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【本多顕彰『文章作法』は目から鱗】

英文学者、評論家で浄土真宗の僧侶でもあった本多顕彰氏は(1898-1978)は『芸術と社会』、『文学の知識』、『徒然草入門』などを始めとした大変多くの著作を残しています。
文章もわかりやすく、著述することに対して基本を踏まえた素晴らしい考え方を持っている方です。

ここで、1959年に書かれた『文章作法』は「表現と伝達」、「生きた言葉」、「習練」、「文章の組み立て」、「書き出しとそれ以後」、「ユーモア」、「手紙の書き方」などを章立てとし、多岐にわたって詳しく述べられていました。
全体を満遍なく抜き出すことはここではむずかしいですが、大切だと思われる箇所をごくわずかですけれども抜き出してみました。


1  はっきりつかまれた文章は明快

 文章を書く人は、表現力を失わないように心がけつつ、しかし、できるだけやさしく書くべきであろう。
情緒を表現するのではなく、むずかしい思想を伝えるばあいも、それをたしかにつかんで、よくかみくだき、自分のものとして、自分の言葉で、そして、やさしい自分の言葉で伝えるべきである。

2  流行語はさけたい

 文章を書く人は、表現力を獲得するためには、新造語や、よみがえらされた語を使うべきだけれども、それらの語は若死にするおそれがあるということを知らなければならない。

3  社交性を忘れぬこと(特に手紙)

文通のばあいも、批評文のばあいにも、この配慮なしにはすまされない。
特に手紙は、書いてあるものからのみ判断されるから、慎重の上にも慎重を要する。
会話のばあいなら、「君はバカだね」といっても、同情的な表現や身ぶりをともなわせれば、相手は、かえって親密感をいだくけれども、手紙にそれを書き、ほかの部分で、あふれるような同情がうまく表現されていないばあいは、こちらの真意は誤解され相手が怒ってしまうというようなことがありうる。

4 肉迫・統一・習練

文章は感動なり思想なりを精神とした生き物とならなければならない。
(〜中略〜)
文章が生き物(有機体)となるためには、どうあらねばならないかというと、ちょうど、動物の各細胞がたがいに緊密にむすびついて、ぜんたいを形づくっているように、各語が(全体の統一をめざして)密接にむすびつくことが必要である。

5  一般的なこころえ

いい文章を書こうとするならば、感情を表現するのだったら、親鳥が卵を温めるように、それを胸の中でよく温めて、それが、ひとり立ちできるようになるまで待ち、また、思想だったら、考えぬいて、隅から隅までアイマイなところがなくなるまで待つことが必要である。

6  ユーマァの発端

巧まざるユーマァというものはない。ユーマァは、すべてたくらみである。
(〜中略〜)誰でもユーマァを作りだすことができるというと、そうはいかない。
(〜中略〜)そういうものをつかむことができるのは、人生の表と同時に裏をも見る人でなければならない。

7  手紙のルール

強い感情をこめて書く手紙、悲しさを表現する手紙、ことに怒りを表現する手紙は、深夜に書かないようにした方がいい。深夜に書いて、すぐ翌朝投函するというような早まったことはしない方がいい。

(以上のポイントは著作の記述順に挙げています。)


この指南書は小説作法などではなく、文章を書くための心得を示したものです。
基本的な書き手の思考法が示されていますから、小説などを書くことについても当然につながってきます。
上述のポイントは文章を作成する際には、我々には日頃から意識できないようなところもあります。
文章作成のスキルは、仕事でも日頃の生活の中でも案外に自分の武器になるものです。
先人の考えを参考にしながら、自己の鍛錬で技術を磨いていくことは、とても有効なのではないでしょうか。
文章の書き方を示した本は、今や数えられないほどの社会に流通していますが、何か一冊自分に合ったものを見出して熟読する。
そしてぜひ新しい発見をして、実践してみていただきたいと思います。

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