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NO MUSIC,NO LINE.

バブを入れたお風呂。
飼い猫とのじゃれあい。
自分で淹れるこだわりのコーヒー。
お気に入りのYouTubeチャンネル。

誰しも日常生活の中に、ホッと安らげる心の拠り所があるものだろう。





わたしにとっての数少ない会社の友達とのグループLINEがある。

メンバーは、
クルクルさん(仮名・女性)
おにぎりさん(仮名・男性)
そして、わたしの3名。

お二人とも先輩であるが、友達と呼ばせていただく。
わたしたちは以前同じ支店で働いていた。
転勤で散り散りになった今でも交流が続いている。


息子が犬の散歩をしたいと言って、犬を抱き抱えたまま歩き続けている
自転車で外回りしてる時、後ろから見知らぬおじさんが「なるときんときー」と言って走り去って行った
本日のパスタを頼むと毎日ぬるいカルボナーラが出てくる喫茶店に一週間通い続けている



グループLINEでは、有益性ゼロの情報共有が気まぐれに行われている。

それはまるで、たった2人のフォロワーに向けたTwitter。








世間でSNSが広まり、#ハッシュタグが市民権を得ようとし始めた数年前のこと。

#レジ袋要りません
#この週末声に出した唯一の言葉
#隣でひたすら豆を食ってる
#上島竜兵似のうちのオカン


クルクルさんとわたしは、面白がって、最近流行りの#ハッシュタグを使ってLINEをしていた。

ひとり、#の出し方が分からないおにぎりさん。
読み方が分からないから調べようがないとお困りの様子。



確か小学校の音楽の授業で習ったはずだと、フラットが送られてきた。



惜しい。
このまま泳がせてみたら、正解に辿り着くのも時間の問題か。



しばらくの時を経て送られてきたのは、、、











いや、それデシリットル。



教科が違う。





奮闘のあまり、音楽から算数に変わっていた。





以来、おにぎりさんに#を教えてあげることなく、わたしたちはグループLINEで、全ての文章の頭にデシリットルをつけて会話している。

㎗ドリフのコントばりに
㎗上からタライ落ちてきても爆笑する程
㎗飲みてぇ


知らない人が見たら特異なLINEだが、わたしたちはここ何年も㎗を付けた文章しか送信していない。

一般的な国民の、一生の㎗平均使用回数と比較すると、8万%ぐらいになるだろうか。

そんなデシリットルラインが、わたしのホッと安らげる心の拠り所だ。








スマホの文字入力には予測変換機能が備わっている。

「み」と打っただけで、「Mr.Children」が完璧な綴りで現れるほどの感度だ。

わたしのiPhoneは、まだ濁点も付けない「て」だけで「㎗」が即現れるほど、わたしの指先を健気に予測してくれている。

しかし、当然ながら、わたしがLINEのやり取りをするのはデシリットルラインだけではない。

デシリットルメンバー以外の人にLINEを送る時は、この有能な予測変換の包囲網を、緻密なステップで掻い潜らないといけない。



さもなければ

今日はありがとうございました。
美味しい焼き鳥、ご馳走様㎗






ご馳走様㎗





ごちそうさまデシリットル…??





よっこいしょういち

別件バウアー

愛してマスカット

今日めっちゃ寒シングエルス





これらの類義語だと思われても仕方ない。



教科が違って…などと弁明したところで通用するはずもない。



しかも、リッター単位でビールを飲んだくせに、「デシリットルしか飲んでません」みたいな控えめな印象に、事後補正で美化しにかかっているようにも見える。



これはマズすぎる。





ご馳走様㎗(ごちそうさまデシリットル)

お疲れ様㎗(おつかれさまデシリットル)

了解㎗(りょうかいデシリットル)





トラップはそこかしこにある。

予測変換機能よ、どこまで貪欲なのだ。



デシリットルメンバー以外の人とLINEをする時は、この貪欲な予測変換とのいたちごっこ。



㎗が出ても無視。
㎗が出ても出ても、無視。

予測をされても断ち切る。
予測をされてもされても、断ち切る。



鋭い眼力。
繊細な指先の動き。
コンマ単位の判断力。
送信前の抜かりない検証。



不意に届くLINEへの返信こそ油断は禁物。

朝起き抜けに、電車の遅延で出勤が遅れると部署メンバーからのLINEが届いていることもある。

了解㎗


気を抜くとひとたび、わたしは意図せずダジャレ王の称号をほしいままにしてしまう。

わたしは、絶対にミス出来ないプレッシャーと戦い続けている。







デシリットルラインは、わたしのホッと安らげる心の拠り所だ。





でも、デシリットルラインのせいで、わたしは一瞬たりとも気が抜けない。





教科が違っただけなのに。




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さて、次回の #クセスゴエッセイ は

「多発オアシス」

をお届けします

お楽しみに〜
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