第一歩という段階ですが、日本語教師とした新たなアプローチを学び、実践し始めたところです。

ブッククラブでいただいた気づき

文化庁の研修で仲良くさせていただいた数名と、お気軽なブッククラブを始めました。本をネタに、ちょっとインプットを増やしたい、横のつながりを増やしたいという、ゆるい目的です。

記念すべき第一回目は、おすすめ本を好きなように紹介する回としました。流石に日本語教育と離れすぎはどうかと思い、みんな遠からず日本語教育に通じる本を持ち寄りました。満場一致で、次回これを深掘ろうということになったのがこちらの書籍。

表紙も中身もパッと見はかたいのですが、日本語教師的には「そうそう!」「なるほど!」と思う場面の多い、とても実践的で興味深い内容です。著者は、日本語教育学会会長、広島大学教授などを歴任されている西口光一先生です。(一人だったらお名前を知る機会すらなかったかも。。。)

と知ったかぶりして紹介しつつも、最後まで読み切ってないのでもう一回開きます、とここで自己宣言。

何のために日本語を教えるのか

日本語教育とは何か、その課題は何か、について冒頭から熱い論説が始まります。私が日本語を教える目的をあらためて文言にすると、
「日本語を学ぶ人、日本で暮らす人が、日本語をうまく使って幸せな人生を送る支援をすること」です。日本を、日本語を、選んでくれた方が、望む人生を送ってくれたらと願うばかりです。

そして、外国人だからと差別されることなく、人種や国籍を超えて一人一人が対等な立場で、一人の意志ある人間として、生きていける世界が願いです。私の中のキーワードは「対等」です。

マスターテクストアプローチの根幹にあるこの考え方に、まず惹きつけられました。(拍手喝采)

表現中心の日本語教育では、単に日本語が上達するのではなく、学習者が日本語で自身の声を獲得して、日本語を通してこれまで出会うことのなかったさまざまな人と出会い、つながり、交流して、一層豊かな人生を送ってほしいと考えています。

新次元の日本語教育の理論と企画と実践
第二言語教育学と表現活動中心のアプローチ
西口光一著 くろしお出版
P.7 プロローグより

マスターテクストアプローチ(私が理解したところまで)

私が理解した範囲で、自分の言葉でマスターテクストアプローチとはなんぞやを語るとするならば(間違ってたらごめんなさい)、

良質なインプット(日本人が話す日本語、様々な表現や文など)をたくさん吸収し、暗記するほどによく理解し覚え、そこに自分が言いたいことを載せて表現し、「言えた!伝わった!」を積み重ねていくアプローチ。

文法や単語、サンプルスクリプトは教科書に書いてあり、しっかり予習しておいてもらって、授業では会話中心となります。といっても、文法を使った例文を無理やり繰り返し言わせるのではなく、「言いたいこと・気持ちを、言えるように」なるアプローチです。

ある知り合いの先生がこうおっしゃっていました。
「滑走路を走っている(教科書のスクリプトを学んでいる)生徒に、離陸してもらう(スクリプトをベースに、自分の言葉で表現を開始できるようになる)イメージ」だと。

私の授業はほとんど反転授業で、文法や単語は学習者個々のペースでゆっくり学んできてもらい、レッスンではそれを会話で実践することを大事にしてきました。例文を作る時も、その人のコンテクスト(職業や興味)と関係あるものを作るように努力しています。これとも被る点があって、少し自信になりました。

「NEJ(New approach to Elementary Japanese)」は、このコンセプトを授業で実践するための教科書です。他と違うのは、登場人物数名の一人語りがたくさん書かれていて(=良質なインプット)、まずそれを覚え、それら登場人物に立場や感情に移入?しながら、自分自身の表現に応用していくという、面白い構成になっています。この教科書を日本語学校で使ってきた先生とお知り合いになれたのも、とても幸運です。
http://nej.9640.jp/index.html

マスターテクストアプローチの実践@完全カスタマイズ

日本への旅行を控えていた学習者(リンク)向けの、来日前最後の授業で、完全オリジナル&見よう見真似のマスターテクストアプローチのレッスンプランを作って送りました。実はその前の回は大失敗していて(離陸どころか、崖から突き落とす感じになってしまった)、今回こそは自信をつけさせてあげたいという願いを込めたリベンジでした。

学習者本人を主人公にし、日本で合流する予定の友達と、そのまた友達も登場させ、実際に行く予定のあった大阪を舞台にした、三人三様の一人語りスクリプトを作りました。そして、そのスクリプトをベースにした会話文も載せました。

しっかり予習してきてくれたおかげで、学習者さんはスクリプトを比較的すらすら読めるようになっていました。いいぞ!これはチャンス。
少しずつ変化球のある質問を投げて答えてもらったり、短いロールプレイをしたりしているうちに、だんだんうれしそうにペラペラと喋り出しました。1聞くと、2とか3とか答えが返ってきました。離陸成功の瞬間を、目の当たりにしました。

思っていることを表現できた、伝わった、というのはコミュニケーションの大きなよろこびですね。たくさん話せたことが大満足だったようで、最高のフィードバックをいただき、授業を終えました。

学習と実践の旅はまだまだ続く

果たして、日本に行って実際に使えたのか、現実は厳しいと打ちのめされたか、その結果はまだわかりませんが、いずれにしても、マスターテクストアプローチによる自己表現活動の支援は、まだまだ経験不足です。とりあえず本を最後まで読んで、そして繰り返し読んで、繰り返し失敗と成功の実践を積み重ねて、学習者さんと一緒に楽しみながら成長できたらと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?