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安倍元首相国葬裁判

 2022年7月8日、安倍晋三元首相は奈良市内で選挙演説中に撃たれて亡くなった。そして多くの議論がなされる中、同年9月27日、戦後の日本国憲法下では初めてとなる国葬が執り行われた。
 その安倍元首相の国葬を「法的な根拠がなく」「世論調査で反対が6割にのぼっていた」「にもかかわらず血税12億円が支出された」ことから、800人以上もの人々が国による賠償を求めて裁判を起こしている。
 2024年4月26日(金)、東京地方裁判所で安倍元首相「国葬反対裁判」第5回口頭弁論が同地裁103大法廷で行われた
 原告から2人の女性が意見を述べた。
 その前に、この訴訟の原告らの代理人を務める弁護士3人ー大口昭彦、一瀬敬一郎、長谷川直彦各氏による今回の裁判闘争の理由を見ていこう。

法的根拠なく国会を無視しての国葬
 戦前、国葬令があったが、戦後は同令は廃止された。「国葬令」が廃止されたということは立法府による「国葬は今後行わない」という意味が込められた立法がなされたと解釈すべきだという。
 つまり安倍元首相の国葬には法的根拠がなかっただけでないのだ。
 そして手続き的にも問題だった。「「国権の最高機関」であるはずの国会は、徹底的に無視され、議院内閣制に基づく執行機関であるはずの内閣に完全に拝跪し、その後追い的承認機関と貶められ続けてきた」。
 さらには、当時の世論調査での国葬反対が約60%にも上っていたにもかかわらず、およそ12億円という巨額の税金を使って、国民の大多数の意思に反して国葬が執り行われたことも問題だ。

(一番左から)一瀬敬一郎、大口昭彦、長谷川直彦各弁護士


 口頭弁論はまず東京都中野区の海老澤恵子さんが行った。「一昨年9月、国民の6割以上の反対にもかかわらず閣議決定だけで決められ挙行された安倍元首相の国葬は憲法に違反するものであり、反対です」。
 「したがって安倍国葬に使われた多額の国費について国家賠償訴訟を問うため原告となりました」。
 海老澤さんは安倍政治のなかでもとりわけ高齢化に見舞われている農業の政策に着目して意見を開陳していった。「国は、もっと国内の農業を守り、農業従事者を増やす政策を進めてくるべきでした」。
 民主党政権時代に導入された「農業者個別所得補償制度」が安倍政権下で廃止されたこと、戦後から続いた種子法がやはり安倍政権の下、わずか半年の議論で廃止されたことなどの例を挙げた。

国民への弔意の押し付け
 「安倍政権の農業をつぶし、農地を削減させる政策は間違っていると考えます。日本の農家は決して過保護ではありません。農業予算をもっと大幅に増やすべきでした・・・万が一有事となった時も、まず食料がなければ皆餓死してしまいます。武器よりも大事なのが食料なのです」。
 「安倍政権は日本の重要な食糧安全保障を大変脆弱なものにしていましました。食料が無くては国民の命は守れません」。
 「このような安倍政権のトップを国葬にしたことは、国民に弔意を押し付けることであり、断じて許せません。私はこれによって憲法19条の思想および良心の自由を大いに侵害されました」。
 「したがって私の意思に反して多額の穀皮を費やして行われた安倍国葬につき、国家賠償を請求します」。

海老澤恵子さん(右)と黒岩秩子さん


 もう一人、新潟県南魚沼市から来た黒岩秩子さんも意見を述べた。黒岩さんは「安倍晋三にはたくさんの許すべからざる行為が存在」し、「中でも一番許しがたいのは、統一教会をバックに男女差別を公認していったこと」だとして、具体的に3つの問題を話していった。
 黒岩さんによると、一つは選択的夫婦別姓について。もう一つは、安倍政権での保守的な思考蔓延と押し付けによって公的な教育現場における性教育が破壊されてしまったこと、それから働く女性の給与を低く抑えてしまう「足枷」になっている「第3号保険者」という制度である。
 「安倍晋三さんは、「女性活躍」を掲げながら・・・家に妻がいて、家事をしてくれる、という環境が、住み心地がよかったのでしょう。「女性活躍」とは反対向きだと感じます」。
 「日本をこのような国にしてしまった安倍晋三を国をあげて弔うとは、ありえないこと」だと黒岩さんは述べた。

裁判報告集会
 口頭弁論終了後、裁判報告集会が衆議院第二議員会館地下の会議室で開かれた。この席で大口昭彦弁護士は、今回裁判長を含めて3人の裁判官すべてが変わったことをあげて「だいぶ雰囲気が悪くなった」と話した。
 これに関連して長谷川直彦弁護士は、この裁判をつぶすため今回の裁判長は「上」から送り込まれて来た可能性があるとした。
 一瀬敬一郎弁護士は「裁判というのは国民の監視がなくてはいい結果を生みません。のびのびとした裁判が出来ず、非常に不満足なかたちで進んで終わってしまいます。傍聴の数が多くなければいけない」という。
 傍聴人の数が多ければ裁判官たちに対する国民の監視が強まることを意味して、被告らに対し圧力をかけることにもなるという。
 次回の口頭弁論は7月12日(金)の午後に予定されている。

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