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忘れられない食事 Vol.2 不安と美味のあいだ

何事も「初めて」は忘れがたい。初めて食べたもの。初めての恋人。
そして前回言及したとおり、ネガティブな感情は記憶に残りやすい。

今回は、2つの要素の掛け合わせ。「初めての土地」で「不安な気持ち」で対峙した食事にまつわる思い出を振り返る。三宮で食べたフレンチとパリで食べたカンボジア料理である。

前者は2012年、高校2年のときの話である。当時よく聴いていた葉加瀬太郎のコンサートの帰りだった。大阪公演が取れず、やむなく制服のまま三宮に行ったのだった。どうしても「良い音楽を聴いた後にフレンチを食べる」仕草がやりたくて、事前に気になった店に予約を入れていたのだが、会場の混雑と慣れない土地で到着がかなり遅れてしまった。終電の時間を気にしながら食べるフレンチは後にも先にもこれだけだが、疲労感や公演の興奮も相まって非常に美味しかったのを覚えている。お箸で食べさせてくれるカジュアルなお店で、最後に出てきたガーリックライスを食べているうちになんとなく「今、いい思いをさせてもらっているなあ」と感じた。食に無頓着な母親は「近所でラーメンでもよかったのに」と愚痴っていたが、もしやり直せるとしてもきっと同じ選択をすると思う。

後者は2014年、大学2年の時にロンドンに滞在した後にパリを訪れたときの話である。ノルマンディーとロワールを巡る一日がかりのツアーのあと、友人とオペラ座の前で待ち合わせて夕食を取るつもりだったのが、うっかりスマホの充電が切れてしまった。大雨の中待てど暮らせど友人は現れず、あきらめて方向音痴なりに地図を読みながら宿に戻る途中で見つけたのがこの店である。パリの夜は薄暗くて、その中でこの店の照明がぼうっと光っていた。ひき肉ともやしの入ったすっぱくてあまい米の麺を啜るうちに、単身で治安がいいとは言えない場所で過ごす心細さと、雨に打たれて冷えた体が幾分緩和された。

余談だが、パリのカンボジア料理は、いわゆる二郎系に似ていた。
写真はいつかの歴史を刻め@枚方

いずれの食事も、それ自体の美味しさはさることながら「不安な気持ち」が料理の味を引き立てていたように思われる。仕事において「心理的安全性が確保されていること」が重要だと研修で学んだが、食べることに関してはそうも言えなさそうである。

最後に、これを書くにあたり調べたところいずれの店も未だ健在であった。私の目に狂いはなかった!近くに行かれる際は是非。

三宮のフレンチ:肝胆亭
パリのカンボジア料理:le Cambodge paris

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