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なぜ、「年利5%を狙う長期投資」を、「難しい」とあおる奴がいるのか、について

某SNSでの話題を元に、一度だけちょっと深く考察するだけの文章です。
今日は二本立てです。

今回は、タイトルの通りです。
ずいぶん前にやった話ですが、

上記記事のなかの、
「世界が変わることの想像力と対応力の欠如」
「年利5%という金融商品を持つことの厳しさと難しさ」
この二点について、どういうことなのか、もう少し詳しく語る必要があるのかな、と思っています。

といいますのも、いよいよ日本がインフレ基調となっていくこれからの時代において、今までの投資の状況はおそらく、どんどんブラッシュアップされていくことになると思います。
その課程で、「同じことを愚直に長く続けるだけ」のインデックスファンド投資が揺らぐ理由が、自ずと明らかになると思います。


アメリカで繰り返された「バブル」


実はアメリカという国は、日本が高度経済成長からバブルを迎える頃までに、実にたくさんの「バブル」を経験した国である。

その内容は、上記の本に詳しい。
アメリカの当時のバブル状況が事細かに、しかもおもしろく記されている。抜き書きしてみると……。

1920 後半
仕手絡みのバブル:

当時は規制が緩く、仕手が横行していた。トレーダー同士が手を組み、株価を上手につり上げて一般投資家をだまし、見事に売り抜ける。

上記の対象株はいずれも「バブソンの予言」後急落し、バブル崩壊が訪れる。

1950末~1960初頭
IPOバブル:

新し者好きたちが飛びついた、いわゆる新規公開株バブル。やたら社名に「エレクトロニクス」をもじった会社が多かったため、「トロニクスブーム」と呼ばれた。

1962あたりを境に、いずれも瓦解。実体は伴わなかった。

1960半ば
「コングロ」ブーム:

株価の違う、停滞している他業種企業同士が合併することで、不思議と株価が成長しているように見える現象を利用した「コングロマリット」がブームとなる。これで企業成長を現出(幻出?)し、バブルの引き金となった。

1968あたりから成長の偽装がばれ始め、失速。

1960末
「パフォーマンス」ブーム:

成長株だけを狙い撃ち(当該ファンドマネージャーは「若きガンマン」と呼ばれた)、高い利率を競うファンドを組むブーム。今もありますなこういうの。
そううまくいくわけもなく、同年に瓦解。

1970代
「ニフティ・フィフティ」ブーム:

今で言う、「GAFAM」投資。時価総額の大きい成長企業にこぞって投資するブームが起きた。

1970中頃から末にかけて、当のファンドマネージャーたちが対象株を売り浴びせ、対象銘柄は暴落して終了。

1980始め
「IPOバブル」再来:

バイオとテックがブーム。内容は1960代に同じ。夢よ再び。

1980後半に案の定失速。

2000代
例のアレ:

サブプライムローンに関係した、CDS、RMBS、CDOなどの債権商品が続々と売られ、一大ブームとなっていた。
しかし、たとえば安全性の高い、AABと格付けされるような評価の高い合成債権に、CCD等の格付けの安全性が低い債権が混じっていたりして。
そうなると、2008のリーマンショックで、いったんひとつが焦げ付いたが最後、全債権焼け野原になる。世界の株式時価総額の半分がふっとぶ。債権ふっとんだ。しゃれにもならない。


GAFAM最高。S&P500最高。


――こうしてみると、戦前からざっと見るだけで、日本のバブル期の到来とその崩壊までに、アメリカは実に6回ものバブルを経験している、ということになる。
たった一度のバブルですっかり懲りてしまった日本とは雲泥の差であるが、そこはやはり商売の国として売っているだけあって、立ち直り方も心得たもの、ということであろう。懲りない奴らだ、とも言える。

これらバブル期には、アメリカはS&Pが着々と10~15%の上昇を続ける横で、一年で40%増、とか。2倍、とか。果ては4倍とか。そういう過激な値上がりを見せて、そして急速にしぼんでいくのである。

