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労働者の街から福祉の街へ:山谷、訪問看護ステーション「コスモス」主催の学習会

「誰もが安心して暮らせる社会を山谷の現状と課題から考える」という、ちょっと長いタイトルの学習会に参加しました。主催の訪問看護ステーションコスモスは、山谷地区を中心に、台東区から荒川区にかけて活動しています。

山谷は、漫画「あしたのジョー」の舞台になった街で、西成(大阪)、寿町(横浜)と並ぶ、日本三大ドヤ街のひとつ。昔は日雇いの方々が大部屋のドヤ(簡易宿泊所)に暮らす、労働者の街でした。現在、かつての活気は失せ、ドヤの宿泊者も減り、高齢化が進み、かつての労働者の方々が、病気や課題を抱えながら暮らす街に変わりました。

「山谷ではボランティアが前提。仕事はできない」と言われる中、2000年に4人でスタートしたコスモス。今では60人を超えるスタッフが、介護保険制度を活用しながら、山谷の保健・医療・福祉を支えています。

当日は『マイホーム山谷』の著者、末並俊司さんを媒介に、上野千鶴子さん(社会学者)、本田徹さん(医師)、山本俊正さん(元きぼうのいえ運営)、山下眞美子さん(コスモス統括)各氏が個性と専門性の下、縦横無尽に語り合いました。印象に残ったテーマは3つ。

1.街を変える要素とは?
・街を変えるのは、「人と制度」という話。コスモスの山下さんをはじめ、集まった方々の思いに、「介護保険制度」が施行されたことで、山谷は変わった。特に介護保険のおかげで、看護師が訪問看護ステーションを運営できるようになったこと。また専門職の生活を支え、看取りや認知症ケアの幅が広がったこと。当時の看護師たちが介護保険と真剣に向き合って制度を活かし、街を変えた様子が伝わりました。

2.専門職の役割とは?
・山谷の当事者が、次の一歩をどう踏み出すか悩んでいる時。例えば、病院にいたとしたらどうでしょう。治療目的の下、有無を言わさずリスクを避ける判断がなされていたかもしれません。でも、制度を活用して「あなたには、こういう生き方もありますよ」と、別の選択肢を示すのが、専門職の役割という発言には、考えさせられました。地域の専門職が見るべきは、病気以上にその人自身ですね。いつも立ち戻る場所にします。

3.当事者主権
・「当事者と支援者の利害は一致しない」という上野さんの指摘にハッとしました。支援者が当事者を代弁すると、パターナリズムにつながりやすい。当事者と家族が一体になっているケースは多いけど、きちんと切り分けて、主張するのは当事者であるべき。僕が関わる支援の現場でも、当事者より家族の声が強い現実があって、捻じれを抱えながら仕事をしています。

 さて、今回のテーマの「安心して暮らせる社会」って、一体どんな社会でしょうか? 
僕は、当事者の意思がベースにある社会だと思いました。生きている限り、誰でも問題の「当事者」になる可能性がありますね。自分が「当事者」になった時、意思表示がしにくい社会だったら、生きづらいですよね。生きづらさを構成している要素に、もっと敏感でありたいと思います。

それともうひとつ。当事者と家族だけで世界がクローズしているとしたら、次の選択肢はとても限られます。そんな不幸の芽を減らす意味でも、今、自分が暮らしている街や専門職と、しっかり繋がることが大事だと、改めて感じました。

 当日参加された山友会の方が、「山谷には家族と切り離された方が多く、ある意味、支援がやりやすい」と言ってました。「抵抗勢力」としての家族がいない分、山谷は当事者が集まるピュアな空間かもしれません。とがった専門職の方々が、吸い寄せられるように山谷へ集まるのは、理由があるのかもしれないですね。これからも山谷の現場をウオッチしながら学び続けたいと、強く思える学習会でした。

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