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追憶のポエミー【詩集】

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to You

雨音の響くバス停で 窮屈に握る折り畳み はみ出た肩が濡れながら 袖が湿って重くなる 小さなブーケをぶら下げて わたしはひとりで立っていた “Happy Birthday to You” 頭の中で歌ったけれど この声はそこへ届くでしょうか 思い返すのは笑顔のあなた あなたと一緒に微笑むわたし 会えないあなたは笑えてますか 選んだ暮らしは楽しいですか まあるくほころぶ赤い薔薇 名前も知らない青い花 外では変わらず雨の音 茎が斜めに揺れている 水道の水を溜めた瓶 一粒の泡が浮

途上シンガー

音を立てて鳴る心臓を抱いて 確かにここに立っている 燃え上がるような夢を掲げて 確かにここで生きている 心を通わせてもいないけれど 出会った人はマネキンじゃないよ “確かにその血が通っていたでしょう?” 帰宅ラッシュの早歩き 前だけ向いて興味ゼロ 何かを目指す人々は 脇目も振らず過ぎていく 全速力でもなかったけれど 道を間違えた訳じゃないよ “確かにその足で歩いて来たんでしょう?” どこか遠くにすり抜けて 目が合ったのに気づきもしない 喉が枯れるまで叫んでも 誰も相手

迷子

ログを埋めるタイムライン 字面を見れば馬鹿馬鹿しくて 情けなさ過ぎて反吐が出る サミシイの? 構って欲しいの? ひとりぼっちは嫌なんだ? そこにあるはずの顔をなくして ここにあるはずの声もなくして 言葉ですらも信じない 君はあの日と同じまま 泣きたい気持ちを我慢して ひとりぼっちで彷徨った 優しい両手をはねのけ続けて 泣きべそかいたら負けだと信じて 迷子の君は どこへ行く? 視界を埋める人の波 みんな仲良く手を繋ぎ 楽しく笑って過ぎていく ここはどこ? あのひと

梅雨晴れ

梅雨の谷間の晴れの日に ぽかぽか温かい布団 毎度のごとく寝坊して お昼ご飯に遅刻した 君はいつもの 木陰のベンチで まるまる太った小雀に パンの欠片を何度も放る ごめんごめんと繰り返し 君の隣に腰掛ける いつもと同じコンビニ弁当 封を破って横に置く 駅から急いで歩いてきたから 僕の背中は汗まみれ ぱたぱたファイルで風を送って ごめんと もう一度謝った 僕らはカッコつけ合って ボロを出さないように 傷つかないように 泣けてくるほど くだらない話ばかりで 心からの言葉なんて

僕らはどこへ向かってる? 僕らはどこから逃げている? さあみなさん 駅に向かいましょう 優しく微笑む先生が 目印の旗を高く振る おさない かけない しゃべらない 決められた道を言われたままに みんな同じく避難しないと このままで居たら だめですよ キラキラ輝く駅を目指して 後ろから急かされるまま 周りの人に流されるまま 黒々とした行列が 生き物のように蠢いた 息も出来ない人ごみの中で 透き通ったふたつの翼が 音を立てながら軋んでる 真紅の滴が一粒 疲れた背中に流れ落

花束

薄墨に淀むぬるい部屋 苛烈な紅が宙を裂き 夕暮れ時を告げる音 絡みつく湿度 不安な視界 例えば君がここに居て 僕を見ていてくれるなら…… 微笑みかける君の顔 あの頃のまま 今も きっと 絶望色した花束抱いて かすれた時間を積み上げて 重さをなくした花びらが はらはら流れてゆくのです 瞼の裏に消えた熱 退屈の味が粘りつき 唾を飲み込む苦い音 悪夢の終わり 亡者の吐息 確かに君はここに居て 僕を見ていてくれるから…… 微かな気配に揺れるもの あの頃のまま 今も ずっと

道徳的な学習の時間

薄っぺらい教科書が一冊 一週間で最高につまらない授業の始まりです 個性を見つけよう! 自分探しノートを書こう! 自分だけの何かが欲しい 誰かにとっての特別になりたい みんなに認めてもらいたい それがもしキラキラと輝いて 問答無用に素敵な自分を映してくれるのなら お金払ってでもダウンロードしたい かもね 普通は嫌だと我儘な心が叫ぶ 普通が一番と臆病な心が囁く 天の邪鬼にぐるぐる回って きっとそれが私だけの個性 なんてね 個性を見つけよう! 自分の性格を発表しよう!

夢の剣

“いつかあいつに勝ってやる!” 叫ぶだけならタダだから 寝っ転がって繰り返す その日が来るのを待つだけで 自分で立てる気もしない 負ける資格すら持ってない 心の奥じゃ分かってる 敵から身を守れるように 死にたくないから準備する 言い訳の盾を振りかざし 自嘲の鎧で完全武装 夢の剣は重たくて 持っても落してしまうから…… ガラスのケースに入れられて 飾られるだけのあの剣 たまに思い出して眺めて うっとり酔って ご満悦 “ここからが俺の戦場だ!” 口上だけは一丁前 戦う覚悟