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見知らぬ国の書店で▶泉ハナ

横浜読書会KURIBOOKSの一般参加者 泉ハナ です。
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少しの間住んでいたサンディエゴ郊外の街には、スターバックスが併設された大型書店バーンズアンドノベルズがありました。
けど、そこに行くには1時間に1本しかないバスに乗るか、歩く人なんかいない荒野の道をひとり20分歩くしかなく、結局とぼとぼ歩いて時々行っていました。
書店では、スタバのコーヒー片手に、フロアに座り込んで本を立ち読み(立ってないけどw)している人もいてフリーダムで、私はそんな雰囲気が好きでした。
英語の本は読めるけど、難しい本はかなり大変だし、時間もかかる。
だから、買う本といえばエッセイとかあっさりとしたセルフヘルプ(自己啓発)本、もしくはユーモア本みたいなものばかり。
そんな中、ある時、とても美しい装丁の本と出会いました。
作者は日本ではまったく知られていない女性、並んでいる本はいずれも分厚くて、手のこんだ美しい装丁の本ばかり。
手にした本の物語は、大きな森で生きるとある一家の歴史を、その家の女性たちの視点で綴ったもの。
ああ、読みたい。。。と思って開いてみたものの、形容詞が多様された、ひとめで上質な文章だとわかる高度な英語で、当時の私では到底読む事かなわず。
がっくりきて、思わず視線をあげて大きな書店をみまわし、「ああ、私はここにある多くの本に書かれたものを知らずに死んでいくのだ」と思いました。

通っていた学校はバスで片道2時間以上、乗り換えるバスターミナルの近くに、小さな古書店がありました。
私はそこが大好きで、時々学校の帰り、どんな本があるのだろうとそこへ行きました。
帰国直前の最後の訪問で、記念にチックフリックな本(軽いテイストの女性向けの本)を1冊購入、店主の大柄なおじいさんが「よく来てたよね」と言ったので、「ここが大好きでした。でももう日本に帰るの」と言うと、「またおいで」と言って、書店の黒猫マークのしおりを2枚本にはさんでくれました。

ニューヨークには個性的な書店がたくさんありますが、とくに有名なのはストランド書店です。
古書店ですが、ロゴのはいった雑貨が人気なので、日本でも持っている人をよく見かけます。
ここは、ものすごく高い天井のてっぺんまである棚に、これまでアメリカで出版されてきた本がみっちりと詰まっています。
とにかく雰囲気がよくて、ゆるゆるといろんな本を見ながら長い時間、そこにいる事がよくありました。
ここで、前の記事に書いたボブ・グリーンの本を探しましたが見当たらず。
店の人に勧められてオンラインの方で登録しておき、その後、在庫が見つかった時点で通販しました。

ボストンに行った時、そこで絶対買いたい本がありました。
デニス・レヘインのアンジーとパトリックシリーズです。
家の近くの書店で、書店主さんお勧めのPOPを見て購入、あまりにも面白くて全巻あっという間に読みました。
その舞台となったボストンに行く事になった時、絶対原書はそこで買おうと決めて行ったのが、ハーバード大学内の書店。
全然見つからなくて、白い髭にめがねの書店員さんに尋ねると、地下にある棚の一番下に2冊だけ、置かれていました。
その2冊を手に、ついでにハーバード大学の刻印がはいったボールペンを1本追加でレジで会計しようとしたら、突然、隣のレジで会計していた青年が私の本をレジ打ちしていた書店員に「彼女は僕の友達!」って言って、何かのカードを書店員に提示しました。
もちろん、全然知らない人。
びっくりする私に彼はにっこり微笑み、「本、楽しんでね!」と言っていなくなりました。
何が起きたかわからずにいたら、レジにいた書店員が「ハーバードの学生証があると、本人と家族はここで売っているものはディスカウントされるの。あなたは彼のお友達だからディスカウントになるわよ」と笑って言いました。
いやぁ、なんて粋な事をするんだろうと思いました。

フィンランドのヘルシンキでたまたまはいった書店は、品のよいおばあさんが店番をしていて、古めかしい本が小さな店に山と積まれていました。
手にとった本は植物の絵が描かれた図鑑でした。
「かもめ食堂」で有名になったアカデミア書店は大型書店で、きれいでカフェテリアも併設されています。

チェコのプラハは古書店が多いのが有名で、とくに絵本文化がとても強いそうで、いずれの書店にもいろんな種類の絵本がたくさんありました。
不思議な形の絵本や、豆本も多くて、そちらが好きな人には宝の山。
どこも趣きのある書店ばかりで、店のロゴがはいったエコバッグを売っているところも多かったです。
カフカ専門の書店があり、行ってみると私以外に誰もおらず。
カフカってそんなに本出していたっけ?と思ったら、書店員さんいはく「カフカ関係のものも扱ってるから」という事でした。

香港の書店は、大型も個人書店もなんとなく懐かしい空気がありました。
翻訳された日本の本もけっこう多くて、興味深かったです。

スリランカのアーユルヴェーダ施設には、滞在した人たちが残していった本を置く小さな図書館がありました。
いろんな国の本がありましたが、日本語の本もけっこう多くあり。
だいたいの人が治療のために来ているので長期滞在の人も多く、本をやまほど持ってきている人もたくさんいるという話でした。
みな、帰りは荷物を減らしたいから本を置いていくので、図書館ができたそうです。
私が滞在した時は、スーツケースに司馬遼太郎みっちり積み込んできていた人がいて、テラスでいつも読んでおられました。

イギリスに行った時の事。
空港の書店でみつけたとある本、高い場所にあってなかなか取れず、背伸びしていたら、背広を着た品のよいビジネスマンが「これですか?取りましょう」と言って取ってくれました。
お礼を言う私に爽やかな笑顔を向けて去っていったその人の背中に、ごめん・・・と心の中でつぶやいや私。
取ってもらった本は、実は女性向けのエロ小説本。作者はジュエリエット・ヘイスティング。本来は推理小説家ですが、ハーレクインロマン系のハードなエロ小説も何冊か出していて、私、ものすごくファンで全部持っています。
とにかく文章が美しい作者でありまして。
とはいえそんな本、あなたに取らせてマジごめん。。。と思いましたです。

世界中には星の数ほど本があって、でも私たちはそのほとんどを読む事ができません。
異国で本屋さんにはいると、都度、それを痛感します。
それでも私は読む事ができない言語の本を手にして、その本が語ろうとする言葉をなんとなく感じ取るのが好きです。
そこに書かれているものは、私の知らない文化、私の知らない習慣や宗教、私の知らない民族、私の知らない国の物語です。
いつかこれが日本語に翻訳される事を願い、祈る。
外国に行くと必ず書店に寄るのは、そんな空気を味わうためだったりします。

泉ハナ

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