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一体何を鍵にして

「もしかして昨日、駅西口のファミレスにいた?」
珍しい人からのメッセージ。
特に仲が良かったわけでもなく、もう10年近く連絡を取っていない同級生。
かろうじて連絡先は交換していたようだ。

嫌な予感がする。
ひょんな会話から切り込んで、壺でも売られるのだろうか。
さらっと返信する。
「わたし行ってないよ」

「本当?すごく似てる人が居て、今になって思えば本人だったのかなと気になって。違ったのか。声かけなくて良かった」
そして、話は壺に及ぶことなくメッセージは終止した。

なんだ、純粋にわたしに似てる人が居ただけか。
疑ってごめん。




「トレーニングジムのお風呂に浸かっているところを見た」
「中国地方のサービスエリアでお土産を選んでいた」

身に覚えのないわたしの目撃情報は数多く挙がっている。
実の両親でさえ「街に出たらアンタみたいな子ばっかりや」と。

それほど、どこにでも居るような平凡な見た目だということか。

学生時代のバイト先ではこんなことも言われた。
「○○さんや〜、と思ったら全然違うおっさんやった」
知らないおっさんがわたしに間違えられていた。

汎用性が高いのか?わたしの見た目は。

みんな、わたしのどこをどう捉えて、他の人と似ていると判断しているのだろう





去年の冬、これまでとは逆の体験をした。

会社の最寄りの一駅隣の駅で、同じ会社の友達クルクルさん(仮名)を見かけた。
「クルクルさ〜ん」と小走りで寄って行った。

近くに来て気づいた。
全くの別人だった。
顔も姿も全然似ていない。
共通点は女性だということぐらい。

あれ?なんでわたし間違えたんだろう。

あ、赤いチェックのマフラーしてたからか。

ん?「赤いチェックのマフラーしてたから」??


クルクルさんが赤いチェックのマフラーをしているなんてこと、特別考えたこともない。
さかなクンの被り物ぐらいトレードマークになっていれば別だが、クルクルさんがどんなマフラーをしているか、特に意識をしたことが無かった。

ただ、今思い返せば、記憶の中のクルクルさんは赤いチェックのマフラーをしていたような気がする。

わたしはさっき、無意識に「赤いチェックのマフラー」を鍵にして、クルクルさんだと認識していた。



他にこんなこともある。

ものまねタレントJPさんの、考え事をしながらこめかみに手を当ててグリグリする仕草や、笑いながら両手を双眼鏡のようにそれぞれの目にやってキュキュっと回転する仕草を見て、「松ちゃんや」と思う。

同じく原口あきまささんが、人に話を振っておきながら全然興味無さそうに台本の紙をやたらとペラペラペラペラめくる仕草を見て、「東野さんや」と思う。

松本人志さんのことを「こめかみグリグリする人」や「双眼鏡キュキュの人」と思ったり、東野幸治さんのことを「人の話聞かずに台本ペラペラめくる人」と思ったことなど一度もない。
そんな仕草をしていたことに気づいてすらいない。

でも、その仕草を鍵にして、松本さんだ、東野さんだ、と認識してしまう。

一体何を鍵にして、人は物事を認識しているのか、分からないものだ。








お正月やゴールデンウィークなどの連休明けは、社会人何年目になろうと辛い。
楽しかった休日の思い出を全て消し去って、あれは幻だったんだと自分に言い聞かせて、出勤する。

連休最終日の夜、悪夢を見る人もいる。
会社に遅刻して怒られる夢、会議に出席する夢、仕事が終わらなくて残業する夢。
これから訪れる「平日」という恐怖に、飲み込まれそうになってしまう。

わたしも連休最終日の夜、夢を見た。

パキッ、パキッ。
パキッ、パキッ。


何だかよく分からないが、薄いプラスチックを割っているような感覚。





わたしは平日はだいたいお昼ご飯にお弁当を持参している。

詰めるものは決まっている。
週末に作り置きした煮浸し、自分で冷凍した焼き鯖、ブロッコリー、ゆで卵。
ギチギチに詰めたいので、さらに市販の冷凍食品のおかずを隙間という隙間に押し込む。

今の冷凍食品は、きんぴらなどの和惣菜から春巻き、グラタンなど、種類が多くて味も美味しい。
そして、何より便利だ。

プラスチックのトレーに入っているので、お皿に移さずトレーごと電子レンジでチンすることができる。
6個なり8個なりがトレーで区分けされていて、必要な分だけパキッと切り離して使うことができる。
パキッと。

パキッ、パキッ。
パキッ、パキッ。


わたしが見たのは、冷凍食品のトレーを切り離す夢だった。

確かに、お弁当を詰めるのは平日だけ。
冷凍食品のおかずを使うのは平日だけだ。

悪夢に見るほど、冷凍食品をパキッとすることが、わたしにとっての平日の象徴だったのか。


思わぬ部分を鍵にして、人は物事を認識する。





だから、知らないおっさんとわたしが見間違われたとしても、気に病むことはないのだろう。



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さて、次回の #クセスゴエッセイ は

「怒りのポイントを探れ」

をお届けします

お楽しみに〜
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