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特別展「やまと絵 -受け継がれる王朝の美-」に行ってきました!

2023年11月の初め、 東京・上野の東京国立博物館へ行ってきました。 12月3日まで開催中の特別展 「やまと絵-受け継がれる王朝の美-」を見るためです。

この特別展では平安時代から室町時代までのやまと絵を展示しています。

教科書に載っている有名な作品をはじめ、さまざまなジャンルの優れた作品を見ることができます。

東京国立博物館でやまと絵の展覧会が開かれるのは30年ぶりです。全期間を4つに分けて、展示替えをしながら開催しています。

王朝の文化として受け継がれてきた壮大で華麗な作品を見て、たくさん心を振るわせてきました。

これから、わたしがこの展覧会に行って分かったやまと絵のことを、作品を見た感想とともに書いていきます。

すでに見に行った方はもちろん、これから見に行こうと思っている方にも、楽しんでいただけたら嬉しいです。

なお、文化財の名称にはふりがなを振るべきと思いましたが、文章が長くなると考え、省略しました。ご承知ください。


やまと絵とは

やまと絵が誕生したのは平安時代の前期にあたる9世紀ごろ。

飛鳥時代から奈良時代にかけて中国から伝わった唐絵の影響を受けながら成立したと考えられています。

中国の人物や風俗を描いた唐絵は、その時代の人びとの感性によって少しずつアレンジされていきました。

そして徐々に日本の風俗や自然が描かれるように変化していきます。

こうしてやまと絵は、遣唐使が停止されたことで生まれた「かな文字」と組み合わせ、絵巻物となりました。

また末法思想を背景に生まれた浄土信仰が反映された仏画として発展していきます。


・権記(伏見宮本)(鎌倉時代 13世紀写 宮内庁書陵部)

・御堂関白記 寛仁2年上巻 藤原道長筆(平安時代 寛仁2年(1018))

これらの文中に初めてやまと絵の記録がみられます。藤原道長が太政大臣に任じられた後の宴で用いられた「倭絵(やまとえ)五尺屏風」のことが記されています。

じつは、わたしにとって「御堂関白記」はとくに思い入れの強い作品です。

大学の卒業論文のテーマが藤原道長だったので、資料として「御堂関白記」も読んでいたのです。(もちろん、書籍化したもの。大学の図書館で借りました。)

やっと実物に出会えたので、おもわず笑顔に。大胆な筆致はわたしが抱く道長のイメージ通りでうれしくなりました。


葦手(あしで)とは

平安時代に誕生した絵文字のこと。文字を葦や鳥に見えるように変形させてかいたものです。やがて歌の意味を絵と文字で表わすように変化していきます。これを葦手絵といいます。


・平家納経 薬王菩薩本事品第二十三(平安時代 長寛2年(1164)奉納 広島・厳島神社)

平清盛が厳島神社に奉納した絵巻物。表紙から軸にいたるまで、全面に金箔や銀砂を施しています。

平家の隆盛が全面にわたって表現された荘厳な作品です。

巻物を開いてすぐの「見返し」と呼ばれる部分に、法華経「薬王菩薩本事品第二十三」の一部が葦手の手法で散らされています。

なんて豪華!!経文の文字はもちろん、絵の美しさにぐっと見入ってしまう作品です。


四大絵巻とは

平安時代後期(12世紀)に描かれた絵巻物のこと。いずれも日本の絵巻の最高傑作とされています。

「源氏物語絵巻」
「伴大納言絵巻」
「信貴山縁起絵巻」
「鳥獣戯画」

の4巻のこと。わたしが訪れたときには「源氏物語絵巻」「信貴山縁起絵巻」「鳥獣戯画」を見ることができました。

物語を巻物に納めた絵巻物は日本独自のスタイル。ひらがなの成立と優れた文学作品が関係しているといわれています。


・源氏物語絵巻 横笛(平安時代 12世紀 東京・徳川美術館)

紫式部によって書かれた『源氏物語』を描いた絵巻物。言わずと知れた名品です。

わたしは高校生のころから、円地文子さんの訳本や大和和紀さんの漫画『あさきゆめみし』で『源氏物語』に触れていました。

「やっぱりいいわ!」とよく見ていると、絵の左端の障子にやまと絵らしきものを発見!

じつは……音声ガイドが教えてくれたのですが……。紫式部が生きた時代にはもう室内にやまと絵が飾られていたということです。

なるほど。やまと絵は早くも日常生活に溶け込んでいたのですね。


・信貴山縁起絵巻 延喜加持巻(平安時代 12世紀 奈良・朝護孫子寺)

大阪府と奈良県の境、生駒山の南にある信貴山朝護孫子寺(しぎさん ちょうごそんしじ)。その開祖である命蓮(みょうれん)をめぐる物語が描かれています。

山水の技法をやまと絵に落とし込んだ傑作といわれています。右から左へと巻物を広げていくと、場面がどんどんと移り変わっていくのがおもしろい。

場面が転換するところでは山々や霞で場面を切り替えていて……。まるでアニメーションのように動きのある作品です。

仏教の世界を描いていますが、とても親しみがわく絵巻物だと感じました。


・鳥獣戯画 丙巻(平安時代 12世紀 京都・高山寺)

擬人化された兎と蛙が相撲を取っている、かわいらしくユーモラスな作品。じつはこの教科書にも出てくる有名な場面は甲巻です。

今回見た丙巻は始めの部分で綱引きや闘鶏を楽しんでいる人々が描かれていて驚きました。

「……鳥獣戯画ってこんなだったっけ?」

しかしその次の場面でさらにびっくり!ふたたび二足歩行の兎や蛙が現れるのです。鹿や猪、牛車に乗って楽しそうに遊んでいます。

「……そう、これこれ!」

筆致は甲巻と比べると柔らかく、おおらかな印象です。もしかしたら甲巻と丙巻では書き手が違うのでしょうか?

