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2023年 年間作品より 〜悠凜さん選〜


今年noteに発表した俳句作品の中から

「今月の特句」
「今週の一句」

を、毎月選んでいただいていました

悠凛さん
による選句と文章です

1年をふりかえりながら
楽しんでいただければ幸いです


2023年

1月

〖今月の特句〗

鳴るたびに夜闇ふるえて除夜の鐘

投稿されたのは12月31日でしたが、選句の区切りが前週で終わってしまっていたので入れさせて戴きました。

除夜の鐘をついたことはないのですが、昔、鎌倉の霊園では良くついたものでした。昼間よりも夜、それも大晦日の静けさの中で遠くに響く近隣の鐘の音は、確かに空気を震わせてやって来るように感じます。気持ちの持ちようもあるでしょうが、一層厳かな雰囲気になります。

また、特句ではありませんが、突然舞い降りた雪に思わず窓を開ける、と言うのもとても良くわかります。大抵は寒くてすぐピシャンと閉めてしまいますが(笑)

〖今週の一句〗

ふたとってのの字の湯気よ雑煮椀

まどひらく予告なくふる雪にこそ

陽だまりに明日がゆれて冬すみれ

富士の影あらわにふゆの星ぞらよ


2月

〖今月の特句〗

おおくじらちいさな星の海を跳ぶ

寒さは続いているものの、周囲を見渡すとどこか明るく春めいて来たように見えます。空を見上げても、同じ曇り空にも明るさと軽やかさを感じます。
そんな空を悠然と泳ぐクジラが見えたら、きっとぼんやりと眺めてしまうだろうなぁ、なんて空を見上げています。

〖今週の一句〗

和歌にある詠みびと知らず蝋梅よ

てのひらに落ち街に落ちぼたん雪

はるの湯気のの字しの字よ珈琲店

街よみな出会いわかれてはるの雪


3月

〖今月の特句〗

この心千々に飛ばしてしゃぼん玉

すぐにわれてしまうこともあれば、思いの外、長い間ふわふわとただよい続けることもあるシャボン玉。危なげな雰囲気と、煌めきながらどこまでも飛んでゆきそうな雰囲気とを併せ持ち、思わず目を引かれます。

人の心も不安定さと確固たる信念が同居していたりするもので、他人を心配させることもあれば、堪らなく惹き付ける魅力になることもあるなぁ、なんて思いました

〖今週の一句〗

あしあとがおどるようによ春の浜

この心千々に飛ばしてしゃぼん玉

ひるがえる黒また白のつばめらよ

あしもとにしだれざくらの枝先よ


4月

〖今月の特句〗

とおい日が咲きでて奈良の八重桜

百人一首の中に、

いにしえのならのみやこのやえざくら
けふここのえににほいぬるかな

という伊勢大輔の和歌があります。一番始めに覚えた歌なので思い入れがあると言えばあります(笑)

ただ、今回の句にある卒業生も新入社員も三輪車に乗っている子どもも、歩き続ける限り、やがては「遠い日」や「古」を思う日が来るのかも知れないなどと考えつつ、選句致しました。

〖今週の一句〗

ひざのうえにぎりこぶしよ卒業式

すわる椅子よこいちれつよ入社式

とおい日が咲きでて奈良の八重桜

行く日々ののこりの一つさくら餅

三輪車わがみちをゆくのどかさよ


5月

〖今月の特句〗

田舎には田舎のじかんかたつむり

トリコロールコラボ《梅雨2023》で、吉田翠さんが140字小説の題材として選んだ句です。この句と、翠さんの小説を自分なりにイメージして画像を作らせてもらうという思い入れのある句となりました。

