見出し画像

共に食べて、共に乗り越えた。友達が家族になるまで

私にとって大学生活は人生の転機だったといえる。
あの大学に進学していなかったら、確実に今の自分はない。あの4年間に大切なものがたくさんできた。
これは書き残しておかないと、とふと思ったので記録する。

私が通った大学を一言で表すならば、とても変わっている。
一学年は160人ほどと少ない。しかも初めの一年は寮生活で三食も一緒。
だから嫌でもみんなと顔見知りになる。

私は元々他人といるのが得意ではなかった。
うわべで上手くやることはできるのだが、それが長い時間続くとストレスが溜まる。
中学や高校のときは、宿泊を伴う研修旅行が特に嫌だった。
他人と一緒に寝るとか、一人でいる時間がないとか、耐えられなくて、大体前夜はぐずぐずと文句を言いながら眠りにつく。
そんな私を知る友人は、その大学の環境を知って「ストレスで発症するよ?」と冗談混じりに心配してくれた。

初めの半年こそ、常に知り合いと顔を合わせなくてはならない状況が応え、携帯電話を常に機内モードにして他人との接触を断つという行動に出た。(結果、友人と喧嘩になったり親に怒られたりして数か月後に止めた)
しかし、半年もすれば慣れてきたのか、慣れざるをえなかったのか、他人が自分の部屋にいることも、他人の部屋で一晩明かすことも、何とも思わなくなった。

二年生になって寮を出た後も、ほとんどの学生が学内に住む。大学の敷地内に”アパート”があるのだ。
寮との違いは、部屋にキッチンが付くので食事の選択肢が与えられること、部屋と部屋は分離されているので廊下ですれ違うことはないこと。
と言っても、大学の敷地も広くないし、今度は他学年の学生とも会うようになるので、より「顔が広くなる」。
アパートの隣も上も向かいも、みんな知り合い。どこへも逃げることができない、という感じ。

そんな超閉鎖された逃げ場のない環境は、高校生の私が聞いたらとても耐えられないと思うだろう。
しかし、その環境を受け入れることができ、ましてや毎日が楽しくて、卒業時には離れがたいとさえ思ったのは、2つの要因があると思う。

一つは、みんなと共に戦う同志になること。
大学生活にはたくさんの障壁が存在する。
例えば毎日の課題。テスト前でなくても図書館にこもって課題に追われることは頻繁だった。
「終わらないよー」と言いながら、一緒に夜を越す仲間がいたことは、大きな支えになった。
他にも、留学中の孤独な環境とか、就職活動時の葛藤とか、恋愛のはじまりや終わりに至るまで、みんなが経験するそれらを、みんなで乗り越えた。
何かあれば集まって話して、気付けば数時間が過ぎているなんてよくあることだったし、留学中で離れている時にはSkypeで話した。
自分が辛いときにも、一緒に頑張っている友達の姿がある、ということは、とても力強い支えになった。
それがなければ、潰れてしまうチャンスなんて何回でもあった。

また、食事の時間を共にしたことも大きい。
大学はいわゆる”僻地”にあって、文字通り森の中。
不審者が来た時に使う一斉メールも、熊が出た時にしか使われていなかった。
よく人に聞かれるのは「どうやって遊んでいたの?」ということ。
たしかに、周りには居酒屋もなければカラオケもないし買い物をするところもない。
だから自然と、「遊ぼう」と言うと、一緒に何かつくって一緒に食べるという意味になっていた。
寒い時期は鍋、暑い時期は生春巻きなんかが定番。
いつだってホットプレートで大胆につくる餃子は盛り上がった。
他にも節分には巻き寿司をつくったし、十五夜には月見だんごをつくった。世間でチーズタッカルビが流行った頃には自分たちでレシピを見ながら作ったし、誰かの誕生日ともなれば、凝ったケーキを作ってみんなでお祝いした。
「いつもごはんのことばかり考えていた」というのはあながち間違いではなくって、食べたい料理を見つけると、「今度これ作ろう!」と友達に連絡する。
そうやって、私たちの友情は食によって強くなった。食でつながった友達は、ほとんど家族も同然だった。同じ釜の飯を食べた彼らのことは、一生裏切れない。

大学生活を思い返すと本当にいろんなことがあった。
でもその山も谷も、支えあえる仲間のおかげで乗り越えることができた。元々は周囲の反対を押し切って入学した大学だったが、選んでよかったと心底思っている。
あの大学のおかげで、社会人になった後にもお互いの家に呼んだり呼ばれたり泊まったりすることは普通だし、図々しく他人の家に泊まらせてもらうことも厭わなくなった(なってしまった)。
周囲と壁をつくり、自分を守ろうとするのもひとつのやり方。
でも、本当に信頼できる仲間がいれば、壁を取っ払って、オープンになる楽しさも知ることができた。

離れるとやっぱり忘れがちになるけれど、あの思い出は一生大切にしたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?