この恐ろしい値上がりを横目で見て、果たして自分の手元を見たとき。
15%ずつ、けちけち上がるファンドに、いったいどのような思いを抱くだろうか。

そう。これこそが、「年利5%という金融商品を持ち続けることの難しさ」に他ならない。

いつか、私はこのように語ったことがあるが、この敗北感は眼前に展開されると強烈な誘惑となって迫ってくるものなのだ。
心せよ。

インフレ慣れしていない日本で、インフレが進行することに耐える「心」


次に。
世界成長率が5%で推移する、ということは、ほぼ、インフレが2~3%、あるいは5%以上で推移することと同義なのである。
5%のインフレ、というのはその実、結構厳しい。全てを平均にならして5%なのだから、あるものはことによると20%近く値上げしたりするのだ。
そんな中で、手元に利率5%の債権を大事に抱えていたとして。
それが「紙くず」に見えない保証はない。

インフレというのは、たとえて言えば生鮮食品が少しずつ腐っていくのに似ている。
あまりにも腐敗が進行すると、それはもはや食べるところがなくなり、捨てるしかないのだ。これは「ハイパーインフレーション」と呼ばれる状況にそっくりである。もはや通貨が通貨の体をなしていない状態だ。

5%インフレの状態で、5%ずつ増える債権を手にしていても、まったくお金が増えている気はしない。
今現在S&P500でなんかすごく大もうけしているように感じるのは、S&Pが想定よりも高い成長率をたたき出しているということもあるが、日本がこれまでデフレ経済で、お金の価値が高いまま下がらなかった、という原因もある。
1,000円のものが1年後1,050円になる世の中で、自分の債権が1,000円から1,050円になったとして、これを「儲かった」と考える人は少ないだろう。
そして、このような強度のインフレになった世の中では、今の世相では考えられないかもしれないが、日本だって金利を上げる政策を行う。おそらくマネーサプライを絞る、という形で実行するだろう。そうなると日本の実質金利は2%、ことによると3%まであがるかもしれない。

日々値動きする、減るかもしれない年利5%の債権を持つより、銀行に預けるだけで利子が3%つくのなら、人情として銀行に預金、郵便貯金することを選択する人たちも増える。こういった形での「誘惑」もあるのだ。
(※だから、一般的な話として、その国の金利が上がれば平均株価は下がる傾向にある。米国株投資民がFRBに殺意を抱いている理由でもある)

これがすなわち、「世界が変わる」ということだ。自分を取り巻く金融事情がドラスティックに変化したとき。
自分の続けている愚直な投資が、時に危険な賭けになってしまうかもしれない。世界が変わるというのは、そういうことだ。
そうなってもなお自分の投資スタイルを変えない、と決意できる投資家は正直、少ないと思う。

このような「誘惑」に屈せず、自己を貫いてインデックスファンドの投資を続け、世界成長分だけを手にする。
デフレになれたジャパニーズ投資家たちにとって、これから始まる大変化は、みなの想像以上に皆を揺さぶってくると思う。

揺さぶられた例としては、たとえば中国経済の成長が注目されたリーマン前後の株式相場。

もともとはBRICsと呼ばれる、今後人口増が見込まれる新興国株式への投資ファンドがS&P500以上の上昇率を叩き出し続け、話題をさらったことがあった。
2000年代に始まったこのブームは、リーマンの暴落を見せつけられた米国株投資民に、「今後は新興国株式だ」と決意させるに十分な力、つまり利益率という魅力を秘めていた。
だがいずれの国も新興国特有の通貨の不安定さ、それ故の株価の乱高下を見せ、最後の最後に残ったBRICsの砦たる中国も、再三の乱高下に疲れ果てたところへこのバブル崩壊の現実へと新興国民を案内していった。
(ただ、もはやコロナ前あたりで、既に新興国株式ファンドの利益率はS&P500のそれの相手にはなっておらず、とっくに見限られてはいたのだが)

よく、「2000年初頭のあの頃にアップル株に100ドル賭けていれば」などという言説があるが。
当時のアップルに100ドルかけるようなギャンブラーは、たいてい他のもっといい株にすぐ浮気していったし、堅実な株にかけていた長期投資派が相手していたのはIBMやGEだった。(これらの株が現在どうなっているのかは米国株投資民がきっと、涙を浮かべて長々語ってくれることだろう)

まとめである。

あるいは、かたくなな自分の投資法を「変える」こともまた、勇気である。かもしれない。
しかしそれが事実実を結んだかどうかは、そのさらに未来。
いよいよ自分が積み上げてきた資産を切り崩し、悠々自適の生活に入る段になって、初めて明らかになることなのである。

未来を夢見ろ。そして、心臓を捧げよ!

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