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投資家が企業IRに確認しておきたい!知財のこと~投資家と企業(家)を繋ぐ特許の使い方

TechnoProducer(テクノプロデューサー)株式会社 CEO の楠浦(くすうら)です。

突然ですが、マーケット・経済専門チャンネル 日経CNBCの「昼エクスプレス」に出演することになりました!

当日は、知る人ぞ知る企業の特許技術について、投資家の方にわかりやすくご紹介しながら、特許を読むと投資にどう役立つか、お伝えします。過去、投資家の方向けのセミナー「「投資に活かす」特許の調べ方・読み方」は何度も開催していますが、TV出演を通じて、さらに多くの方に「企業活動を知る上での特許の重要性」をお知らせできると、ワクワクが止まりません(笑

今日は、以下の記事に引き続き、投資家の方にお伝えしたい特許のお話しを書きますね。

「特許情報で新規事業開発の成果を出したものの、特許・知財にはド素人」で「東京特許許可局」があるとマジで信じていた(笑)経歴を活かして、できるだけわかりやすく、皆さまに特許の活用法をお伝えしていきます。また、そんな僕を、とても暖かく迎え入れていただいた知財業界の皆様へのお礼を兼ねたメッセージを最後に書きました。特に知財業界の方には、ぜひ最後までお読みいただけると嬉しいです。

企業の「研究開発」「技術者」と「投資家」を繋ぐ「一本の赤い糸」が特許・知財

多くの技術系企業では、研究開発・製品開発・製造技術など、様々な部署で技術者の方が、日々発明を生み出しています。それらを「会社の財産にしたもの」が知財・特許だと、僕は考えています。なので知財部や弁理士の方の仕事は、現場の工夫・アイデア・発明を会社の財産にすること、ですね。

投資家の方といえども、企業の研究や開発の現場で何が起こっているか、直接見ることはできません。広く公開されてしまうと、そもそもその企業の競争力が失われてしまいます。しかし、特許(や論文)を読むことで、間接的に知ることができます。「間接的」ですので、読み手の技量が問われる情報源になりますが、投資家の方としてはその方が「競争優位」を出しやすいので、よいでしょう。

つまり、特許・知財の情報は、投資家の方にとって「ちょうどよい」情報源なんですね。そもそも、特許制度は「一定の独占権を与える代わりに情報を公開させる」という制度で、情報公開制度なんです。なので、企業が競争力を確保するために「ギリギリ出してくる情報」という性格が生まれます。これをうまく利用するのが、巧みな投資家だ、と言えるかもしれません。

実際にはなかなかつながらない、企業の研究開発現場と投資家の間に渡された、「一本の赤い糸」のようなもの。それが、僕が特許・知財に持っているイメージです。この糸はとても細いですから、注意して見ないと気づけません。

投資家として、そもそも公開されると困る情報の一部が特許・知財に書かれている

企業の知財部の方は、この点、日々苦心されているのではないかと思うのですが、知財や特許として公開される情報は、そもそも「できるだけ必要最小限にしたい」というのが、知財関係者の願望です(笑

実際には、特許庁の審査官とのやり取りで、情報を追加で出さざるを得ないことがあり、この辺のやり取りが読むとまた面白いのですが、とにかく、企業として「ホントは出したくない情報」の一部が、特許や知財に書かれています。

既にその企業に投資をしている投資家としても、「必要以上の情報を出されて、競合に力をつけられても困る」というのが本音でしょうから、実は、企業として特許や知財について、そこに書かれている以上の情報は大々的に出してもらっても(実は)困る、という側面があります。もちろん、「頑張ってますよ」というアピールも必要なので、ここ、難しいところです。落としどころとして「件数」や、代表的な特許(わかりやすくてキャッチ―なもの)を紹介する、ぐらいになる気がします。

でも、これから投資をする投資家としては、この「情報開示の壁」を超えて、情報を入手して投資先として適切かどうか評価したいところです。ここに、特許や知財を「読み解く」という、「探偵」のような業務が発生します。実際、あるセミナー参加者の方は、楠浦の特許の読み方を見て、まさに「特許探偵」だとおっしゃっていました。

投資家として、調査の手腕が問われますね。でもこれ、企業の経営情報(IR)についても、基本的には同じですから、「経営情報としてIRを読む」ように、「技術開発情報として特許を読む」でOKですね。僕は以前から、企業情報の両輪として「IRと知財」が特に重要だと言ってきたのですが、その根源は、上記にあります。読み手を選ぶので、投資家として差別化できる可能性がある情報源なんですね。企業も安易に開示できませんし、してもらっても投資家も困るわけです。

