kuutamo(月町さおり)

小説、ショートショートを載せています。 更新頻度低めです。

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  • 単発の小説

    単発の短編小説・ショートショートはこちらにまとめています。

  • 小説以外

    小説以外の記事をまとめています。

  • 三日月町の境界線シリーズ

    シリーズ小説です。基本1話完結型。 1話以外は、今のところ以前の小説を書き直したものです。

最近の記事

フォロー外さずにいて下さる皆さんありがとうございます! 来年は頑張ります(去年も言ってました)

    • 『本の虫』

       気がつくと部屋中に雪が降り積もったかのような光景。しかしそんな風情のあるものではない。丸めた紙の屑が散らばっているだけ。  ボツにした自作小説が書かれた紙。書き起こすも、これでは駄目だと握り潰し、床に放る。繰り返すうちにこの有様。  受賞したい。どんな小さな公募でも良い。自身の作品を認めてほしい。そんな心中をため息とともに吐き出す。  足りないのはインプットだと、自身でそう常々感じている。今月末締め切りのコンテストへの応募は見送り、他の優秀な作品から学ぶことに時間を割くべき

      • 『煙に巻く肺の空』

         煙草の煙って、よく見ると青色なんです。葉や巻紙が燃えた後の微かい粒子に、短波長の光を散乱するからだそうです。空が青く見えるのと同じ原理。  煙が体内に入ると、水蒸気が混ざって白くなるんだそうです。これは雲と同じ原理。  肺の中で、雲を作っている。自分の中に空があるんです。なんだかそれって、とても素敵じゃないですか?知っていましたか?先輩。 「それが、君が煙草を始めた理由?」  先輩、驚いています?ずっと先輩に「煙草をやめろ」って。そう言ってきましたから。   「百害あっ

        • 『蝶で還る冬の空』

           本村志郎は寒空の下にいた。  上着も羽織らずに、部屋着のスウェットだけだ。  2月の冷たい風が、肌に突き刺さる。  朝の天気予報では気温がマイナスを表示していたことを志郎は思い出した。  他よりすこしだけ標高の高い志郎の町は、空がいくら晴れていようと、風に乗って山からの雪が舞う。そんな田舎町だ。  そもそも、志郎はこんな長く外にいるつもりではなかった。すぐに家に引っ込むつもりであった。  しかし志郎は話を聞く。  隣に腰掛ける老婦人に。 「──なぜ、旦那さんのお葬式に出ない

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        • 単発の小説
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        • 三日月町の境界線シリーズ
          12本

        記事

          『歯軋りの確認』

           以前、友人と泊まりの旅行に行ったときのことだ。 「お前、夜中に歯軋りしているぞ」と友人に言われた。「俺、それで夜中に目が覚めたくらいだぜ」  話を聞く限り、結構酷い歯軋りのようだ。  気になってネットで調べると、歯軋りを放置することで歯がすり減り、噛み合わせが悪くなるとか、顎関節に影響が出るとか。結構危なそうだ。  次の週に歯医者にかかった。幸い歯のすり減りも噛み合わせも問題なく、顎関節も問題ないと診断された。ただこのまま続くと、そういった症状も出てくる可能性があるとのこと

          『歯軋りの確認』

          本に風を通す

           映画のファーストデーだったが近くの映画館は観たいのがないし、かといって観たい映画はゴリゴリの都内でしかやっていないで、大人しく家にいることにした。  というかいい加減、積み上がった本や雑誌、書類やアイデア書き殴ったメモやルーズリーフの整理と掃除をしなければならない。  本を段毎に取り出してエアーダスターで塵を払いながら、ペラペラと捲っていく。  本当に稀に、白胡麻ぐらいの小さな虫がいる。  紙魚なんですけれども。  本物を見るまでは紙魚って、本の『染み』のことを格好よく

          朝、第一の発声から

           ついこの前正月を迎えたと思っていたら、もう月末がやってきている。  やらなきゃいけないことはあるのに、仕事から帰ったらコタツに根を張って、スクロールしても更新することがない状態まで、ただ画面を見ている日々が続いていた。  本棚には読んでいない本が埃を被って整列して、適当に積み重ねた雑誌やノートが机の上を占拠している。  夜気づいたら時計の短針が3を過ぎていて、そこから入浴準備に入る。寝る頃には外で鳥が鳴いていて、起きるのは出社1時間前くらい。  前は朝食を必ず食べていたのに

          朝、第一の発声から

          『同僚の馴れ初め話』

          「嫁さんとはどうやって知り合ったの?」  飲み屋のカウンターで、既婚の同僚に何の気もなしに話題を振った。 「高校のときの、後輩」同僚は少し歯切れの悪そうに言った。 「高校から?長いなぁ」 「まあ……」 「嫁さんのどこが良かったの?」  俺がそう聞くと、同僚は顔をしかめながら答えた。 「どこも良いところはないし、俺は、別に好きでもない」  俺はおもわず苦笑し、「何か家庭の事情とか?」と聞いた。 「いや、違う」 「じゃあ……」 「高校のとき、彼女に呼び出された。よくある告白のため

