もう６０年も経つのだと思いました。
　上野は私が小学３年生のときに首の手術をした病院がありました。
　うろ覚えの整形外科には、力士の方が多く通っていました。
　むかしだったから、自炊で付き添いが必要で、おばあさんが付き添ってくれました。
　夏休みに手術をして、暑くて食欲がなくて、なぜか隣に東天紅があったことだけは覚えているのですが、中華料理店なので天丼などあるはずがないのに、天丼を食べたという記憶が残っているので不思議です。
　そのどんぶりはとてもおいしくて、何とかもう一度食べみたくて、天丼はよく食べたのですが、はたと気がつきました。
　中華屋さんに天丼があるわけがないのですよね。
　あのご飯は何だったのでしょう。
　幻だったのでしょうか。

　おばあさんは何と言って頼んでくれたのでしょうか。
　不思議で懐かしい味です。
　おばあさんは「うまいかぁ」といいながら背中をなでてくれました。