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ささやかでいて、やくにたたないこと

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ささやかで、役に立たないことです。
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#コラム

無駄なことについて

無駄なことについて

僕の父親は山から落っこちて死んでしまいました。父を谷底から救出するために救助隊のヘリが出動してくれて僕はネット経由のニュースで吊り上げられる父が入っているであろうオレンジの袋と、どこかに着地したヘリの窓から懸命な心臓マッサージをする隊員の方の上下するヘルメットを見ました。

その救助による金銭の請求は一切ありませんでした。捜索が難航していたら一日何百万と言う単位のお金がかかっただろうと言われました

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親父が死んで僕は分裂

親父が死んで僕は分裂

内省的でモラトリアムなものが僕の性質で、僕自身もそういう作品に触れることを愛していたし、造ってきた。でも父親が死んだとき、そういう自分自身を形作ってきた部分と分裂した部分が出来た。人は突然死んでしまうし、それは仕方がないし、不幸ではあるけど不幸な側面だけではないし、なによりいつまでも悲しんでいるわけにはいかない。生きている人は生きていかなくちゃいけない。悲しみは、悲しいときにだけそこにあるわけでは

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雲のかげ

雲のかげ

雲たまに思い出してしまう変な記憶がある。
僕は小学校低学年くらいで実家の台所のテーブルで母親と向かい合わせに座っている。なにかジュースのようなものを飲んでいて、夕方の少し前くらい。母親の後ろの小さな窓からはやわらかく日が差し込んでいる。

母親は僕を見つめていて、何で見てくるんだろうと思いながら僕はジュースを飲む。
彼女は目をつむって何か考え事をしたりもする。唇から少し歯を出して右手の中指の背を当

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「かわいい」は褒め言葉か

「かわいい」は褒め言葉か

かわいい。こんなこと自分で言うのはちょっとはばかられるような風潮があるけど気にせず言うと僕は子供の頃とてもかわいい男の子だった。小柄で童顔、黒目がちで笑うと綺麗に両側にそろったえくぼが現れる。くるんとカールする癖のある前髪、髪も長くて女の子とよく間違えられた。

「かわいい、かわいい」とよく言われていた。自分では自分のことをかわいいと思わなかったが、「かわいい」と言われることはわかっていたので、そ

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人と話すのは綱渡りのよう

綱渡りをしたことはないけど、想像するあの感じがすごく似てる。誰とでもそうなわけでなく、初めて話す人とかはあんまり親しくない人と話すときはほぼ。

落っこちないようにバランスをとっている。会話が始まると足元の綱がぶるぶる震える。身動きが取れなくなる。
きっとそこから落っこちて綱渡りって難しいよねって話をすればいいんだろうけどね。
なんで出来ないんでしょう。別に自分をよく見せようと思ってるわけでもない

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頭の中で誰かと話してる

頭の中で誰かと話してる

頭の中で誰かが誰かと話してる。それは知り合いだったり、知らない人だったりする。僕と誰かなときもある。僕と僕のときもある。心配ごとについてのときもあれば、特に何の内容もないときもある。

いつも話している。めちゃくちゃ真剣に何かについて考えたり、創作したりしているときやなんかは違うけど、隙間があれば会話は始まる。それが普通のことだと思っていた。
漫画とかでもよくみんな頭の中で誰かと話す描写があるし、

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ささやかでいて、やくにたたないこと「目と目が合うのが少し怖い」

ささやかでいて、やくにたたないこと「目と目が合うのが少し怖い」

目と目とがあうのが少し怖い

お寿司屋さんでウェイターのアルバイトをしている。お客さんが帰るときに「ありがとうございます」と大きな声で言う。(ありがとうございました。ではなく、ありがとうございます。)ふと思いついて目を見て言ってみた。
意外とお客さんもこっちの目をしっかり見ていることに気がついた。

こういう事がよくある。目をわざとそらしているわけじゃなく、自然と目を見てない。たまたま目があったと

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