聞こえない声

「おかえり」
妻は返事をしない。
帰宅したらメイクも落とさずソファーに横たわって何時間も動けなくなる。
「早くお風呂に入ってリラックスした方がいいよ」
返事はない。
身動きひとつない。
「食事も栄養バランスをもっと考えなきゃ」
妻はまた涙を流した。
「君なら大丈夫。俺は知ってる」
知ってるとも。

薄まっていく自分の体を見ながら夫はいつもの言葉をつぶやく。

ごめん、君のために死ねなかった。
ただなんの意味もなく死んだ。
産まれてくる子には君が意味をつけてくれ。

そう虚空に。
聞いてほしい人に聞こえない声で。


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