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2019年7月の記事一覧
わたしという誰かの演劇_016
わたしのいるところで、演劇がはじまる。
わたし なにを言おうとしていたのか、今日も忘れてしまった、そんなものはじめからなかったのかもしれないし、あったとしてもわたしはすでにしゃべりはじめてしまったので、言おうとしていたこととは関係なくわたしの話はつづきます、発された言葉の持つイメージや語感、それ自体が動力となって、滑るように、転がるように、知らない場所へとわたしたちを運んでいく、言葉は乗りも
わたしという誰かの演劇_015
わたしのいるところで、演劇がはじまる。
わたし 多摩川をずうっと下っていくと羽田空港に着きます、自転車を買っていちばん遠出したのってあのときかもしれない、その日わたしは多摩川沿いの道をひたすらクロスバイクで走りました、クロスバイクってロードバイクほど本格的ではない街乗り用の、でもタイヤも細くてサドルも硬くてかなり前傾姿勢にならないと乗れないっていう、そういう自転車なんですけど、よく晴れた春の
わたしという誰かの演劇_014
わたしのいるところで、演劇がはじまる。
わたし 無傷の鹿が走り抜けていった、わたしはかまえていた銃を下ろし、梢をかすめて差し込む光がさっきまで鹿のいた場所をふちどるのを、ぼんやりと眺めていました、今日はもう帰ろう、そう思ってわたしは山を下り、田園都市線で渋谷へ、スクランブル交差点の信号が変わるのを待っているあいだに目にした向かいのビルの大型ビジョン、その中に広がった森の奥に、見憶えのある鹿の
わたしという誰かの演劇_013
わたしのいるところで、演劇がはじまる。
わたし 中学校に入るとき、父に腕時計を買ってもらいました、わたしその時計をまだつけています、ガラスに引っかいたような傷がついているのは中学生のころにはもうそうだったから慣れてしまったし、それなりに雑に扱ってもいいやって思えているのはそれもひとつの理由で、だからこそずっとつけていられるのかもしれない、シルバーのシンプルな腕時計、これから中学生になる自分の
わたしという誰かの演劇_012
わたしのいるところで、演劇がはじまる。
わたし 明日のパンを買いに行こう、朝食べるパンを、そう思って夜ちょっとコンビニまで歩いた、今日はなにを書こうかな、書くべきことなんてないな、それなのになんでなにか書きたいと思っているんだろう、小説家にでもなりたいんだったらもうちょっと別のものを書くんじゃないかな、って、駅までの道を歩きながら思った、駅までのいつもの道の途中にコンビニはある、セブンイレブ