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単発の小説

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単発の短編小説・ショートショートはこちらにまとめています。
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記事一覧

『本の虫』

 気がつくと部屋中に雪が降り積もったかのような光景。しかしそんな風情のあるものではない。…

『同僚の馴れ初め話』

「嫁さんとはどうやって知り合ったの?」  飲み屋のカウンターで、既婚の同僚に何の気もなし…

『招いた幸せ』

 初詣の長い列に並んでいると、後ろに並んでいた中年の男が声をかけてきた。 「少しいいです…

『特別な公演』

 K氏はここ数日、パソコンの文字カーソルが点滅するのを眺めるだけの日々を送っている。早い…

『最後の雨雲』

 ライトの光で道を照らし、集合場所へと向かう。道中で空を見上げると、雨雲が空を覆った。暗…

『君に贈る火星の』

『やあ、荷物は届いたかい?』 『ええ。これはワインかしら』 『火星産の特別なね。それで、前…

『数学ギョウザ』

「博士、今度の発明はなんでしょう」 「うむ。しばし待て」  そう告げると、博士はキッチンの方へ向かった。キッチンからは「ウィーン」という電子音が数分した後、「チンッ」という音で鳴り止んだ。  博士は湯気の出ている餃子が乗った長皿を、両手の指先で摘むように持ちながら戻ってきた。そしてテーブルの上に乱暴に置いた。 「これは食べると数学の学力が上がる『数学餃子』じゃ」 「冷凍していたんですね」 「保存できると思って」 「明日数学のテストがあるので貰ってもいいですか?」 「良かろ

『金持ちジュリエット』

 ジュリエットはその町一番の、金持ちの家の生まれだった。彼女の周りには生まれる前から財、…

『アナログバイリンガル』

 最近、娘は謎の独り言を呟く。 「おはようウヨハオ今日は寒いねネイサナシウコッカイカタタ…

『違法の冷蔵庫』

「君達にはこの新型冷蔵庫を大阪支社まで運んでもらう。運び方は自由。費用はこちらで負担する…

『空飛ぶストレート』

 僕の胸に黒い羽が生えてきた。羽は重くて、痛くて、苦しい。僕は取りたくてたまらないのに、…

『コロコロ変わる名探偵』

「犯人はお前だ!」  そう言って、探偵はAを指さした。 「え?違う違う」 「犯人はお前だ!…

『株式会社リストラ』

 スーツ姿の男は礼儀正しく辞儀すると名刺を差し出した。 「『株式会社リストラ』。まさかう…

『しゃべるピアノ』

 児童施設にある古いピアノは生きている。  鍵盤蓋をカタカタと鳴らして、今日も子供たちに語りかけていた。 「今日は何の歌が聞きたい?」 「森のくまさんがいい!」 「猫踏んじゃった!」  子供たちがリクエストをする。 「じゃあ今日は……」  ピアノは蓋を開けると、演奏を始めた。  ある日のことだった。 「先生、ピアノが口を聞いてくれないよ」と子供たちが言った。 「ピアノ、口の中を見せてごらん」  僕がそう言っても、ピアノは何も言わず、蓋を固く閉ざしたままだった。無理矢理こじ開