投資家の方が、どんどん特許・知財について質問する時代が来る

僕のセミナーに出席された方や、発明塾®動画セミナーをご覧になられた方の中には、企業のIR担当の方に積極的に知財について質問している方もおられます。当然、質問する前にはみっちり調べておいて、それでもわからないことや、自身が得た仮説についての検証のために質問するわけですね。

僕自身も、2018年頃から、時にはファンドマネージャやアナリストの方に同行して、特許・知財を調べていた仮説がどの程度妥当か、確認のためのヒアリングを重ねてきました。

結論として、僕が知りたい、だいたいのことはわかりますね。もちろん、情報はあるに越したことないのですが、そんなこと知ってどうするというようなことを聞いても仕方ありません。自分が投資するとしたら、何が知りたいかを考えた場合、僕の手法でしっかりと時間をかけて調べ、若干の質問をさせていただければ十分だ、と感じています。

私のTV出演も一つのきっかけになって、今後は、多くの投資家の方が、同じようなことをされると思います。その時に、「まずこれを聞きましょう」ということを一つ、ご紹介しておきます。技術のことはわからなくてもOKです。これさえしっかり聞いておけば、投資すべきかどうかの大きな判断材料が得られます

投資家の方が「特許・知財」について、まず質問して確認したい「魔法の質問」

本来、例えば特許について、(公開されていないことが読み取れる程度に)いろいろ具体的に質問しようと思うと、その特許に書かれている技術についても理解しておく必要があります。でも、一部の特許は「まだあまり手掛けられていない最先端の技術」に関するものだったりします。理解するのが難しく、あきらめる人が多いでしょう。

でも、心配ありません。技術のことが分からなくても、まずこれを聞くだけで、投資判断に役立つ、という魔法の質問があります(笑

それは、

「御社の知財活動は、以下の図のどの段階にありますか?」

です。投資家の方は、図を質問メールなどに引用してくださって結構です。

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実はこれ、僕が特許や知財を分析するときに、常に意識していることをわかりやすく図解したものです。株主総会で質問される場合は、以下のように仰ってください。

「御社の知財活動は、①知財マインドの向上、②既存の自社事業を守る、③将来事業を見据える、のいずれの段階にありますか?」

たった、これだけです。あと、できれば競合企業の取り組みと比較しておきたいですね。企業によっては、複数の全く異なる事業分野を持っている場合があります、その場合は、事業ごとの状況がどうかを、確認すればよいわけです。僕は調べて結論を出しますけれど、調べられない方は、IR担当の方に聞けばよいと思いますよ。株主なんですから。
(でも、聞いた内容は公開しない方が良いかもしれませんね 笑)

上記は、特許や知財を分析する際の僕の頭の中を可視化したものですので、もう少し詳しく解説しておきます。

投資家なら確認しておきたい、企業の特許・知財活動の3つのステージ

上で示した図の「3段階」って、具体的にそれぞれどんなレベル感なの?ということが、投資家の方にはなかなかイメージできないかもしれません。ここでは、あえて単純化して、それぞれのステージがどんな感じなのかお伝えしていきます。知財業界の方はツッコミどころ満載と思いますが、スルーしてください(笑

ステージ①「知財マインド向上」段階

この段階は、ひとことで言うと「もっと特許出しましょうね」レベルです。競合と比較して(事業規模のわりに)件数が少ない企業は、この段階にある可能性が高いでしょう。多ければよいというものではありませんが、少なすぎてはお話にならないのが、特許・知財の世界です。

ステージ②「既存自社の事業を守る」段階

件数が(事業規模に比して)ある程度の数で競合並みになり、落ち着いてくると、この段階だと判断できるかもしれません。また、発明者の数も増えてきます。研究開発や技術に関わる社員の大半が、何らかの特許・知財を出している状態が理想的ですね。新卒採用で理系XX名とか、よくHPで書かれているでしょう? では、その人たちが3年以内に特許を一件でも出しているか、など、確認の指標はいろいろありますね。発明者が増えているか、はそういう視点も含みますね。

ステージ③「将来事業を見据える」段階

ステージ②までは、主に「数」「量」の話をしました。ここからは、主に「質」の話になります。件数は変わらないけど、特許・知財の中身が変化してきます。ステージ②までは、「製品や事業において工夫したこと」などが、特許・知財として出てきます。たとえば「コストを下げるために、部品の形状を工夫しました」みたいな特許は、だいたいこちらのパターンですね。