こんなに有名な絵巻物なのに筆者や主題、制作背景が不明というのも不思議ですね。


似絵(にせえ)とは

顔かたちを似せて写実的に描く技法です。鎌倉時代にはそれぞれの人物を理想に寄せて描く傾向が見られました。


・随身庭騎絵巻(鎌倉時代 13世紀 東京・大倉集古館)

随身(ずいじん)とは鎌倉時代に貴人を警備した護衛武士のこと。当時、天皇や大臣を警備する武人は大人気。今でいうアイドルのような存在でした。

描かれた9人の顔のそばには名前も書いてあります。かれらは実在した人物で、よく見ると容貌にも個性が現れています。

躍動する馬にまたがる勇猛な姿はきっと当時の人々の憧れだったことでしょう。


土佐派とは

室町時代になると武家の人々の間にもやまと絵が広がります。

金銀できらびやかに彩られた作品が数多く生まれました。当時中国から伝わった山水画に対抗したからともいわれています。

一方、宮中の宮廷絵所では、天皇や貴族たちの求めに応じて絵画製作がおこなわれていました。室町時代、とくに宮廷絵所で絵師として活躍したのは土佐光信・光茂の親子です。

ふたりは絵巻物のほかに、肖像画や仏画も描きました。かれらの働きによってやまと絵の流派・土佐派が誕生します。


・清水寺縁起絵巻 巻上 土佐光信・光茂筆(室町時代 永正14年(1517) 東京国立博物館)

これは京都・清水寺の縁起や利益(りやく)を描いた絵巻物です。水墨画の影響を受けた土佐光信。その墨線が特徴的に現れている作品です。

しかし音声ガイドと公式図録によると、子・光茂が担当している箇所もあるようだと解説されています。

武士の鎧まで細やかに描く繊細なタッチが素晴らしく思わず凝視していました。荘厳で優美な作品で気づいたら「ほーっ」と声が出てしまいました!


四季絵とは

ひとつの作品の中に季節の移ろいを表現しているものを四季絵と呼びます。


・浜松図屏風(室町時代 15~16世紀 東京国立博物館)

屏風を右から左へ流れるように眺めると、春夏秋冬と季節の移り変わる様子がよくわかります。

柳や松、四季の花々がまるで風に揺れているように描かれています。

その周りを飛び交う色とりどりの鳥たち。川で漁をする人や旅人も、皆いまにも動き出しそう!

風景画と風俗画がひとつになった心暖まる作品です。

大きな屏風画で壮大な構図。スケールの大きな作品です。ずっと眺めていると、なんだか涙が出てきそう。とてもステキな作品でした。

その他のお気に入り

・百鬼夜行絵巻 伝土佐光信筆(室町時代 16世紀 京都・真珠庵)

鍋や釜など、100年使い込んだ生活道具は変化(へんげ)して妖怪の姿になるのだとか。公式図録によると、妖怪たちの姿を描いた絵巻物は60件以上確認されているそうです。

これはその中でも現存最古のもの。ここに出てくる妖怪は後にパターン化されて「御伽草子」などの物語に描かれるようになったのだといいます。

おどろおどろしい雰囲気だけど、どこかコミカル。いつまでも見ていたい楽しい作品です。


音声ガイドで「やまと絵」をもっと身近に!

今回の音声ガイド、ナビゲーターは歌手や俳優として活躍中の夏木マリさん。解説ナレーションはフリーアナウンサーの石澤典夫さんです。

夏木さんのナレーションはすぐ隣にいて一緒に作品を見ているよう。夏木さんが感じたままを呟いてくれるので、とても親しみが湧きます。

そのあと石澤さんのやさしく温かみのある声で作品の時代背景などを解説しています。

音声ガイドには会場レンタル版とアプリ配信版のふたつがあります。

なお、アプリ版の配信は2023年10月11日から12月31日まで。自宅に帰ってからもおふたりの解説を楽しめます。

詳しくはこちらから

https://yamatoe2023.jp/goods.html


関連グッズもたくさん!

会場内のミュージアムショップでは、個性豊かなグッズが販売されています。

わたしは公式図録と「百鬼夜行絵巻」の手ぬぐいを購入しました。

図録は展示内容をすべて収録。全480ページの豪華版です。重くて持ち帰るのが大変でしたが、展覧会の感動を手元で何度でも味わえるのがいいですね。

詳しくはこちらから

https://yamatoe2023.jp/goods.html


まとめ

東京国立博物館で開催中の
特別展「やまと絵-受け継がれる王朝の美-」
は、2023年12月3日まで。

期間中は、展示替えが行われます。訪れる時期によって展示内容が変わりますのでご注意ください。

日本人ならではの感性が凝縮した「やまと絵」の世界。ぜひあなたの目で見て、心で味わっていただきたいと思います。

くわしくはこちらからどうぞ


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