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【暑さが野球の試合成績に及ぼす影響と解決方法】

皆さん、こんばんは!

8月も残り2日となり9月が始まります。
暑さも少し落ち着きましたが、今日はその暑さと野球のパフォーマンスの話です。

本来ならもう少し早めにこの話題を出せばよかったのですが….

〈はじめに〉

暑い環境でプレーをすると体温が上昇します。

暑熱環境下で3時間の練習をした野球選手の鼓膜温は39℃以上となることが報告されています。1)

そのような高体温になると『筋力や持久力、認知機能が低下する』と言われています。2)

では、実際の野球のパフォーマンス(成績)にはどのような影響があるのでしょうか?

今回は、亜熱帯と熱帯の高湿度地域からなる台湾のプロ野球リーグ(CPBL)の試合において、気温が投球と打撃のパフォーマンスに与える影響について調査した研究を紹介します。3)


〈方法〉

対象は対2018・2019年シーズンにCPBLでプレーした全ての投手と打者で、全480試合の各投球と打席のデータが分析されました。

試合が行われた日の平均気温に基づいて、寒い(21度以下)、暖かい(21~28度)、暑い(28~34度)、極端に暑い(34度以上)の4つのグループのいずれかに分類し、投手と打者の成績の違いを4つのグループで比較しました。


〈結果〉

極端に暑い条件において、出塁率,ISO(出塁率ー打率),9 回あたりの本塁打数、ゾーンスイング率(ストライクの球をスイングした率)が他の 3 環境に比べ有意に多くなりました。

また、極端に暑い環境では、1イニングあたりの出塁数、四球+安打数が最も多くなりました。さらに、投手は暑い環境と極端に暑い環境において、ストライクゾーンに投げる球数が少ない傾向を示しました。

〈考察〉

CPBLの試合では、他の3つの条件下でのそれぞれのパフォーマンスと比較して、『猛暑環境では、投手は最悪のパフォーマンスを示し、打者は最高のパフォーマンスを示す』ことが明らかとなりました。

メジャーリーグでは、暖かい気候で行われた試合は、寒い気候で行われた試合よりも得点、ホームラン、打率、安打率、出塁率、被安打率がかなり高く、三振率と四球率が低いことが明らかになっています。

4)Koch BLD, Panorska AK. Weather Clim Soc .2013

これはCPBLの結果とほぼ同様です。

以前オンラインサロンでも投稿しましたが、投手はマウンド上では心拍数が非常に高く(最大心拍数の約80%)、打者よりも暑熱環境に対する影響を受けている可能性があります。

実際に投手の成績が暑熱環境下で下がっていることからもその影響が伺えます。

また、高温環境下では打球飛距離が伸びるという報告5)もあり、打者の成績にはそれが影響している可能性もあります。

〈結論と現場での取り組み〉

以上のことから、暑熱環境下では投手成績が低下し、打撃成績が向上するため、投手は体温を下げるために冷却介入を採用することが推奨されます。

実際に、模擬試合におけるイニング間の投球側の肩と前腕の冷却が大学生投手の球速に及ぼす影響を検証した研究では、「冷却介入は、気温が高い環境下での球速の低下を防ぐ」ことが明らかになっています。

6)Bishop SH, et al. J Strength Cond Res. 2016

一方、打者においては「イニング間の冷却(首と額)は、暑熱環境下での打撃および守備のパフォーマンスに影響を及ぼさない」と報告されています。
(自覚的な疲労度は減少するとされています)

7)Huang JH, et al. J Sports Sci Med. 2022


このことから、暑熱環境下でパフォーマンスを低下させないためには特に投手の冷却は重要だということがわかります。

このような科学的な根拠を持っていると現場でも取り入れられやすいかと思います。


〈引用文献〉

1)Otani H, et al. Time-of-day effects of exposure to solar radiation on thermoregulation during outdoor exercise in the heat. Chronobiol Int. 2017

2)Racinais S, et al. Consensus recommendations on training and competing in the heat. Br J Sports Med. 2015

3)Huang JH, et al. Influence of Hot Environment on Pitching and Hitting Performance in Professional Baseball. J Strength Cond Res. 2021

4)Koch BLD, Panorska AK. The impact of temperature on major league baseball. Weather Clim Soc. 2013

5)Kraft MD, Skeeter BR. The effect of meteorological conditions on fly ball distances in North American Major League Baseball games. Geogr Bull. 1995

6)Bishop SH, et al. The effect of intermittent arm and shoulder cooling on baseball pitching velocity. J Strength Cond Res. 2016

7)Huang JH, et al. Intermittent Cooling Reduces Perceived Exertion but Has No Effect on Baseball Hitting or Defense Performance in a Hot Environment. J Sports Sci Med. 2022


今後もこのnoteでは、これまで得た私の知識と経験をもとに皆様の野球のレベルをワンランク上げていきたいと思います。野球に関するトレーニング、身体のケア、ピッチングやバッティングのパフォーマンス向上などを科学的な知見をもとに発信していきますので、見逃さないためにもアカウントのフォローをお願いいたします!


矢部和樹(やべっち@野球トレーナー)

【活動】
・理学療法士(スポーツ整形外科勤務)
・中学硬式・高校野球部トレーナー
・公認野球指導者(U-15)
・バッティング研究(大学院修士)


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