ライゼン通りのお針子さん~新米店長奮闘記17

第六章 シュテナの兄来店
 翌日。開店と同時に周囲を気にしながら一人のお客が来店する。

「失礼します」

「いらっしゃいませ、仕立て屋アイリスへようこそ」

帽子を目深までかぶった品のいい少年が入店するとアイリスはお客のそばまで寄っていく。

「昨日シュテナがこの店にきたと思うんだけど、あの子はまだ買い物の仕方がよく分かっていなくて、お金も払わずに服だけもらって帰って来てしまったようで……使いの者を出すなんて言っていたから僕が代わりにお支払いに来ました」

「ああ。シュテナ様のご家族の方ですか。どうぞお気になさらずに。貴族の方なら自分で払わない方も見えますので。こちらが伝票になります」

困った顔で謝ってくる少年へと彼女は首を振って答え伝票を渡す。

「ありがとう。それから……昨日シュテナがドレスを自慢しまくっていてね。それでよかったら僕の服も仕立ててもらえないかと思いまして」

「畏まりました。どのように仕立てましょうか」

「王女のお披露目パーティーの時に着る礼服を仕立ててもらいたいんです。でも主役が引き立つようにしたいので、僕は控え目な服が好ましいかと思うので、なるべく豪華にはしないようにお願いしたい」

お客の言葉にアイリスは了承するとどのように作るのかを尋ねる。それに少年がそう言って注文した。

「分かりました。早速型紙を起こさせてもらいたいのですが、お体のサイズを測っても宜しいでしょうか」

「それならこちらの記録を基に作ってください……それから僕が来たことはできるだけ内密にお願いします」

「?はい。分かりました」

お客の言葉の意味が理解できずに不思議に思ったが小さく頷く。

「では、お願いします。明日の朝取りに参りますので」

「はい」

少年は翌朝取りに来ることを伝えると店から出ていった。

「……今の子シュテナ様のお兄さんかしら」

「そうだね、お顔がそっくりだったからそうなんじゃないかな」

お客が出ていった後イクトへとそう声をかけると彼も同意して話す。

「さっそく型紙を作らなくちゃ」

「それじゃあ。後は任せたよ」

「はい。イクトさんも会議大変ですね」

いつものごとく会議へと出かける準備をするイクトへとアイリスが声をかける。

「そうだね。でもそれだけ国を挙げて気合を入れているのかがよく伝わってくるよ。それじゃあ行ってくるね」

「いってらっしゃい。さて、と。私もお仕事頑張らなきゃ」

彼が店から出ていくと彼女は気合を入れて作業部屋へと向かった。

それから接客をしながら服を仕上げる。ミュゥが呼び込みをしたおかげかお店は繁盛し目が回る忙しさの中気が付けば夕方となっていた。

「ただいま」

「お帰りなさい。イクトさん、今日は目が回るほどの忙しさだったんです。お客さんの対応に精一杯でいろいろと失敗してしまいました」

イクトが帰ってくると彼女がいる作業部屋へとやって来る。彼の姿を見たとたん今日一日の出来事を伝えた。

「それは大変だったようだね。お疲れ様」

「マルセンさんやマーガレット様にジャスティンさんやミュゥさんが助けてくれなかったら私、今頃失敗したことを引きずってお店の経営どころじゃなかったかもしれません」

「皆に助けられてばかりってわけにもいかないからね、これからは失敗したら少し落ち着いて考えて行動できるように変えて行ってみようか」

「はい……」

優しい口調で諭すように教えてくれる彼の言葉に、アイリスは情けなさを感じながら小さく返事をする。

「それで今朝ご来店されたお客様が頼んだ品は完成できたのかな」

「はい!一日がかりになりましたが何とか完成しました。こちらです」

イクトの言葉に出来上がったばかりの服を広げて見せた。グレーのスーツの襟には金色のラインがほどこされネクタイの青がアクセントとなっている。

「うん。とても丁寧な仕事だね。忙しかったのによく頑張った。これならきっとご満足して頂けると思うよ」

「はい」

素朴ながらに華やかさと気品を感じる逸品に彼がアイリスの仕事を褒める。彼女はイクトが納得してくれる品が作れたことが嬉しくて笑顔になった。

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