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ユダヤ教の発端とは?

 今、ユダヤ人国家・ユダヤ教国家のイスラエルがパレスチナ自治区ガザに侵攻し、暴力が止まらない事態となっている。惨たらしい殺戮が繰り返されている背景にはその地の複雑な歴史と宗教があるといわれている。
 朝日カルチャーセンター新宿教室で「ユダヤ教とキリスト教の成立史」についての東京女子大学・守屋彰夫名誉教授の講義を聴いた。
 そもそもユダヤ教の成り立ちとは?
 守屋先生の解説が、今起きている紛争の背景を理解するための一助になるのではないかと思い、紹介する。
 
もともとは神殿を中心とする宗教
 現在のユダヤ教はキリスト教とさほどの違いはありません。それほどに変わらない時期に成立したのです。それ以前のユダヤ教は古代イスラエルの宗教でした。イスラエルの歴史の中で、もともとのユダヤ教は神殿を中心とする宗教でした。しかし、神殿はどこにでも建てられるわけではなく、聖書に基づいて神が選んだ場所すなわちエルサレムだけに建てられるのだとして成立したのが古代のユダヤ教だったのです。

エルサレムの「嘆きの壁」は古代ユダヤ教の神殿の跡である


 前1000年からのダビデ王の時代、イスラエルの南北の地方は一緒で「イスラエル」と名乗っていた。しかし、北が独立して「イスラエル」に、ダビデが支配する南は「ユダ王国」に。北は前720年、アッシリアに滅ぼされた。南の人たちがバビロンに連れていかれるのである。
 それ以降、「ユダヤ人」という言葉が普通に使われるようになりました。人種、宗教ともつかない呼び方として一般名になっていったのです。
 最後は王国という政治形態だったユダヤ人たちの国が滅んだのは紀元前587年。信仰の要だった神殿も壊滅的に破壊されました。
 前587年からおよそ70年間、ユダヤ人たちはバビロニアに連れていかれてしまいます。いわゆる「バビロン捕囚」です。残された人々もいましたが、今までの宗教を担っていけないような貧しい人たちだけだったのです。


 しかし、バビロニアはペルシャによって滅ぼされます。バビロン捕囚の人々は帰還を許されます。だが、還る人、還らない人に分かれました。当時のバビロニアは栄えていたので、そこで生活を続けたい人もいました。

第二神殿を建設
 戻った人たちはペルシアの許可を得て、まず神殿を建築しました。前515年、第二神殿が完成しました。第二というのは、紀元前10世紀にエルサレムにあった第一神殿に次ぐものという意味です。その第二神殿完成によって、一応ユダヤ教としてのかたちになったのです。
 その後、前4世紀後半にギリシャに支配下に入ります。政治的に支配されたばかりか、ギリシア=ヘレニズム文化にユダヤ文化は圧倒されました。前2世紀になると、ユダヤ人が反乱を起こして、何と栄華を誇っていたギリシア帝国を破ります。そして、ユダヤ人の王国が成立したのです。

ユダヤ教の第二神殿の跡に現在、イスラムのモスクがある


 前63年にはローマ帝国がユダヤの王国を滅ぼします。そしてローマがお気に入りの、神殿の大祭司が据えられるようになります。前40-37年、ヘロデ大王がローマの意向を汲んで王になります。
 南の方のイドマヤ人を強制的にユダヤ教に改宗させようとし、男性ならば割礼を受けないとイドマヤから追放されました。ユダヤ教と神殿と大祭司の時代が、イエスの時代の後も続いていきます。

戦争で変わったユダヤ人勢力図
 イエスが亡くなって40年後、紀元後70年、第一次ユダヤ戦争が勃発します。続いて、後132-135年には第二次ユダヤ戦争が起こります。のちに乱がおこりますが、平定したのはハドリアヌス皇帝で、彼はすべてのユダヤ人をエルサレムから追放しました。
 この2回の戦争によってユダヤ人の勢力図が大きく変わり、それまでの支配勢力、大司祭などが凋落し、ファリサイ(パリサイ)派だけが生き残り、ユダヤ教の再起に関わることになります。これが現在に続くラビ・ユダヤ教(ユダヤ教の主流派のこと)の成立です。
 第一神殿はなくなりましたが、その壁が残り「嘆きの壁」として信仰を集めています。破壊された第二神殿の跡にはイスラムのモスクが今は建っています。今、このモスクに手を出すようなものがいれば、それこそ「世界戦争」になってしまう恐れがあります。
 現在のユダヤ教は3つに色分けすることができるでしょう。
 黒い装束で知られる「オーソドックス」、保守的な「コンザバティブ」、改革派の「リフォーム」です。
 (守屋彰夫先生は、聖書とその周辺の言語学的研究から旧約聖書に新しい解読の光を投げかけている。死海文書、サマリア五書、聖書外典・偽典の研究分野で論文多数)
 注:文責は桑原。イスラエルの行動を”理解してあげよう”というつもりはありません。正当化出来ない殺戮です。ただ、モノゴトを理解するためには背景を少しでも知っておく必要があると考えたからです。

 

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