文学フリマ戦利品感想その2 メルキド出版『山羊の大学 創刊号』(Pさん)

 次は、メルキド出版『山羊の大学』。この本は、かねてから主宰本人が計画しているのを聞いていたから、実際に刊行されたのは感慨深い。初版は前回の文学フリマ。メルキド出版という所は、お見受けしたところ、一昨年あたりから体制が年を追うごとに変わっている感じがある。きっかけは、きっと環原望さんの『はじまりの時への幻視』等を刊行したあたりだ。そして、去年あたりから多数の作者から寄稿されたマガジンを安定して刊行している。今後どういう活動を続けていくのか。

 この冊子は批評誌で、編者は「革命を生産する工場」を作りたいと志して編んだそうだ。「暴力革命を起こすつもりは毛頭」なく、「読むこと」「書くこと」をどう行動し、実践していくのかに賭けるそうだ。
 諸々眺めていて、批評をするというのは、小説を書いたりする以上に、スタイルとか、スタンスとか、そういうものが試されるものだと思った。

 特に、芳野舞さんの「「名づけ得ぬ世界」を旅する」が良かった。軸は、ポール・オースター『シティ・オブ・グラス』の書評。僕らは、以前同じ作者の『幽霊たち』を取り扱ったことがあるが、ここまで深いことは感じられなかった。そして、驚いたことに、大まかな感触というか筋立てというか話の肝の部分は、『シティ・オブ・グラス』と『幽霊たち』では全く変わりがない。一見推理小説風の表面で話が進む。推理小説とは注目の軸がずれてくる。この雰囲気を「旅」と絡めて語る論の運びがだいぶこなれていて素人離れしていた。

 旅をテーマに特集を組んだ部分に関しては、非常に穏和な雰囲気が流れている。みんな楽しそう、といった感じだった。

「ラヴクラフト紀行文」は、名前の通りラヴクラフトの紀行文で、金村亜久里さんが翻訳している。いい翻訳だった。「マルーシの巨像」みたい。

 旅行記と批評と翻訳まで揃っていて、現代性にどう文学が役に立つのかといった共通の視点も見えてくる。多様性を楽しむことができた。

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