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研究に対する「投資とリターン」って考え方もそろそろ変えた方が良いのかもしれませんね

研究の裾野って本当に大切で、大学でやってる研究だけが全てじゃなくて、より広義の意味での知的活動というのが、研究の世界の外にももっともっと広く広く在野にまで広げていって欲しいと強く思うのですよね。

10兆円規模のファンドを立ち上げて、その運用益3000億円を研究に活用するという施策に対する記事がありました。これは私のウォッチ対象記事。

2021年9月4日付け日経新聞電子版

日本の基礎研究基盤が弱体化している。世界トップレベルの論文数は過去20年間で4位から10位に転落。博士課程進学率は20年間で2分の1に低下、若手ポスドク(正規職のない博士)は生活難から、わずか10年間で半減した。

研究基盤整備には人、モノ、カネの三要素が不可欠だが、中でもおカネだ。

ファンドの運用益を受けとるためには、自立した大学経営、外部資金の調達を増やすなど大学改革が求められるとのこと、そして参画大学は自己資金をファンドに拠出することも求められそうだ、とのこと。

これらを踏まえて、この記事の論旨としては、この基金(ファンド)コンセプトは良く、研究水準向上策として期待はあるとしながらも、以下の具体的な問題・課題点を挙げている。

*平等を謳ってしまい、単なるバラマキになってしまわないか
*足の遅い大学に合わせる護送船団方式になりはしないか
*自立しつつある一部の大学経営のブレーキとならないか
*年率5%程度での高度な運用とスキルはファンドにあるのか

確かにこの懸念はそうだろうなと思います。うまくいくためには、色々と見ておかなくてはいけないポイントがあるものです。

今回は、研究に焦点を当てた話ではありますが、研究の広がり(多様性とも言えると思いますが)を再び取り戻すきっかけにこの基金がなってくれるのを期待しています。

研究というのは、同じような研究分野に多くの人が群がるような状況だとあまり良い状況だとは言い難い。理想の状況としては、色々な研究分野に研究者が居て、広く新しい知見が掘り起こされているような状態が良いと私は思っています。

私が研究者をしていたころから、研究がどのように応用(産業等において)されるのかという視点が重視されてきたように思います。

科学的知見の応用というのも確かに重要である一方で、その応用を支えているのは一見応用とは遠い基礎研究の知識の集積があります。

富士山を思い浮かべて欲しいのですが、3,776メートルの日本最高峰頂を支えるためには、どこからどこまでが富士山の裾野なのか分からないくらい広大な土台が必要となります。

科学の産業応用(例えば、医薬品や電池など)を山頂とすると、それを支える裾野が基礎研究に相当し、山の高さは社会へのインパクトと捉えられると思います。

裾野が狭くなれば狭くなるほど、産業応用できる可能性は少なくなりますし、山を高く維持できずに社会的なインパクトも期待できなくなります。

だから、この裾野を維持するために研究費が必要なのですが、これまでのように競争的資金というやり方だけではもう維持が難しいのだと私は思っています。

純粋な研究成果が社会的インパクトを持つ研究も勿論ありますが、それ以外にも研究を通じた人材育成という側面もあります。これはかなり遅効性のため測定も数値化も非常に難しいとは思いますが、こうした効果も確実にあると思います。

私自身は、元研究者であり、研究以外の世界で今仕事をしています。研究生活の中でで学んだ知識や経験を活かしながら仕事をしているので、私はこの人材育成という側面の効用を強く感じています。

企業での研究では、投資と回収という意識が大切だとは思いますが、アカデミアでの研究に対して投資という意識で研究費を考えるのは、やはり無理があると思います。投資には、リターンが必ずセットになっているからです。

このリターンを求めすぎると、研究の姿が少しずつ歪みはじめ、今の日本における姿になってしまうのだと私は考えています。

2021年8月31日に書いたnoteでも同様の内容を書いています。

日本の研究力低下の課題点としては以前からこれが指摘されています。

1)優秀な若手が研究者を目指さないという点
2)新分野への挑戦が日本は少ないという点

日経新聞記事での締めくくりにも書かれていましたが、計画し実行し、それを点検し、見直していく、息の長い施策として欲しいと願うばかりです。

そして、私のようなアカデミアには籍を置かない者でも、研究の世界を支えるような知的活動が可能であり、そうした世界がより一般的になってくると素晴らしいと思うんですよね。


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