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ダウン症のユーキくんと僕 (5)

お母さんと僕とユーキくんの3人で、ドライブには行けるようになった。
1時間ほど、お母さんの車で市内を巡っては家に帰る。
そんな行程を、しばらくの間、繰り返していた。

だけど、「そもそも、お母さんとユーキくんとの関係が崩れていることも要因だったんだから、お母さんが支援に介入しないほうが良いのではないか」と考えるようになった。

改めて、僕とユーキくんの関係性を構築する必要があるのだ。

果たして、支援者である僕は、どういう存在であるべきなのだろうか。
僕は、「支援者とは楽しみを提供してくれる人であるべきだ」と思う。

そこで、ユーキくんが以前よく聴いていたゴールデン・ボンバーのCDをお母さんにこっそり購入してもらい、僕はそのCDを持ってくる人になろうと考えた。

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玄関先でお母さんからCDを渡してもらい、ユーキくんに「CD持ってきたよ」と告げると、彼の目の色が変わった。
すぐに手にとって、家で再生しようとするが、やはりエラー表示で、上手く聴くことが出来ない。
すかさず、「僕の車で聴こうよ」と声をかけた。
その声掛けを待ってましたと言わんばかりに、ユーキくんは外に出て、僕の車に乗り込むことができた。
二人っきりで、いつものコースやユーキくんが知らない道をドライブして家に帰った。

こんな風な支援を繰り返していると、いつの間にかユーキくんは外に出ることに抵抗がなくなっていた。
お母さんと2人だけのときも、「ドライブに行きたい」と外に出て車の前で待っていることもあるようだった。
部屋の中から、一気に彼の生活圏は拡大した。

しばらく経って、お母さんに困っていることを伺ったら「お風呂に入ってくれないことです」と教えてくれた。
以前は、自分から進んで入浴できていたようだが、近年はお父さんが強引に誘って、しぶしぶ入るということが続いていた。
そのうえ、お父さんが出張で不在の際は、入浴させることも困難なようだった。

そこで、僕はこんな支援を行った。

ユーキくんがいつものようにドライブにいく仕草を見せたとき、僕は玄関先で鼻を押さえて、大げさににこう叫んだ。
「あれ、チョット待って。ユーキくん、臭いよ、シャワー浴びてからドライブ行こう」
「ドライブから帰ってからお風呂へ入ろう」ではなく「お風呂へ入ってからドライブへ行こう」というのがポイントだ。
誰だって、嫌なことのあとに、楽しいことがあったほうが良い。
仕事の後に1杯のビールがあるから頑張れる。そんな人も多いだろう。

出かける気分だったユーキくんは「嫌だ」というジョスチャーをして、2階の自分の部屋に駆け上がった。
僕は追いかけて、「ほら、シャワー浴びてからドライブ行こう」と何度も説得を続けた。
ここは絶対に引いちゃ駄目な場面だと思った。
しばらくすると、根負けしたユーキくんは1階へ降りて、脱衣所に自分から入っていった。
僕はパンツ一丁になって、ユーキくんの洗体を手伝った。
ユーキくんも洗ってもらうことを喜んでいるようだった。
ドライヤーでしっかりと髪の毛を乾かしてから、僕らはドライブに出かけた。
気疲れしたのか、途中でユーキくんは助手席で眠っていたけれど、なんだか僕は嬉しかった。

それから、僕がお邪魔した日は、シャワーを浴びて2人でドライブに行くことが日課になっている。

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