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読書日記 2023年読んで良かった本

いつのまにやら大晦日ですね。
さて、2023年に読んだ本の振り返りです。
良かった本をピックアップしていきたいと思います。
上半期分、7月分、8月分は下記にまとめてありますので、それ以降で印象に残ったものを。

時系列順、ジャンルごたまぜです。

9月

『近畿地方のある場所について』(背筋/KADOKAWA)
2023年、ホラー好き界隈で話題になったモキュメンタリーホラー。

見つけてくださってありがとうございます

私も大変楽しく面白く、大いに怖がりながら読みました。
ネタバレになるといけないので詳しい内容は書けませんが、とてもよくできています。
じわじわと迫り来る恐怖と、その淵源に迫りつつ、完全には怪異の正体を明らかにしてしまわないところも大変良きでした。
9月の文学フリマ大阪の後、同人誌仲間と打ち上げをした時に、
「こんな風に!こんな風にぴょんぴょんする怪異が!」
と興奮してジェスチャー付きで語ってしまったのですが、たぶんテンション上がって跳ねているウサギにしか見えなかったと思います。
(本当はどんな怪異だったか知りたい方は、ぜひ読んでみてください)

ホラーにもいろいろあって、「しんみりしちゃう切ないホラー」とか「耽美にひたるホラー」とかありますよね。
「とにかく怖いホラー」として今まで自分的ベスト3だったのは、以下の作品なのですが(順不同)

 『リング』(鈴木光司/角川ホラー文庫)
 『墓地を見下ろす家』(小池真理子/角川ホラー文庫)
 『殘穢』(小野不由美/新潮文庫)

ここに『近畿地方のある場所について』も入れて、今後は「とにかく怖いホラー四天王」と呼ばせていただきたい!

ところで、『リング』はジャパニーズホラーの金字塔だと思っているのですが、今となっては消費し尽くされた感があり……。
貞子もゆるキャラみたいな扱いを受けることがあって、ファンとしてはモヤッとする時もありますね。
刊行当時、初めて読んだ時のあの恐怖感。
もしかしたら今の時代に読む人には実感が難しいのかな、とも思います。
(若い方が「読んでみたけれど、ビデオとかダビングとか言われてもピンとこなくてあんまり怖くなかった」と言っていた、という話をネットで見たことがありましてな……)
貞子も、非常に深い悲しみを背負った人物として描かれていたし、貞子の母が能力を得たきっかけとされるエピソードも、民俗学的雰囲気が盛り込まれていてとても好きだったのです。
(その後に続くシリーズ『らせん』『ループ』はSF寄りになっていくので、私的にはちょっと好みから外れてしまうのですが)

『奇病庭園』(川野芽生/文藝春秋)
川野芽生さんは最近の最推し作家さん。その初めての長編小説。
とても素晴らしい物語でした。
この作家さんと同じ時代に生きていられて良かった、と思います。

頭に角が生える、あるいは背中に羽が、指には鉤爪が……という人物たちが登場する、異世界を舞台にした純度の高い幻想文学です。
磨き抜かれた美しい文章によって、この世ならぬ世界の甘美さと残酷さを堪能することができました。
しかし同時に、現代に生きる自分たちのこととして引きつけて読むことのできる作品でもあります。
怪奇幻想を愛する人にはもちろん読んでいただきたいし、今の世の中に生きづらさを感じている人にもぜひ読んでもらえたら……と思いました。

毎年、同人誌仲間で「その年一番良かった本」を発表し合うのですが、私はこちらの本を選びました。

10月

『本の幽霊』(西崎憲/ナナロク社)
装丁がとても素敵な一冊。
まるで古書のような趣です。

ディケンズの古書みたいですよね

中身もそれにふさわしく、現実をベースにしながらもふわりと気軽に地上を離れてゆく、そんな短編小説が6編収められていました。
 「本の幽霊」
 「あかるい冬の窓」
 「ふゆのほん」
 「砂嘴の上の図書館」
 「縦むすびのほどきかた」
 「三田さん」
タイトルを並べてみるだけでも、味わい深いです。
「本の幽霊」と「縦むすびのほどきかた」が特に好みでした。 

9月には文学フリマ大阪がありましたので、そこで購入した作品を10月、11月によく読んでいました。
その感想についてはこちら。

感想にはまとめられませんでしたが、下記の本もとても良かったです。
 ゴタンダクニオ『詩集 水の反映』
 古井フラ『音としてひとつ、手のひらにのる』
 筒井透子『群青の余生』

11月

漫画『風街のふたり』1、2巻(カシワイ/双葉社)
オールカラーで綺麗な漫画、色使いがすごく好き。

優しい表紙です

海辺の街に暮らす老いた画家と、親の仕事のために引っ越しを繰り返している少女との交流が描かれ、記憶にまつわる物語が展開されます。切ないところもあるけれど、心がほっと落ち着くようなお話でした。

『異形コレクション 乗物綺談』(井上雅彦監修/光文社文庫)
いつも大好き異形コレクションの最新刊。

どこに連れて行かれるかわからない乗物!