また、こちらを上の句として下の句を詠み、短歌にもさせていただきました。

〖今週の一句〗

こいのぼりのぼりゆくかに川風よ

いっぽんのゆびとたわむれ風鈴よ

ざわめいて若葉の坂に木もれ日よ

風のおとあたまにのせて麦わら帽


6月

〖今月の特句〗

かじりつくトマトたとえば水の玉

トマトも祖父母との思い出に直結しています。

東京の祖父とは、学校から帰ると区から借りた畑に毎日のように行って水やりなどをし、新潟の祖母とはお盆の早朝にトマトやキュウリ、スイカなどの収穫に行った思い出です。

桶で冷やした真っ赤なトマトは、まさにみずみずしさの極致でした。

祖父がトマトのことを『赤茄子』と呼んでいたことも懐かしい記憶です。

〖今週の一句〗

飲みくだす喉のちからよ黒ビール

いただきに堂おいて山したたるか

あさぞらに咲きほどけては蓮の花

かじりつくトマトたとえば水の玉


7月

〖今月の特句〗

荒神輿みずをかけてもおさまらず

子どもの頃、お祭りの時季になると電車で数分の伯母の嫁ぎ先に遊びに行きました。

テレビでニュースになるような有名な祭りではありませんが、小さな神社とは思えない規模の神輿があり、従姉は子どもの頃は神楽舞などに出ていたので見物したものです。

神社の敷地から出られないほどの神輿が押し合い圧し合い(外に出す時は担ぎ棒を外していたらしいです)、大層な熱気だったのを思い出します。

〖今週の一句〗

尾をふってときながれだす金魚鉢

荒神輿みずをかけてもおさまらず

見るほどにうごくこころよ雲の峰

ここはどこここはふるさと昼寝覚

身のうちを風過ぎゆくか冷やし酒


8月

〖今月の特句〗

アルバムをひらけばとおい八月よ

アルバムを開かなくても、ふと思い出せば脳裏には思い出がたくさんあります。

もちろん、忘れていることの方が多いはずですが、それを覚えている人から聞いたりする──そんな風に過ごすひと時も、また遠い思い出のひとコマになっています。

〖今週の一句〗

ながおかよひらきにひらく大花火

黒ぶどうにひかりをいれて写生帳

ふるさとに波帰りくるはちがつよ

アルバムをひらけばとおい八月よ


9月

〖今月の特句〗

摘むたびに日がさしこんで葡萄棚

収穫と違い、ぶどう狩りの場合、実際には葡萄を摘んでもそれほど日が差し込む感じはないのですが、多湿のために棚にせざるを得なかった日本の葡萄畑を的確に表現していると感じます。

背が低いと台が必要だったりもしますが、鈴なりにぶら下がる葡萄を見る小さな子たちのキラキラした目や、思いの外すっぱくてしかめた顔も差し込む日と同じようにまぶしかったです。

〖今週の一句〗

白菊がまっしろに咲く日なたこそ

あおあおと水の地球のつゆけさよ

摘むたびに日がさしこんで葡萄棚

身に残るいのちも露のまぶしさよ

かぞく来てとなりにならぶ望の月


10月

〖今月の特句〗

いねを干す戦前戦後きょうあした

うちの方では稲を干す時に使うものを『はさ』ではなく『はざ』と呼んでいます。東北では『はせ』とも言うようです。

新潟のはざは田んぼに長く、もしくは円に組む形ではなく、上に向かってハシゴのように縦横に組んだ木にかけていました。雨が降りそうになると夜中でも総出でしまわなければならず、大変だったそうで、まさしく収穫してからも戦場だったと思います。

別途、

鑑真の目にまんげつのあかるさよ

鑑真和上という人は、日本に仏教を教えるために生存率3割の渡航6回目にしてようやく辿り着いたと聞いています。その苦労で目も見えなくなったのだとか。(日本の歴史で読みましたw)

無事に日本に辿り着き、帰化までするに到る果てに『視えた』ものは何だったのかと気になります。

〖今週の一句〗

さいげつがゆたかにしだれ散る柳

鑑真の目にまんげつのあかるさよ

ふるまいの酒尽きるまで秋まつり

木を落ちて未来ころがる椎の実よ


11月

〖今月の特句〗

そのあしであるいてゆくか七五三

10月も後半になると、子どもたちの少し緊張したような、それでいて誇らしげな何とも言えない表情がキラキラしている光景を見かけるようになります。
一人で歩いてゆく日を思い浮かべながら、あるいはそんな日が来るとは思いもしないで、ただただ嬉しそうに我が子の成長を見ている親御さんの表情に、こちらもつられて口もとがほころびます。

〖今週の一句〗

さいげつのあまさしみじみ干柿よ

ことごとく視界のそとへ銀杏散る

幸せをこそおもいだす日なたぼこ

いちにちを掃きあつめてよ落葉焚


12月

〖今回の特句〗

こと祝ぎの手に手に届け賀状書く

今回はどれも年末と言う時季に相応しい句を魅せていただきました。

……が、大切なのーともの大切なご家族、その大切な日に詠まれたこちらの句が、一番相応しくピタリと来たので選ばせていただきます。

今年一年、たくさんの句を魅せていただいたこと、またつたないながらも句会に参加させていただいたこと、本当にありがとうございました!

これにて2023年度の選句は最後とさせていただきます!

来年もよろしくお願いします!
どうぞ良いお年を!

〖今週の一句〗

自分との対話とホットコーヒーと

かんぱいの手ごと手ごとよ忘年会

こと祝ぎの手に手に届け賀状書く

拭きふいて窓よこころよ煤はらい

ホットワインほっと心のため息よ


悠凛さん
ありがとうございました


今年も1年間
多作多捨で
句を詠んで投稿しました

今年は下半期に
自分の句の模倣、自分の句の類句
が目立つ
1年になったように思います

またすこしずつ
投稿を続けていきたいと思います


いつも
ご覧いただき
ありがとうございます



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