          『同僚の馴れ初め話』

          『招いた幸せ』

           初詣の長い列に並んでいると、後ろに並んでいた中年の男が声をかけてきた。 「少しいいですか?」  振り返って見ると、これといって特に特徴のない男だった。後からどんな男だったのかと聞かれても、その問いに答えることが難しい。それほど平凡な男だった。  男は言った。 「私はここの神です。私の前に運良く並んだ貴方に、幸福を差し上げます」  春先には浮かれたやべえ奴が出るとはよく聞くが、こんな元旦からも出没するのか。そう思いながら軽くため息をつき、特に返事をすることもなく、俺は参拝の列

          振り返りも大事かもしれない:2021年振り返り

          朝からソーシャルゲームのSRが二つも出て気分が良いです。昨日から元旦までの5連勤も乗り切れそう。 noteの公式から今年の記事のまとめが送られてきましたね。 ちなみに昨年はこう。 2020年は夏に連日noteをやっていたので、記事数が多いです。ヘッダーも毎回描いていたし。(「コメントで『え?絵っていうの?ペイントじゃん』的なこと書かれたので最近みんフォトには共有してません…) 今年何かあったっけ?今年何していたっけ?と思い、2021年の良かったことを振り返ってみます。

          振り返りも大事かもしれない:2021年振り返り

          『特別な公演』

           K氏はここ数日、パソコンの文字カーソルが点滅するのを眺めるだけの日々を送っている。早い話スランプに陥っていた。  何かアイデアが生まれないかと悩んでいると、担当からメールが届いた。 『先生、執筆にお困りではないですか?こちら参考になればと思うのですが……』  そう書かれた文面の下にはURLが貼られていた。リンク先は、とある劇団のレビューサイトだ。 『これは画期的。特に作家などの創作をしている人は絶対観に行くべき!』レビューにはそう綴られていた。  K氏は少し気になり劇団の詳

          瞬く間に、師走。

          11月にこんなことを書いていましたが……。 本当に1記事も書いてない! Twitterの140字すら全然読めていなかったと思います。 今までは仕事の昼休憩中にアイデアを出したり、プロットを考えたりしていたのですが、現在仕事の体制が大きく変わりそれができず。 仕事行って、帰ったら寝る。というようにまったく創作に頭を使っていませんでした。デッサンの練習もできていない。 12月はできるだけ……ただあまり詰め込みすぎると有言不実行になったときのショックが半端ないので、“できるだ

          瞬く間に、師走。

          11月の更新は今以上に緩めになります。 蓄えて、冬に備えなくてはならないので。

          11月の更新は今以上に緩めになります。 蓄えて、冬に備えなくてはならないので。

          『最後の雨雲』

           ライトの光で道を照らし、集合場所へと向かう。道中で空を見上げると、雨雲が空を覆った。暗い世界を更に暗闇へと導いた。  集合場所に到着し、順番に宇宙船へと乗り込んだ。僕達はこれから火星へ向かう。地球は死んだ。科学と引き換えに進んだ環境破壊によって、この星に住み続けるのは困難だと判断したからだ。  宇宙船の窓から外を眺めた。地球の最後の景色だ。  外では雨が降っていた。雨は汚染されすぎた大気を吸収し、黒く膨らんで大粒となり、どろりと落ちてゆく。ボタボタと地上を黒く染め上げる

          『君に贈る火星の』

          『やあ、荷物は届いたかい?』 『ええ。これはワインかしら』 『火星産の特別なね。それで、前に話したことだけど……』 『もちろん、いいわ』 『本当に?』 『貴方と一緒なら月でも火星でも、ついていく。決まっているでしょう?』 『ありがとう!それならそのワインを飲んでくれるかな。火星に住むには火星産のものを口にすることが条件なんだ』 『分かったわ』  女はワインをグラス注ぎ、それを飲み干した。 『香りはいいけれど、何の味もしないのね』 『ああ。でもそのうち幸福な気分になれるはずさ』

          『君に贈る火星の』

          『数学ギョウザ』

          「博士、今度の発明はなんでしょう」 「うむ。しばし待て」  そう告げると、博士はキッチンの方へ向かった。キッチンからは「ウィーン」という電子音が数分した後、「チンッ」という音で鳴り止んだ。  博士は湯気の出ている餃子が乗った長皿を、両手の指先で摘むように持ちながら戻ってきた。そしてテーブルの上に乱暴に置いた。 「これは食べると数学の学力が上がる『数学餃子』じゃ」 「冷凍していたんですね」 「保存できると思って」 「明日数学のテストがあるので貰ってもいいですか?」 「良かろ

          『数学ギョウザ』