乗物をテーマにした作品が集められています。特に好きだったのは下記の作品。 
「可愛いミミ」久永実木彦 
「封印」坂崎かおる 
「車の軋る街」大島清昭 
「くるまのうた」澤村伊智」
 「電車家族」(柴田勝家) 
「車夫と三匹の妖狐」(上田早夕里) 
「キャラセルは誘う」(黒木あるじ)

『本の背骨が最後に残る』(斜線堂有紀/光文社)
異形コレクションに掲載された作品を集めた一冊。

虜になってしまいますねー

斜線堂有紀さんはSFやミステリーも面白いのですが、私はやっぱり異形コレクションに掲載されている怪奇幻想系のお話が一番好きで。
初出時にも楽しんで読んだ作品たち、一冊にまとまったのをあらためて読むと、また違った良さがありました。
収録作品は下記の通り。
 「本の背骨が最後に残る」(初出・『蠱惑の本』)
 「死して屍知る者無し」(『秘密』)
 「ドッペルイェーガー」(『狩りの季節』)
 「痛妃婚姻譚」(『ギフト』)
 「『金魚姫の物語』」(『超常気象』)
 「デウス・エクス・セラピー」(『ヴァケーション』)
 「本は背骨が最初に形成る」(書き下ろし)

どれも残酷だけれど、切なさを伴うお話が多かったですね。
物語を語る人間が「本」と呼ばれる世界を舞台にした、「本の背骨が最後に残る」と「本は背骨が最初に形成る」は、よくこんな設定を思いつくな……というくらい奇抜で素敵です。
「本」たちが己の語る物語の正当性を競う「版重ね」にはミステリ的な要素もあってゾクゾクしながら楽しめました。
またこのシリーズを書いていただきたいな。
その他では「痛妃婚姻譚」と「『金魚姫の物語』」が特に悲しみが深くて印象に残ります。

12月

『竜岩石とただならぬ娘』(勝山海百合/ダ・ヴィンチMF文庫)
勝山海百合さんの初期短編集。
今年、『幻想と怪奇 ショート・ショート・カーニヴァル』に掲載されていた「あかつきがたに」を読み、こういう作品をもっと読みたいなあ、と思いました。
そういえばこの短編集は読んだことなかった!と慌てて購入。
現代日本や昔の中国を舞台にした、ほのかな怪異の物語。
やっぱりどれもとても好きなお話ばかりでした。

『ゴシックハート』(高原英理/ちくま文庫)
こちらはしばらく積んでしまっていたのですが、急に「あ、今なら読めるかも」と思って読了。
(積んである本って急にこちらを「呼んでくる」こと、ありますよね)
「ゴシックな意識」についての評論で、「人外」「怪奇と恐怖」「残酷」「猟奇」「両性具有」人形」「廃墟と終末」……といった章題を眺めるだけで心がときめいてしまいます。
私自身は完全な「ゴシック者」とは言えないのですけれど、自分が好んで読む本や書いている小説のはしばしに影響があるなあ、とあらためて認識しました。

『八本脚の蝶』(二階堂奥歯/河出文庫)
こちらも長らく積んであった本。

八本脚の蝶

購入したものの、自死された女性編集者のブログ日記をまとめた本……ということで、少しハードルが高くなってしまっていました。
上記の『ゴシックハート』のエピローグで言及されていたため、とうとう読む日が来たかな、と。
ある程度、重たい内容であることは覚悟しつつ。
しかし読んでみたら、もちろん重たさは皆無ではないけれど、それよりもこの筆者の怜悧な思考回路と深い思索に圧倒されました。
自分の苦しみをこんなにも冷静に、研ぎ澄まされた文章で書くことのできる人がいるのか……と。
本当に死の直前まで、その明晰な意識は途切れないままで、おそらくそれこそが彼女のもっとも深い苦しみだったのかな、と思います。
(発狂することもできない苦しさ)
何も知らない私には、あれこれ言うことはできないけれど。
でも、もっと生きていてほしかった、というのが一番の思いでした。
この人の書く文章をもっと読みたかった。
エッセイや評論はもちろんのこと、小説でも素晴らしいものが書けただろうと思う。
(実際、掌編小説めいた部分が日記には数多くありました)。
そして何より、書くことによって生き延びてほしかった。
小説を書くことによって必ずしも自死が防げるということはないけれど、私自身についていえば、自分の日常や意識から離れた別の世界を書くことによって死なずに済んできた……という面がありました。
ただ、彼女は「自分は物語をまもる者」と自らを定義しており、自分で物語を書くことができない理由も書いています。
それを読むと、さらに切なかった。
「作者はお話に責任を持たなければならない。
その頃私はお話を書いていたから、その責任は重大だった。
私が一文『戦があって沢山の人が死にました』と書いたら(そんなことは書いていないが)、その瞬間私は沢山の人を殺すのだ」
(二〇〇二年一二月五日(木)その二より)

『猫路地』(東雅夫編/日本出版社)
2006年刊行で少し前の本ですが、Twitter(X)でどなたかが紹介されていたので初めて知り、購入。

猫路地に迷い込みたい

「猫好き作家に20名による猫ファンタジー競作集」(帯より)とあっては、猫好き・ファンタジー好きとしては外せないです。
中でも良かった作品は以下の通り。 
「猫火花」加門七海 
「猫書店」秋里光彦 
「猫坂」倉坂鬼一郎 
「猫寺物語」佐藤弓生 
「魔女猫」井辻朱美 
「猫波」霜島ケイ 
「猫視」梶尾真治 
「蜜猫」皆川博子

以上になります。
今年もいろいろ読みました。
来年、2024年もたくさんの本を読んでいきたいと思います。
(了)


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