ステージ③になると、特許の一部は「将来我々はこういう分野に進出するつもりで、その時はこんな感じです(まだ決まってないし、技術もできてないけど)」というものになります。これを「アイデア特許」などと呼んで、一段下に見る方もおられます。解釈は色々ですが、「将来事業の礎(いしづえ)になる、戦略的なアイデア・発明」であれば、投資家は大歓迎です。「先読み・先取り」であり、「将来値上がりする土地を先に買う」「経営のオプション」的な特許・知財ですね。

一方、「ノルマ」をこなすために、「苦し紛れに出したアイデア・発明」は、無駄なコスト増になりそうなので、投資家としては歓迎できない気がします。私はそんな風に、企業の特許を一件一件読み解いています。ノルマ対策なのかどうかは、発明者単位で見ていけば、おおよそ見当がつきますが、これも、株主として聞けばよいと思います。「御社は、特許ノルマを技術者に課していますか?」と。僕は聞いたことがありますよ。ちゃんと教えてくださいましたよ、もちろん。まぁ、聞かなくてもだいたいわかってましたし、聞いたらやはり想像通りだったので、聞く意味はあまりなかった気がしますけれど、、、。

ちなみに弊社の「知財・発明教育サービス」において、知財活動の各段階と技術者の方に実践してほしいことは、以下のように関係づけられています。

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僕が毎日、様々な分野の特許を読んでいての実感として、ステージ③を全ての事業で実現できている企業は、あまり多くないかもしれません。ですので、ステージ③ができていないから、投資するには不適格だ、ということではありません。でも、ステージ③が実現できていると、プレミアム感があります。「おー、そこまで行ってるの、すごいっすねー」そんな感じです(笑。

拙著「新規事業を量産する知財戦略ー未来を預言するアイデアで市場を独占しよう」で紹介しているオプティムさんは、ステージ③にいらっしゃるようです。私もごく微小ながら、長らく株主をさせていただいております。聞かなくても調べればはっきりわかるので、株主総会でも、IRの方にも、質問したことはございません。

他、最近ではアニコムさんにも、大変注目しています。IR資料に「特許出しまくるぞ!」って書いてましたんで。こういうのは珍しいです。普通は黙って、こっそり、知られないうちに大量に出す(そして未来市場を制す)ものだと思ってましたので、度肝抜かれました(笑。
有言実行に期待しておりますよー!

知財部の方へのメッセージ

僕からお伝えしたいことは、まずは、お礼ですね。セミナーではいつもお話ししておりますが、僕自身は、過去、所属企業において正規の特許・知財教育を受けたことがありません。そういう時代では、なかったんですね。唯一、コマツ時代に特許検索データベースの講習を受けました。めちゃくちゃ使いづらかったことだけは、はっきり覚えています、、、(泣

そんな僕ですが、前職のナノテクベンチャーでは、特許情報を隅から隅まで読み込んで使い倒し、もうアカン、つぶれるわ、という状態から大口資金調達にこぎつけました。その時に企画した事業の一部は、大手化学系企業にエグジットされました。その企業さんは現在業績絶好調で、買収いただいた事業を含む事業分野に大変力を入れておられます(そこも絶好調です)。ありがたい限りです。言いたいことは、特許・知財について特に誰からも教えてもらってなくても、必要があれば、これぐらいはできてしまうわけですし、教わっていたとしたら、めちゃくちゃ役に立ったであろう、ということです。

そんな僕ですが、特に資格もない中、14年前にTechnoProducer株式会社を設立し、知財・特許業界の方に非常に温かく受け入れていただき、また、14年間育てていただきました。感謝しかありません。

何か恩返しができないかなと、この7-8年、ずっと考えてきました。僕を助けていただいた方々として、もう一つ、「投資家」の方々が居られます。発明投資ファンドの方々はもちろんですが、それを紹介いただいた投資家の方。そして最近では、知財・特許に関心があるヘッジファンドのマネージャー・アナリストの方や個人投資家の方々にも、助けていただいております。

この2者がつながれば、お互いにもっとハッピーなんじゃないか、僕は今、そう考えています。

投資家は、企業の競争力について、確信が得られる。

知財担当の方は、投資家の評価という、客観的に自分の仕事が評価される大きな機会が得られる。

いよいよ、IRという側面から、経営企画や財務部門と知財部門が、同じウエイトで語られる時代が来ます。

楽しみですね。楽しみしかありません。

知財業界の方、投資家の方、そしてもちろん、新たな競争力の源泉を生み出している技術者の方と新規事業担当の方、引き続き、よろしくお願いいたします。

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楠浦 拝


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